投稿日:2025年9月9日

サプライチェーン全体での温室効果ガス削減とSDGsのつながり

はじめに:サプライチェーンとSDGs、その密接な関係

製造業で働く私たちは、近年「サステナビリティ」や「SDGs」という言葉に触れる機会が圧倒的に増えました。

特に温室効果ガス(GHG)削減は、もはや小手先のイメージアップ施策ではなく、グローバル企業の生き残り戦略の中核になっています。

この流れは、顧客企業やバイヤーのみならず、サプライヤーという立場の私たち一人ひとりにも明確な行動変革を求めています。

この記事では、「サプライチェーン全体」でGHG削減を推進しながら、SDGs(持続可能な開発目標)実現にどのようにつながるのか、現場の視点も交えて深く掘り下げます。

また、昭和的発想から脱却しきれない現場でも着実に根付き始めたサステナブルな取り組みについても、そのリアルな最新動向をお伝えします。

GHG削減が製造業サプライチェーンに求められる理由

1. サプライチェーン全体で“見える化”しなければ達成できない

これまで製造現場では、「ウチは省エネやっているから大丈夫」「ウチ一社がやっても意味がない」という空気が根強くありました。

しかし、いま求められているGHG削減は「Scope 1, 2」だけでなく、「Scope 3」(=サプライチェーン全体の間接的排出)まで網羅的な把握と削減行動が不可欠です。

大手バイヤーの要求も厳格化しており、「取引先を含めてCO2排出量を提出してください」「サプライヤーの改善活動を審査します」といった声が現場に直接降りてくる時代になりました。

この“全体での見える化”が、従来の部分最適から全体最適への大きな転換点となっています。

2. サプライチェーン全体がSDGsの追求主体となる

SDGsが掲げる17の目標の中でも、「エネルギー(目標7)」「働きがい(目標8)」「気候変動対策(目標13)」などは製造業サプライチェーンに直結します。

単に環境・社会への取り組みを“CSR活動”として脇役扱いする時代は終わりました。

今や、“会社対会社”ではなく“サプライチェーン全体対社会”として、SDGsの達成主体は川上から川下、開発から廃棄に至るまで全プレーヤーに及びます。

その結果、「誰ひとり取り残さない」SDGsの理念どおり、グローバル調達・購買の意思決定プロセスの中で人権や労働環境、環境負荷削減がサプライヤー評価の筆頭項目となったのです。

温室効果ガス排出量可視化の具体的な手法と現場の課題

1. データ収集の現状:昭和的アナログからの脱却がキモ

GHG排出量削減プロジェクトに携わると気づかされるのが、「工場のアナログ文化による壁」です。

現場でよくある「月1回、紙の伝票でガス・電気の使用量を集計」「排水処理や廃棄物の量もExcelに手入力」といった風景は、残念ながら今も各地に存在します。

バイヤーから「GHG排出量を、ISO14064やサプライチェーンGHGプロトコルに沿って報告してください」と言われても、そもそも現場データが揃わない…。

この“現場アナログ病”は、温室効果ガス削減だけでなく、SDGs全体の推進に大きな足かせとなります。

2. 最新のデジタル化・自動化事例

しかし最近、スマートメーターやIoTセンサー導入、エネルギーデータをクラウドで一元管理するソリューションが普及しつつあります。

たとえば空調・コンプレッサー・搬送設備等のエネルギー消費状況をリアルタイムで可視化し、生産変動に応じて自動制御する工場も登場しています。

また中小サプライヤー向けにも、初期投資ゼロで始められるGHG見える化ツールや、バイヤー企業が主導する統合プラットフォーム提供といった“共創型”デジタル化が進行しています。

この流れは「昭和的アナログ文化」からの脱却と、「全体最適」への踏み出しにつながります。

サプライチェーン全体での温室効果ガス削減:成功事例と課題

1. 一体となったグリーン調達基準の制定

自動車、電機メーカーでは「グリーン調達ガイドライン」を策定し、サプライヤーにもGHG削減目標や改善計画の策定・報告を義務化しています。

現場の担当者にとっては、「これ以上書類が増えるのか…」と感じるかもしれません。実際、初期は“書類主義”に走りがちです。

しかし、実践現場ではこの「共通の目標」を掲げることで、材料調達から部品製造、物流、リサイクルに至るまで具体的な削減アクションが連鎖的に生まれています。

たとえば、調達段階で原材料比率やCO2排出原単位の低い物資を選択する、輸送単位の効率化やリターナブル包装への転換など、全員の意識が“つながる”ことが最大の成功要因となっています。

2. サプライヤー側の“巻き込み力”が強いほど成果も大きい

バイヤーが単に「やれ」と号令をかけるだけでは、サプライヤーの本質的な行動変化は起こりません。

現場に根付くSDGs・GHG削減への本気度は、次の2点で見極められます。

– サプライヤーの自主目標と現場改善提案があるか
– 川下(バイヤー)、川上(原料・物流業者)を交えた“双方向対話”になっているか

成功している現場では、毎月のミーティングで現場スタッフが「省人化自働化したことで○○kgのGHG削減に成功」「再生エネルギー調達を切り替えた」――そんな“小さな改善”の積み重ねを、業務プロセスとして定着させています。

このような“巻き込み力”が強まるほど、SDGsの「パートナーシップ(目標17)」も自然と体現されています。

SDGs目標とGHG削減活動:現場視点での深いリンク

1. エネルギー効率化のその先に、「ひと」と「社会」の価値

工場での省エネ投資・自働化投資は、コストメリットや労働力不足対応を狙って進められることが多いです。

しかし、SDGsの視点で見ると、「地球温暖化対策」や「産業イノベーション」「持続的な雇用安全」の全てが絡み合っています。

具体的には、

– 自動化による残業削減→ワークライフバランス向上(目標8)
– 化石燃料から再生エネルギー転換→地域と共生するグリーン経営(目標7・13)
– 廃棄物低減やリサイクル推進→循環型社会形成(目標12)

という具合に、GHG削減の取り組みは「エコだけがゴール」ではなく、現場で働く人の幸せや、地域社会との共存という“本質的な価値”まで波及しているのです。

2. サステナブル調達が製造業の経営競争力を左右する時代へ

今後、脱炭素社会への流れは全世界共通の潮流であり、サプライチェーン全体での温室効果ガス削減ができない企業は、顧客やパートナーから敬遠される時代です。

グリーン調達基準やGHG見える化は、手間やコストが伴うものの、信頼されるパートナーとなる“投資”であり、価格以外の新しい競争力となります。

また、GHG削減活動の実効性や独自のイノベーションが評価されると、新規取引やグローバル展開への道も開かれるのです。

サプライチェーン全体でGHG削減に挑むために、いま何から始めるべきか

1. まずは現場の「見える化」とデジタル化から

多くの現場では、データ収集そのものがハードルです。

エネルギー・CO2排出量の自動集計や報告ツールなど、まずは“記録する、見える化する”土台づくりを推進することが最重要です。

そのうえで、生産ラインや物流など現場で「一番効率が悪い」「ムダが生じている」と感じる工程への、ピンポイントな改善策(自動化、省エネ投資、リードタイム短縮など)が有効です。

2. 川上から川下まで“共創”で取り組みを進める

SDGs実現への近道は、「バイヤーからやらされる」のではなく、「現場が自主的に取り組む」文化を醸成することです。

具体的には

– 月例ミーティングや現場パトロールにSDGs視点を追加
– 優れた改善事例を社外に開示・共有(横展開)
– サプライヤー同士の勉強会や情報交換

など、「自分たちもサプライチェーンの一員だ」という認識を持ち、社内外の“見える化”“対話”“共創”を強化する姿勢が大切です。

まとめ:サプライチェーンSDGsの主役は「現場」である

サプライチェーン全体でのGHG削減とSDGs達成は、大企業の経営トップや購買部門だけでなく、現場スタッフ一人ひとりの“汗と知恵”に支えられています。

古いアナログ文化にとどまらず、デジタル技術による「見える化」、全体最適思考、さらには現場の自主的な巻き込みが、これからの製造業の競争力に直結していきます。

サステナブルなサプライチェーン改革は、製造業で働く私たち自身の“未来への挑戦”です。

この動きこそが、昭和から続くものづくりの伝統に新たな価値を加え、SDGsの達成と共に、次世代の日本の産業発展につながるのです。

読者のみなさんにも、「今日から自分の現場で何ができるか?」を一歩踏み出すきっかけとなれば幸いです。

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