投稿日:2025年10月20日

お菓子の袋がシワにならないグラビア印刷と張力フィードバック制御

はじめに:グラビア印刷が生み出す美しいお菓子包装の舞台裏

お菓子のパッケージ。
その鮮やかな色彩や目を引くデザインは、商品の第一印象を左右する大切な要素です。
しかし、いくら美しいデザインであっても、袋にシワや歪みがあると、消費者の購買意欲は大きく削がれてしまいます。

パッケージの仕上がりを決定づけているのが「グラビア印刷」です。
特にお菓子の包装袋においては、フィルム素材の扱いが難しく、シワやズレが生じやすいという悩みがあります。
そのため、「印刷品質」と「袋の美しさ」を両立するには高度な技術と知恵が求められます。

ここでは、20年以上製造現場で培った経験をもとに、
昭和的なアナログ文化が根強く残るこの業界における現場目線の課題と、
これを解決する「張力フィードバック制御」を組み合わせた最新の現場実践について解説します。

グラビア印刷の概要とお菓子包装業界での役割

お菓子包装用のフィルム印刷では、主にグラビア印刷が用いられています。
これは、版に細かく彫り込んだセル(小さな穴)にインキを溜めて、フィルムに転写する方式です。

この方式の特長として、
・極めて高精細な表現が可能
・顔料の選択肢が広く、食品包材に適している
・インキ転写が安定しやすい
などが挙げられます。

一方で、用いる基材フィルムが薄く柔らかいため「伸び」「しわ」「蛇行」などのトラブルが日常的に発生しやすく、
印刷ラインの稼働安定や品質維持には、機械・装置だけでなく経験と勘も必要とされます。

なぜお菓子の袋はシワになりやすいのか?

お菓子の袋がシワになる主な原因は以下の3つです。

1. フィルム原反の張力不均一

フィルム素材そのものの厚さ・幅・ロール形状にばらつきがあることで、流れ方向の張力が不均一になりやすいです。
この張力バランスが崩れると、印刷時や巻取時に微妙な「緩み」や「引っ張り過ぎ」が発生し、
結果として袋詰工程で目立ったシワや蛇行につながります。

2. 温度・湿度の影響

工場内の環境が変化すると、フィルム自体の伸縮率も変わります。
特に、夏場・梅雨時期は吸湿・膨潤、冬場は乾燥による収縮が激しく、張力制御が一層難しくなります。

3. 印刷機・ライン設備の老朽化・アナログ制御

長く使われた設備はロールやテンション機構部が摩耗したり、油圧・空圧・電動ブレーキなどが経年劣化したりします。
また、昔ながらの「熟練者の手動調整(勘と経験)」もシワ発生リスクにつながります。
特に昭和時代から継承されてきた工場では、これらの業歴重視の運用スタイルが今も色濃く残っています。

現場目線で見る「張力制御」の本質

では、どのようにシワ発生を防ぎ、お菓子パッケージを美しく仕上げるのか。
その要となるのが「張力制御」、つまりフィルムにかける力を一定に保つ技術です。

日本の製造現場では昔も今も「張力管理表」や「テンション計」などを使い、
人力と経験でコントロールしてきた歴史がありますが、
現代はこれに最新の「張力フィードバック制御」が加わりました。

アナログ制御の強みと限界

熟練オペレーターの「音を聴く・においを嗅ぐ・ロールに触れる」といった五感力は、
昭和から積み上げられてきた日本の現場力の象徴です。
しかし、ヒューマンエラーや個々のノウハウ属人化は避けられません。

また、技能伝承や若手育成という観点でも「人に頼り切る」時代は終わりつつあります。

デジタル制御の強みと展望

センサーやエンコーダー、電子制御クラッチなどによる張力フィードバック制御は、
ラインスピードや原反重量が大きく変化しても「自動的に目標張力」を維持できます。
これにより、「人」に依存せず24時間365日、一定品質の袋を量産可能となります。

特に近年は産業用IoTやAIも導入されており、
クラウドの品質モニタリングや、予防保全・トラブル予兆検知など次なる効率化も始まっています。

張力フィードバック制御の実践的導入ステップ

ここからは現場経験をもとに、「どのように張力フィードバック制御を導入し、現場に根付かせていくか」を具体的に解説します。

1. 現状の設備診断と弱点把握

・現行ラインでの主なシワ発生ポイントを洗い出す
・フィルム原反特性・ロール径・ブレーキ力など数値で「見える化」する
・過去のトラブル履歴やクレーム内容を点検する

2. フィードバック制御装置の選定

・既存設備に後付できる張力センサーの有無を調査
・速度変化、巻き径変動時の応答性や耐久性、保守コストを評価
・オペレータの操作性(現場に馴染むかどうか)にも注目

3. テスト導入とパラメータ最適化

・数日~数週間かけて、実際の原反・デザインでテスト印刷運転
・張力値、シワの発生率、歩留まりを日毎・ロット毎に記録
・万一トラブルが出た場合は、「どの荷重・どの気温・どの速度時」に「どのロール区間」で起こったか詳細に分析する

4. 現場教育と運用ルール整備

・シフトリーダーや若手オペレーター向けに「張力制御の理論」「トラブル時の処置手順」を周知
・操作パネルの日本語表記化、チェックリスト化、シフト引継ぎノートなどアナログ面との融合も工夫する

5. ライン全体最適化と定期的な再評価

・印刷ラインだけでなく、「袋詰」「梱包」「出荷」まで一貫した品質保証体制を構築
・半年単位、製品仕様変更時などに見直し会議を行い、現場からの改善提案も吸い上げる

張力フィードバック制御がもたらす現場の進化

張力フィードバック制御の導入により、
以下のような現場革新を実感できます。

・歩留まり向上とコスト削減

シワ・折れ・蛇行品の大幅減少により、「ヤレ」(ゴミ)や「再印刷」のコストが激減します。
印刷ライン・袋詰ラインともにライン停止回数が減り、トータル生産性が向上します。

・オペレーター育成の効率化

「職人技」を頼り切らずとも、標準化されたパラメータ値と自動記録によって、
若手・新規採用者も短期間で即戦力化可能となります。

・顧客信頼の獲得

納入先への品質保証データ、安定したパッケージ外観により、「この工場の商品は袋が綺麗!」と高い信頼が得られます。

サプライヤー・バイヤー・現場が意識すべきこと

グラビア印刷現場で品質を守るためには、
サプライヤー(フィルムメーカー・印刷工場)、バイヤー(メーカーやブランド担当者)、
そして現場オペレーターが「同じゴール」を持つことが重要です。

・原反ロットの安定供給を共同で目指す
・仕様変更時は、現場工程負担や張力への影響も十分考慮する
・生産合理化と品質維持の両立を話し合い、“現場の声”をバイヤーもサプライヤーも傾聴する

この三位一体の協働姿勢が、競争力あるものづくりの基盤になります。

最後に:昭和から令和の製造業へ――新たな地平線を切り拓くために

日本の製造業、とくに印刷・包装業界では「人の技」に長く頼る文化があります。
それは大事な価値観であり、現場で働く誰もが誇りに思う伝統でしょう。

しかし時代は、AIやIoTの時代に突入しています。
新しい「張力フィードバック制御」などデジタル技術を柔軟に採り入れ、現場力と融合させることで、
昭和の“勘と経験”だけでは到達できない品質・効率・省力化の新たな地平線が見えてきます。

お菓子の袋がシワにならない――そこには、技術者たちの創意工夫と現場の進化が詰まっているのです。
ぜひ、あなたの現場でも“現場目線の変革”に一歩踏み出してみてください。
ラテラルシンキングで考え続ければ、製造業の未来はきっと、もっと面白くなるはずです。

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