投稿日:2025年8月19日

マルチカレンシー決済で為替変動リスクを低減するグローバル購買プロセス

はじめに:グローバル購買における為替変動リスクの現実

グローバル化が進む現代の製造業において、海外サプライヤーからの調達は避けて通れない道です。
コストダウンのため、資材や部品の調達先は日本国内から世界各地へと広がっています。
一方、バイヤーや調達担当者の頭を悩ませるのが「為替変動リスク」です。

たとえば円建てで見積りをもらったつもりが、実際は現地通貨建てで為替変動によるコスト跳ね返りが生じ、想定以上の支払いが発生…。
このような経験は、製造業に携わる方なら一度は耳にしたことがあるでしょう。
とくにアナログな商習慣が色濃く残る製造業界では、「為替リスクはやむを得ないもの」「運が悪かった」で片付けられがちです。

しかし、マルチカレンシー決済という新しい購買手法を導入すれば、こうしたリスクは大幅に減少できます。
本記事では、現場目線で分かりやすく「マルチカレンシー決済」の仕組みやメリット、グローバル購買プロセスに与える影響について解説します。

マルチカレンシー決済とは?

気になる仕組みと歴史

マルチカレンシー決済とは、商品の購入やサービス利用時に取引先の通貨(=現地通貨)、もしくは自社が選択した複数の通貨で直接決済を行える仕組みです。
近年はECサイトや大手金融機関、フィンテック企業の提供サービスが拡充し、海外送金や外貨決済に関する取引インフラが飛躍的に進化しました。

これまで、円建て決済に限定しないことでサプライヤー側も受け取りリスクや両替手数料の負担を下げられます。
買い手としても為替リスクや余計なマージンをカットすることができ、よりフェアで透明性の高い調達が実現します。

具体的な決済手法

実際の取引現場では、以下のような方法が主流です。

– 海外銀行口座を通じて現地通貨での送金
– 国際決済プラットフォーム(例:PayPal、Wise、Revolutなど)の活用
– 取引銀行によるマルチカレンシー口座の活用

取引先ごと、調達の金額や国・地域ごとに最適な方法を選び、無用なコストや手間を省きます。

製造業の為替リスク、実はかなり大きい現場課題

製造業の場合、資材原価のわずかな変動が最終製品の利益率に大きなインパクトを与えます。
たとえば自動車部品や精密加工品など、国際分業が進むジャンルでは、部品点数が増えるほどコスト管理が複雑化します。

現場では「先月と比べて1ドル3円の円安」で数千万円規模の原価変動が発生する、といった状況も日常茶飯事です。
特に昭和以来のアナログ的な商習慣では、契約書に「為替レート差額清算」の曖昧規定が多く、腹をくくって“時価決済”せざるを得ないケースが目立ちます。
これが、現場担当者の強いストレスや、経営層からの無理なコストダウン要請の温床になっています。

調達購買の現場はなぜアナログ化から抜け出せないのか?

購買現場がアナログな理由はさまざまです。
長年築き上げた取引先関係や独自の実務ノウハウ、管理ツール(エクセル、手書き帳票)。
こうしたものが積み重なって“変化への抵抗感”が生まれます。

また、為替変動リスクを社内外で十分に議論せず、「とりあえず見積書の端っこに“為替リスク調整”と書いておく」程度で済ませてしまう。
結果、為替変動時に“想定外”の損失に直面し、痛み分けになってしまうのです。

こうしたアナログ業務からデジタルシフトを進め、マルチカレンシー決済を導入することが、多くの企業にとって喫緊の課題になっています。

マルチカレンシー決済がもたらす現場の変化

1. 調達先多様化とコスト競争力アップ

為替リスクが標準化され、決済通貨に柔軟性を持たせると、調達先の幅がぐっと広がります。
たとえば、これまではドル建ての見積のみ対応していたサプライヤーも、ユーロ、人民元、東南アジア各国の通貨など多通貨取引が可能に。

新興国の優良サプライヤー発掘や、取引時の価格交渉・与信条件の自由度が広がり、コスト競争力の強化に直結します。

2. 経理部門・管理部門の業務効率化

従来は多通貨建て請求書→円換算→仕訳入力など工程も煩雑でした。
マルチカレンシー決済サービスを活用することで、決済・入金・請求管理を一元化。
為替発生時の差額調整やマージン発生のリスクも自動化・見える化できます。

導入初期は経理・購買担当者が新しいプロセスに慣れる必要がありますが、中長期的には標準化・自動化で大幅な工数削減が期待できます。

3. サプライヤーとの関係性強化

日本企業側の一方的な為替押し付け(円建て決済強要など)は、サプライヤーとの間に不信感を生みやすいものです。
取引時に柔軟な通貨決済を提案できれば、サプライヤー側のキャッシュフローも安定し、現地でのコスト見直しや業務最適化にも貢献できます。

お互いの利害調整がスマートに進むことで、長期的なパートナーシップ構築にも大いに役立ちます。

現場導入のポイント:どう進めるべきか?

最初の一歩は「小額トランザクション」から

製造業でのシステム刷新や業務改革は、規模が大きくなるほど抵抗感が強くなります。
まずは一部の海外サプライヤー、あるいは小額取引から試験導入し、業務フローの見直しやノウハウの蓄積を図ることが重要です。

全社方針としての標準化を意識する

バイヤー・調達担当者だけでなく、経理・財務部門やサプライチェーン管理部門とも連携し、会社全体として方針を統一することが大切です。
システム投資やベンダー選定を進める際も、「現場で使えるか」「管理工数は削減できるか」の観点から現状フローを丁寧に棚卸し、ステップを踏んで進めましょう。

社内外への情報発信・交渉力強化

サプライヤーや海外現地法人には、為替変動リスクの公平分担と、マルチカレンシー導入によるメリット(例:手数料削減、入金サイクルの短縮など)を丁寧に説明して合意形成を図る必要があります。

また、グループ全体としてガバナンスや契約管理のルール化も欠かせません。

成功事例から学ぶ:デジタルシフトの波

実際に、海外調達が主力の電子部品メーカーA社では、マルチカレンシー決済プラットフォーム導入により、海外子会社との調達コストが年間数千万円規模で圧縮できたという実例があります。
為替エクスポージャーの可視化によって、計画的なリスクヘッジ・リアルタイムでの為替予約も実現しました。

また中堅精密機械メーカーB社では、アジア各国のサプライヤーとの交渉力アップと調達合意の迅速化に貢献し、リードタイム短縮と在庫圧縮によるキャッシュフロー改善につながりました。

まとめ:製造業バイヤーこそ“為替変動リスクを味方につける”時代へ

製造業のグローバル調達は今、“アナログからデジタル”“単一通貨から多通貨”シフトの転換期にあります。
マルチカレンシー決済の導入は、単なる業務効率化やコスト削減にとどまらず、為替変動リスクを極小化し、より公平でダイナミックな企業間取引の基盤を築きます。

これからバイヤーを目指す方や、サプライヤーの立場でバイヤー心理を理解したい方は、「なぜ今マルチカレンシー決済なのか?」を経営・現場双方の視点から深く考えてみてください。
変革を恐れず、ひとつずつ現場で実践していくことが、製造業の未来を切り拓く原動力です。

為替リスクを“脅威”として受け止めるのではなく、“新たな競争力の源泉”として主体的に活用する――
そんな進化を、ぜひ現場から発信していきましょう。

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