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海上輸送における共同海損請求の流れと回収を早める実務対応

目次
はじめに:海上輸送と共同海損請求の現実
日本の製造業は、サプライチェーン全体において多様なリスクマネジメントが求められます。
その中でも海上輸送は、原材料や部材、製品の大動脈として位置付けられています。
一方で、海上輸送には老舗の慣習や独特のアナログ文化が根強く残っており、ときには「昭和体質」とも言われる、理不尽に感じるようなルールや手続きが存在するのも事実です。
共同海損(General Average:GA)はその代表例と言えるでしょう。
共同海損とは、船舶や貨物が危機に瀕した際に、損害や費用が全利害関係者(船主・荷主など)に公平に分担される、海上輸送独特の制度です。
多くのバイヤーやサプライヤーにとって、「一体これは何なのか?」「なぜこんなに手続きが煩雑なのか?」「なぜ自分まで追加費用を負担しなければならないのか?」という疑問を感じることがあるでしょう。
この記事では、現場視点で共同海損請求の流れやその本質、混乱を減らし、回収・対応をスピードアップさせる具体的な実務ノウハウを解説します。
特に、製造業のバイヤー・サプライヤーの目線に立って、現場ですぐ活かせる情報を厳選しています。
共同海損(General Average)とは何か?
共同海損の基本的な考え方
共同海損は、紀元前から続く「危機管理の知恵」がベースとなっています。
たとえば、荒天や火災などで船や積荷が危険にさらされた際、船長の判断で積荷の一部を海中に投棄した場合、あるいは牽引・消火等で費用が発生した場合、この“全体を守るために一部を犠牲にした行為”にかかった損失や費用は「その航海に関与した全関係者」で分担しよう、という考え方です。
重要なのは、「事故発生時、その場の費用・責任を一方的に押し付けない(Win-Loseにしない)」というフェアネスの精神である点です。
どんな時に共同海損が発生するのか
代表的な共同海損発生の事例は以下のようなものです。
– 荒天による積荷の一部投棄
– 火災発生時の消火活動(貨物への損害や消防活動のコスト)
– 座礁や漂流被害の復旧・曳航費用
– 故障や事故による港外滞留や修理費
こうした事態が発生した船は、船長の「共同海損宣言」によって、本格的な分担手続きに移行します。
共同海損請求の基本的な流れ
1. 事故発生〜現場での初動対応
事故が発生した場合、まず船会社やフォワーダーは関係者に事故内容を通達します。
続いて「共同海損宣言(Declaration)」がなされ、関係する荷主・貨物受取人宛に状況と今後の手続き案内が届きます。
パニックになりがちですが、ここで冷静に、
– 事故内容(発生場所・概要・原因)
– 自社の貨物が該当するか
– 影響範囲・損失見込み
の3点を早急に把握しましょう。
2. 保険会社・アジャスターへの連絡
現場で重要なのは「貨物海上保険の有無」と「アジャスター(損害査定人)」の選定です。
保険付保の場合は、速やかに保険会社に通知し、事故報告・証拠書類(BL、インボイス、パッキングリスト、損害写真etc)を纏めて提出します。
これが遅れると、交渉や回収が大幅に遅延します。
アジャスターは、事故原因・損害額・分担額を計算する専門家で、保険会社が指定することもあれば、船会社や第三者が指名するケースもあります。
3. 共同海損保証(GA Bond/Guarantee)の提出
共同海損が宣言されると、荷主側は「貨物引き渡し前に保証書を提出せよ」と通告されます。
これを提出しないと、貨物が港に到着しても引き取れません。
提出する書類は多くの場合、
– 貨物保険会社発行の共同海損保証書(GA Guarantee)
– 通常は荷主が自ら提出する関税保証書(GA Bond)
– 貨物明細書(Shipping documents)
の2〜3点です。
この書類取得の事務手配が遅れると、貨物ピックアップが滞り、サプライチェーン全体に影響します。
4. 共同海損分担額(Contribution)の確定と請求
アジャスターが共同海損分担額を計算し、各関係者に通知します。
この分担額は、貨物価値、本船修理費、救助コスト、荷主・船会社が負担した費用などを基に細かく割り振られます。
多くの場合、分担額は保険でカバーされますが、未付保の場合は荷主の自己負担です。
分担額支払後、貨物引き渡しや追加費用清算への手続きが進行します。
5. 保険金請求と回収
貨物保険会社経由でGA分担額を保険金として請求し、回収します。
そのための書類や社内承認フローが最後の壁です。
アナログ慣習が残る現場の課題とあるべき対応
業界の昭和的課題:なぜ実務が遅れるのか?
多くの工場現場や物流担当者、調達購買担当が感じているのは「共同海損関係の処理はとにかく遅い」「なぜまだ紙と電話なのか?」ということではないでしょうか。
– 船会社やアジャスターとのやり取りがFAXや書類郵送中心
– グローバル案件では英語書類、タイムゾーン違いでリアルタイム性に欠ける
– 船会社・保険会社・フォワーダー・通関業者・ロジスティクス部門など関係者が多く、「たらい回し化」
– 貨物明細や出荷証憑の追跡・提出が手作業中心でミスが多発
– 保険証券や現場報告のデータ化が進まず、担当者依存
これらは、まさにアナログ業界の“平成・昭和の残滓”そのものです。
現場力で切り拓く、実務対応のポイント
こうした現場課題を踏まえ、下記の対応が有効です。
-
保険証券・出荷書類はクラウド一元管理
FAXやローカルPC、紙書類に依存すると事故時に大混乱を招きます。
事故の有無に関わらず、保険証券やBL(船荷証券)、インボイス等の主要証憑はクラウド共有化・定型化を徹底しましょう。 -
実務マニュアルを定期的にアップデート
共同海損時の対応フローやフォーマットを定めた、社内実務マニュアルを作成し、定期的に見直すことが重要です。
アナログな手順や想定外の事例も、実体験を加えてPDCAサイクルを回しましょう。 -
事故報告系統の一本化
複数部署がバラバラに動くと証憑の重複や漏れが発生し、手続き遅延や誤解が生じます。
窓口担当・連絡チャネルを一本化し、フォワーダーや保険会社とのホットラインを確立しましょう。 -
デジタル化の推進と現場サポート
アジャスターや船会社にファイル提出を秒単位で行えるよう、スキャナー・電子署名・ファイル共有ツールをフル活用しましょう。
また、現場への情報共有・トラブル対応FAQもナレッジとして定期発信するのが効果的です。 -
リスク評価と対応コストの事前見積もり
共同海損は頻度こそ高くありませんが、企業の保険契約、サプライヤー評価(サプライヤーの輸送条件やインコタームズ)にまで響きます。
一度トラブルを経験したら、必ずサプライチェーンリスク評価に織り込むべきです。
バイヤー・サプライヤーの視点で知っておくべきこと
バイヤー側:交渉・コストコントロールの観点
海上輸送条件を定める際(特にFOB、CIF、DDPなどインコタームズの合意時)、
– どこまでが自社リスクか(保険付保範囲)
– 共同海損負担・実務リソースをサプライヤーやフォワーダーと明確にしておく
– 万一の際に誰がどの範囲まで素早く動けるか
を契約時から意識しましょう。
また、頻発するようであれば、サプライヤー側の輸送手段や船会社再選定の検討も視野に入れます。
サプライヤー側:バイヤーとの信頼形成・説明責任
サプライヤーの立場では、バイヤーから「これ以上コストを回収できない」「証憑が揃わない」と不信やトラブルを招きがちです。
– 共同海損制度そのものの説明責任を果たす
– 必要な書類や証憑、連絡先を常にリストアップ・事前提供
– 事故発生時は「進捗・対応策・見込み回収額」をキチンとストック・共有する
– 輸送会社・保険会社・アジャスターとは日頃から連携を深めておく
これが信頼関係の礎となります。
最新動向:デジタルシフトと今後の展望
近年、E-B/L(電子船荷証券)やブロックチェーンによる海運管理の流れが加速しています。
共同海損処理も今後はAIやRPA活用が見込まれ、世界的に手続きの透明化・迅速化が進みます。
– 電子証憑管理でGA分担・保険請求もオンライン化
– 船主・保険会社もデジタル連携志向にシフト
– サプライヤー・バイヤー同士のデジタル・コラボレーション強化
昭和的アナログ文化が変容していく時代を迎えつつあります。
まとめ:現場力×デジタルで海上輸送リスクに打ち勝つ
共同海損は、製造業のバイヤー・サプライヤー双方にとって“避けられない”特殊リスクであり、その正しい知識と段取り、デジタル対応力がサプライチェーンの安定化に直結します。
煩雑なアナログ作業も、現場で一歩先んじて「記録・連携・デジタル化」を推進すれば、回収の遅延や機会損失はおおいに減らすことができます。
本記事の知見を、皆さま現場の「実践的なバイブル」として活用いただき、より強靭な製造業サプライチェーンの実現につなげていただければ幸いです。
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