- お役立ち記事
- SNS活用を始めたことで情報発信が慎重になりすぎる
SNS活用を始めたことで情報発信が慎重になりすぎる

目次
SNS活用を始めたことで情報発信が慎重になりすぎる理由
製造業の現場がSNSを活用する意義と現実
近年、製造業でもDX化やデジタルシフトの一環としてSNSの活用が叫ばれるようになりました。かつては業界誌や展示会、既存顧客とのクローズドなやり取りが主流だった製造業でも、Twitter(現X)、LinkedIn、Facebook、YouTubeやInstagramなど、様々なSNSプラットフォームが情報発信の選択肢に加わっています。
「SNSを活用して自社の技術力や製品、事例をアピールしよう」という流れが発生すると同時に、一方で現場担当者や経営層、品質保証部門には新たな不安や慎重さが生まれてきました。
これは単なる「SNS慣れの問題」だけではありません。製造業ならではの“守るべき情報”や“特殊な調達・品質管理の現場事情”が複雑に絡んでいるのです。
なぜ製造業の情報発信は慎重になるのか
まず根底にあるのは、「製造業はBtoBビジネスが主であり、顧客情報や技術情報は企業の生命線」という厳トーンです。
現場ではノウハウや供給先、取引価格や品質管理体制など、表に出せない情報が多くあります。例えば自動車部品の調達購買なら、どの部品をどのサプライヤーからどんな条件で調達するかは極めて機微な内容です。
生産管理や品質管理の現場でも、「歩留まり改善事例」「検査自動化」など発信したい事例はありますが、その中にどこまで具体的な数字やプロセス、使用設備名、取引先名までを出せるかは慎重に検討する必要があります。
加えて近年はサプライチェーン全体でのセキュリティリスクも注目されており、「写真1枚、動画1本で十分に機密が漏れうる」ことも忘れてはなりません。たとえば最新鋭の生産ラインや自社開発治具が背景に写り込めば、競合他社や海外メーカーにアイデアが盗まれることも現実に想定されます。
SNSの双方向性が生む新たなジレンマ
SNSの最大の特長は「即時性」「拡散性」、そして「双方向性」です。
しかし製造業の現場担当者、特に調達・品質管理・生産技術などの管理者層にとって、普段慣れ親しまれているのはメールや社内システム、電話・FAXなどの“クローズドなトーン”です。SNSでの発言がネット上でどこまで広まるか、どんな人に見られるのか、その感覚が掴みきれないまま、社名・顔出しで発信することに抵抗を感じる人は少なくありません。
そして情報発信後、予期せぬ反響やコメントにどう対処するか、承認フローをどう設けるかなど、内部ガイドラインの整備も後追いで進んでいるのが現状です。
「バズったら困る」「顧客やサプライヤーの目が気になる」「自分の発言で会社の信用を損ねたら責任問題になる」など、心配が先立ち、どうしても“守り”の姿勢が色濃く残ります。
昭和的なアナログ気質とSNS活用の狭間で
製造業現場に根強い「出る杭は打たれる」意識
日本の製造業には依然として、「波風立てず目立たず、誠実にコツコツ積み上げることが美徳」という昭和的な企業文化が根強くあります。
特にバイヤー職やサプライヤーとの関係性を重んじる職場ほど、「余計なことを言って顧客や取引先を刺激したくない」という“顔色”と“和”を大事にしがちです。SNSで知見や事例をオープンに発信することが、「出しゃばり」「社内に余計な火種を持ち込むもの」と受け止められやすい空気があります。
また調達購買や生産管理の現場では、日々“情報の非対称性”の上に自社優位な立場を築いてきたケースも多く、「情報を発信しオープンにすることが利益相反になるのでは?」という疑念も根強いのです。
情報統制と責任意識の強さが慎重さを生む
企業によっては従来から「広報部門を通さない社外発信は厳禁」というルールがあり、現場担当者や管理者の自主的な発信が難しい状況も見受けられます。特にリコール情報や不良品の対応事例など、正しい説明と謝罪を求められる場面では、さらに細心の注意が必要です。
情報発信=「情報漏洩」や「炎上」に直結する危険もあるため、過去の痛い経験やSNS炎上事例を知っている現場ベテランほど、「うちは黙っていたほうが得」だと感じがちです。この過度な慎重さこそ、イノベーション創出や業界価値の向上を妨げている一因でもあります。
慎重さを逆手に取った現場発信の新たな地平
どこまで出すべきか――情報の線引きと自主基準の再構築
ただし、この慎重さこそ“現場ならではの現実認識”であり、むしろ製造業の強みを活かす発信スタイルに磨き上げる余地があります。
例えば、機密情報や顧客個別条件、独自ノウハウを安易に出さず、「業界や技術の発展」「自社の労働安全やBCP強化」「現場目線での課題・不便点」など、公開しても問題ないテーマで積極的に意見交換・課題提起を行うことは十分に可能です。
調達購買担当であれば、「自社が求めるサプライヤー像」「理想的な見積もり依頼方法」など業界目線のTipsを共有することで、サプライヤーへの啓発や求人力強化につながります。
また生産管理・品質管理であれば、具体的な歩留まり数値や工程詳細まで言及せずとも、「設備トラブル時の現場連携術」「ライン停止を防ぐヒヤリ対策例」など、どの現場でも有効なノウハウ紹介は可能です。
守るべきは“具体的な数字”と“個別顧客情報”
情報発信の線引きとしては、
・個別の顧客名や取引条件、数量、金額
・企業秘密(独自技術や工程、治具など特許にも絡む内容)
・不特定多数の前で会社を批判・誹謗するような内容
には引き続き慎重を期しつつ、“業界の健全な知識循環に貢献する温かい知見共有”にチャレンジするのがバランスの取れた発信スタイルとなります。
現場メリットを明確にした発信戦略へ
SNS活用は企業ブランディングだけでなく、現場の生産性や働く人の意欲向上、サプライヤーとの円滑な関係強化にも大きなメリットがあります。
例えば
・自社の現場改善活動の発信が、全国の同業者や若手エンジニアの参考例になり、業界全体の底上げを促す
・調達購買の悩みやサプライヤーへの要望発信が、より良いパートナー企業発掘に資する
・品質管理や生産管理現場の課題提起が、ソリューションを持つ新規サプライヤーとの出会いにつながる
といった実務効果も期待できます。
これにより「SNSは監視され叩かれる場」というネガティブ先行の意識から脱却し、“現場で働く人が誇りを持ち、仲間を増やしていく実践知”を積極的に発信する意味が芽生えてきます。
SNS時代に求められる現場発信の心構え
「守る」から「育てる」へのシフトチェンジ
SNS時代における現場発信は、単なる「会社の宣伝」や「現場美談の披露」では終わりません。イノベーションや課題解決を自社内だけで完結せず、広く同業・異業種と知恵を共有し、お互いを高めあう“知識循環”が肝要です。
そのためには、「情報漏洩を防ぐために黙る」だけでなく、「守るべき情報を意識しつつも、発信を通じて現場も業界も“育てる”」という新しい姿勢が必要不可欠です。
現場リーダーや管理職こそ“支援者”としての役割を
これからの時代、現場リーダーやベテラン管理職はSNS発信を“自分の主戦場”と捉える必要はないかもしれません。
しかし、若手や発信意欲のある担当者がいる場合には「この話題は社外でOK」「これは社外NG」「こう切り口を変えたら価値ある気づきになる」といった“部内コーチ”として声掛け・支援する役割が非常に重要です。
社内での「成功事例」「小さな課題」「改善エピソード」をセキュアにまとめ、社外向けに咀嚼し直すワークショップの実施や、投稿前の簡単なレビュー体制づくりも大きな助けになります。
まとめ:慎重さは前進のための知恵へ
SNS活用による情報発信で慎重になり過ぎるのは、製造業の現場ならではの“責任感”と“誠実さ”の証です。しかし、それに縛られてしまうだけでは、現場の知見や工夫、たゆまぬ努力の価値が世に伝わらず、業界のイメージ刷新も革新も起こせません。
大切なのは「何を守るべきか」の自主基準を整理しつつ、「どのように発信すれば業界・同業・サプライヤー・若手後進に役立つのか」を主体的に考え抜くこと。
皆さんの現場での経験・知恵・悩みの共有が、必ず次の世代やパートナー企業の成長につながります。SNSを“守りの鎧”とするのではなく、“現場を育て、業界に貢献する新たな武器”として活用していきましょう。