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社員研修をオンライン化したことで起きる製造現場とのズレ

目次
はじめに
昭和から続く日本の製造業は、現場力の高さと人の手によるきめ細やかな対応力が強みでした。
しかし、2020年代に入ってからはデジタル化、DX(デジタルトランスフォーメーション)の波が一気に押し寄せ、各企業とも現場の働き方や業務フローの抜本的な見直しを迫られています。
その流れの一つが、社員研修・教育のオンライン化です。
COVID-19の流行も後押しし、今やオンライン研修は「当たり前」になりつつあります。
一方で、「オンライン研修に移行したことで、製造現場と管理部門・本社側との“ズレ”が拡大した」という声もしばしば聞かれます。
この記事では、現場目線・管理職経験に基づくリアルな課題認識と、解決へのアイデアを提示します。
「なぜ現場とズレが生じやすいのか」「どのような対策が現実的か」「オンライン時代の新しい育成のカタチとは」について、現場感を重視して考察します。
オンライン研修普及の経緯と業界特有の事情
なぜオンライン研修が急速に導入されたか
パンデミックにより、多くの企業は対面での集合研修が不可能になりました。
特に大手製造業ではグループ会社、サプライチェーン全体にわたる研修が多く、人の移動や集合を極力減らす必要がありました。
また、デジタル化推進担当やDX推進室の新設により、「業務効率化」「コスト削減」「データ活用」という経営層からの要請も強くなりました。
結果として、LMS(Learning Management System)を導入して研修動画をオンデマンドで配信したり、Web会議システムでのリアルタイム研修を行う企業が急増しました。
製造業の現場が抱える“アナログ文化“の根深さ
しかし、日本の製造業は「現場・現物・現実(3現主義)」を重んじる昭和以来の風土があります。
例えば、現場で工程改善のために5Sやカイゼンの指導をする際、OJT(現場教育)による“体感”や“感覚のすり合わせ”が非常に重視されてきました。
研修においても「先輩の背中を見て覚えろ」「現場で汗をかいて、機械や素材のクセを感じろ」といった暗黙知の伝承が価値とされがちです。
この「アナログな現場の強さ」が、日本の品質や信頼性を下支えしてきた側面も否定できません。
オンライン研修と現場との“ズレ”の実態
理解力・習得度の可視化が表面的になりやすい
オンライン化で最も大きな落とし穴は、「学んだ内容が現場でどの程度身につき、実践できるのか」が見えにくくなる点です。
従来の対面研修では、受講者の表情や間のリアクション、実際の手元作業の精度などから、講師や現場リーダーが“理解度”をその場で推定できました。
オンラインでは、受講者がカメラ越しにリアクションを示せなかったり、動画を流しっぱなしで他の作業をしている可能性も否定できません。
また、ペーパーテストやeラーニングの「小テスト」で高得点を取っていても、現場でその知識を本当に応用できるかはまた別の問題です。
これが、管理部門が「しっかり教育したつもり」、現場側は「いまいち自信がない」「現場感とは違う」とズレを感じる大きな要因になっています。
双方向性・“暗黙知”の伝承の壁
現場特有の技能(目利き、修理ノウハウ、ちょっとした段取りのコツなど)は、動画やマニュアルだけではなかなか伝わりません。
たとえば、ベテラン作業者が部品の微妙な擦れ音で「異常」を察知する。
あるいは、手の力加減や作業の体重移動でムダを見抜き、工程改善する。
こうした“身体知”をオンラインで教えるのは非常に困難です。
講師が「質疑応答」の時間を設けても、受講側が“製造現場ならではの深い質問”をオンラインで積極的に投げかけるケースは少なく、結局「表層的な問いに終始しがち」という現実も根強く残っています。
現場と本社の“温度差”が拡大
本社管理部門やDX推進担当は、オンライン研修導入による業務効率化や受講履歴のデータ化、コスト削減効果を強く評価しています。
一方で、現場リーダーや作業者は、「本社の人は現場の苦労をわかっていない」「型どおりの知識だけが増え、応用力や現場適応力は弱くなった」と不満を持つことが少なくありません。
これが、現場側とオフィス側の“見えない壁”として意識されはじめているのが現状です。
実際に現場で起きている課題と事例
カイゼン提案や安全対策の弱体化
多くのメーカーで、現場カイゼン(改善)活動におけるアイデアの質が下がったという報告があります。
その一因として考えられるのが、OJTの減少や、暗黙知の継承不足です。
オンライン研修で共通知識や安全ルールの座学は習得できても、「その場の状況判断」「手順外のヒヤリ・ハット事例にどう対応するか」といった“リアルな判断力”は現場体験に基づきます。
製品事故や品質不具合の発生要因も「新人がオンライン研修で習った知識の応用ができなかった」ケースが散見されます。
ローテーション研修の価値低下
大手メーカーでは、新人~数年目の社員を複数部署で経験させるローテーション研修が一般的でした。
職場や設備の“匂い”、“空気感”を知り、人間関係や同世代の仲間作りにも大きな意味がありました。
しかし、オンライン中心になると、「どの職場も似たような動画視聴やレポート提出ばかり」という印象が強くなり、現場配属後の“文化的適応力”が低下しやすくなります。
現場指導者(先輩社員)の負担増加
オンライン研修を本社主導で標準化すると、「現場で個別指導やフォローアップが必要になる部分が増え、結局は先輩の手間が増えた」という現象が発生しています。
OJTの時間が減り、作業指示だけが増えることで、育成上のコミュニケーションが不足しやすいです。
“ズレ”を解消するための現実的なアプローチ
現場のリアルな声をオンライン研修に反映する
本社または研修企画部門が独断でコンテンツを作成するのではなく、現場のリーダーやベテラン社員を企画段階から巻き込むことが重要です。
「この動画で伝えたい“現場ならではの工夫”はどこか」「現場目線で必要なTIPS集」「失敗事例の体験談」などを盛り込むことで、納得感と実用性が大きく向上します。
また、フィードバックサイクル(アンケート、オンライン座談会、現場見学の映像共有など)をシステムとして埋め込むことが、長期的な差別化に繋がります。
現場OJTとのハイブリッド運用
オンライン研修=万能という思い込みは危険です。
効率的なナレッジ伝達や標準化すべき項目はオンライン、それ以外の“経験に根ざした学び”は現場OJTでバランス良く対応することが必要です。
・オンライン:座学、安全ルール、標準作業書の理解、基本的な品質管理(QC7つ道具など)
・OJT:実際の設備操作、異常対応、カイゼン活動、現場会議・グループワーク
といったように、役割分担を明確にして、双方を連携させる運用が勧められます。
現場の“暗黙知”を形式知へ変換する新たな仕組み作り
LINEやSNS、社内チャットツールなどを活用し、現場の「成功・失敗事例」「カイゼンTIP」などの小ネタや気づきを“映像+コメント付き”で蓄積・共有しましょう。
これを「非公式オンラインOJT」「現場発ナレッジ動画」と呼び、ベテラン社員を巻き込んだ形で推進することで、若手社員の“現場力”も底上げしやすくなります。
DX時代の人材育成、新しい常識を考える
“オンライン+現場”でラテラルシンキングを鍛える
オンライン研修は“知識習得効率”の向上には極めて有効ですが、変化の激しい時代の製造業では、「答えのない問題に挑む姿勢」が求められます。
そのためには“現場そのもの”の多様な視点、つまりラテラルシンキング(水平思考)を『リアルとバーチャル』双方から育む仕掛けが重要です。
例えば
・現場課題の“仮想討議グループ”(オンラインミーティングで工場横断メンバーが知恵を出し合う)
・バーチャル工場見学、3Dシミュレーションによる設備・プロセス理解
・現場見学の際に、現場とリモート双方のコミュニケーション機会を設ける
などです。
現場体験型リモートワーク・バーチャル工場の時代へ
既存のオンライン研修の枠を乗り越え、IoTセンサーやウェアラブルカメラ、MR(複合現実)を活用した“現場体験型オンライン”の研修も注目されています。
実際に手順を説明しながら、ベテランがカメラで現場の“空気感”を共有する、リアルタイムで手元指導をライブ配信するなど、新時代の育成が産業界でも加速しています。
まとめ
製造業界のオンライン研修は、今後も高度化し、不可逆的に進化していくことは間違いありません。
しかし、その中で「現場とのズレ」を感じる現象は、単なる一時の問題ではありません。
現場感を重視し、現場ならではの知恵・工夫をオンライン時代にどう融合させるかが、業界全体の競争力の命運を分けるでしょう。
現場・バイヤー・サプライヤーそれぞれの立場で、「オンラインと現場、どちらだけでは完結しない」ことを理解し、柔軟に組み合わせてこそ、昭和の良さと現代の技術革新を両立できます。
一人ひとりの成長が、製造業の強さを支える――その原点を見失わず、次世代の人材育成をアップデートしていきましょう。