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OEMトレーナーでブランドの世界観を体現するグラフィックデザインの考え方

目次
はじめに:OEMトレーナーが担うブランド表現の重要性
現代のファッション業界、特にスポーツやカジュアルウェアの分野では、OEMトレーナーがブランドのアイデンティティを表現する重要な商材となっています。
OEM(Original Equipment Manufacturer)とは、他社ブランドの製品を受託製造するビジネスモデルですが、単なる形状や素材選びだけでなく「グラフィックデザイン」が、ブランドの世界観をユーザーに伝えるうえで大きな役割を果たしています。
昭和から続く「ただ作れば売れる」時代は終わりを迎え、2020年代以降は、他社との明確な差別化や“思い入れ”、ストーリーをグラフィックに込めることが求められています。
この記事では、20年以上の製造現場経験をもとに、OEMトレーナーでブランドの世界観を体現するためのグラフィックデザインの考え方を、バイヤー、サプライヤー双方の視点から深掘りしていきます。
OEMトレーナーで表現されるブランドの世界観とは
ブランドが求める「世界観」の本質とは何か
ブランドの世界観とは「こうありたい」「こう見られたい」という理想像や哲学、商品を通じて顧客と分かち合いたい感情的価値を指します。
単にロゴを配置するだけでは、他ブランドとの差別化はできません。
たとえばストリート系ブランドなら「反骨精神」「自由」「都市的エッジ」、スポーツブランドなら「機能美」「挑戦」「一体感」といった価値観が、グラフィックやカラー、サイズ感、加工表現に反映されてはじめて「世界観」が成立します。
なぜトレーナーで体現するのか
Tシャツに比べて面積が広く、生地に厚み・立体感があるトレーナーは、刺繍やプリントのバリエーションが多く、ブランドイメージを強く投影できるキャンバスです。
着用頻度も高いことから、日常的にブランド体験を深めていくことができ、サプライヤーや工場側も「技あり」なデザイン提案がしやすいアイテムと言えます。
昭和から抜け出せないアナログな現場事情
現場で根強い「指示書主義」による弊害
日本の多くのアパレルOEM現場では、今なお「デザイン指示書」「仕様書」に従属したものづくり文化が根強く残っています。
これはブランド側の意志・イメージが言語化しきれない場合や、コミュニケーション不足に起因しやすく、サプライヤーサイドも「言われたことだけやる」から脱却できないケースが多いです。
このような現場では、繊細なブランドの世界観の“空気感”や、“ブランドらしさ”といった定性的な要素がグラフィック上に落とし込まれず、既存のレパートリーや過去の焼き直しに陥るリスクが高まります。
なぜOEM工場発のグラフィック提案が重要なのか
高度成長期~平成初期までの大量生産時代から、現在は「少量・高付加価値・独自性」を求められる時代です。
特に、ブランドのトレーナーやスウェットなどは“ロゴ主張・グラフィック勝負”の商材が人気です。
OEM工場・デザイナー側から積極的なグラフィック提案や、加工技術の新規開発なしには、他社との差がつきません。現場発で「こうすればブランドの世界観を拡張できる」と提案できることが、今後のサプライヤーには不可欠な力になります。
OEMトレーナーのグラフィックデザインを設計するポイント
1. 本質的価値が伝わるストーリー設計を意識する
生地やパターン、プリント技法、遊び心あふれるタグなど、細部ひとつひとつの工程が「なぜこのブランドはこのトレーナーを作るのか」「どんな顧客像に届けたいのか」という背景を語ります。
ブランドのストーリーを理解し、グラフィックに“理由づけ”できる要素(例:伝統的モチーフのアレンジ、環境配慮のメッセージ、スポーツの軌跡をイメージした幾何学模様など)を盛り込むことで、共感される一着となります。
2. 独自フォントやアイコンで“記号化”する
ロゴやブランド名をただ大きく配置するだけでなく、独自フォント、キャッチフレーズ、イラスト、パターン、シンボリックなカラーリングなど、瞬時に「〇〇ブランド」と認識できる要素を盛り込みます。
昭和的な「正確な写し」の技術をもとにしつつ、現場なりのアレンジ、カスタマイズ力が要です。
3. 微妙なバランスと抜け感を意識する
主張しすぎず、地味すぎない、“バズる”デザインにするには、全体のバランスが肝心です。
特にOEMでは「作りやすさ=大量生産しやすい」ことに引っ張られがちですが、裁断位置・プリントのかすれ具合・刺繍糸の艶感など、細部までこだわり抜いて設計します。
繊細なニュアンスを再現できる工場や職人がいることも差別化ポイントです。
4. グラフィックと加工技術の“掛け算”を意識する
発泡プリント、ひび割れプリント、ワッペン、立体刺繍、パッチワークなど、トレーナーならではの加飾手法とグラフィックデザインを組み合わせることで、ブランドの“らしさ”を体現しやすくなります。
例えば、企業の歴史年表を袖プリントで表現、ブランドメッセージを裏起毛面に「隠し刺繍」する等、技術提案とデザイン提案を両立させることが、OEMサプライヤーの腕の見せ所です。
トレンド動向とグラフィックデザインの実践的アプローチ
デジタル×アナログ発想の融合
現代のグラフィック作成はIllustratorやPhotoshopのデジタル入稿が主流ですが、デジタル上だけで完結させず、現場の肌感覚を活かすことが重要です。
たとえば、生地の毛羽立ちや厚みを考慮した線幅設定、洗濯による色褪せを前提にした顔料プリントデータ設計など、アナログな「ものづくり目線」にデジタル技術を融合させることで、他ブランドにはないグラフィック表現が可能になります。
定番×新しさ——“昭和の良さ”の再解釈
レトロスポーツ、90年代ロゴリバイバル、ビンテージ風のかすれプリントなど、近年は「昭和らしさ」をモダンにアップデートしたグラフィックが若い世代にも人気です。
昔ながらのプリント方法を最新機器でクオリティ高く仕上げる、「手刷り風」デジタルプリントで個性を演出するなど、時代を超えてブランドストーリーを語るデザインが鍵となっています。
SDGs/サステナビリティ視点でブランド価値を高める
最近は、オーガニックコットンを用いたトレーナーや、リサイクル素材を使ったトレーナーなど、環境配慮やエシカルのメッセージをグラフィックで伝える動きが加速しています。
「この一枚を選ぶことでポジティブな社会変化につながる」と感じさせるストーリー性と、分かりやすいシンボルマーク等のデザインが、ブランドの価値を一段高めます。
バイヤーとサプライヤー——双方の「考えていること」を理解する
バイヤーの視点:売れるデザインを見極める“勝負勘”
バイヤーは「売れる見込み」「自社ブランドにふさわしい世界観」「他社との差別化」を常に考えています。
“安全な無難路線”を取りたくなりがちですが、今の消費者は「このブランドらしさ」「語れるストーリー」があるかを重視します。
OEMサプライヤーからの斬新かつ根拠あるデザイン提案や、その製作プロセス・工場のものづくり哲学にも付加価値を感じています。
サプライヤーの視点:課題解決型クリエイティビティ
サプライヤーは「どの工場で何ができるか」「技術の強みをどう表現に活かせるか」を常に考えています。
仕様書通りのものづくりに終始せず、生地やプリント、刺繍の「現場知」をブランドの世界観に結びつけ、サンプルやラフ描きで積極提案していく姿勢が求められます。
バイヤーが“言語化しきれない”世界観やニュアンスを具体的な加工技術・サンプルで「翻訳」することが、信頼獲得に繋がります。
まとめ:ブランド世界観を体現するためのOEMグラフィックデザインとは
OEMトレーナーでブランドの世界観を体現するためには、現場のリアルな肌感覚と、時代の空気や社会的価値観、デジタルとアナログのノウハウを総動員する必要があります。
キーは「ブランドの哲学をどう“見える化”するか」「作り手の誇りやストーリーをどこまで盛り込めるか」にあります。
昭和の伝統と令和の価値観を掛け合わせ、現場目線ならではの実践的グラフィックデザインを追求する——この蓄積こそが、これからのOEMサプライヤー、バイヤー、メーカーの競争力となるのです。
製造現場で働く方、これからバイヤーやサプライヤーを目指す方も、ぜひ「世界観を体現するグラフィックデザイン」という新たな地平線に挑み、業界全体の価値向上に貢献していただきたいと思います。
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