投稿日:2025年10月10日

お菓子の袋がシワなく印刷されるグラビア印刷とフィルム張力管理

はじめに:お菓子袋の美しさは偶然ではない

お菓子やスナック菓子の袋を手に取ったとき、鮮やかな色彩と滑らかな表面に目を奪われた経験はありませんか。

その美しさは、ただデザインが優れているからではありません。
実際には、「グラビア印刷」という精密な印刷技術と、「フィルム張力管理」という高度な制御技術の結晶なのです。

本記事では、大手製造業現場で20年以上にわたり調達購買や生産管理、品質管理に携わった筆者の視点で、グラビア印刷とフィルム張力管理の現場秘話、さらに現代でも根深く残るアナログ流儀と変革の兆しまで、実践的に解き明かします。

バイヤー志望の方、サプライヤー、現場従事者、それぞれの視点で役立つ知見を提供します。

グラビア印刷とは?:滑らかな袋を生む技術

グラビア印刷のしくみとメリット

グラビア印刷は、シリンダーの表面に微細なくぼみ(セル)を彫りこんで、そのくぼみにインクをため、フィルムに転写して柄や色を再現する方式です。
その特徴は、高精度な階調表現と鮮やかな大面積印刷、連続大量生産に非常に適していることです。

お菓子のパッケージに多色刷りやきめ細やかな絵柄が多い理由もここにあります。
輪転タイプは時速100m以上の高速生産も可能で、市場に迅速に商品を送り出すための基盤になっています。

シワが発生しやすい課題

一方、グラビア印刷ならではの課題もあります。
フィルム原反(基材)が薄くしなやかであるため、印刷機械で高速で搬送すると「フィルムの蛇行」「伸び・たるみ」「シワや巻きズレ」が発生しやすいのです。

これらを抑え込むためには、機械の設計や制御も大切ですが、現場作業者の「眼」と「手の感覚」も重要。
現代においても、昭和時代から続く現場ノウハウが数多く受け継がれています。

フィルム張力管理の重要性

なぜ張力管理が必要なのか

フィルムを印刷する際、素材に一貫したテンション(張力)を持たせなければなりません。
張力が強すぎるとフィルムが伸びて絵柄が歪む、弱すぎると蛇行・たるみ・シワの原因となります。

グラビア印刷ではフィルムへの着色を何色も重ねていくため、少しの張力変動でも色ズレや仕上がり不良につながります。
工程間で微妙なバランス調整が必須です。

張力はkgf(キログラムフォース)やN(ニュートン)でコントロールされますが、根底にあるのは「印刷機のロール間でいかに一定に保つか」の戦い。
これは単なる数値制御ではなく、機械ごとのクセやフィルムのロットごとの差、温湿度環境など複合的な条件を管理する高度な知見が求められます。

現場視点のフィルム張力管理ノウハウ

1. 素材ごとの最適テンション
PP、PET、ナイロンなど各種フィルムごとに最適な張力値が微妙に違います。
同じプラスチック系でも、厚みやコーティングの有無で最適値は変わります。

2. ロール交換時の注意点
溶断式や空圧式などさまざまなブレーキ方式で、急激なテンション変動を防ぎます。
交換後は目視と手触りで小さな「たるみ」も見逃さない観察力が必要。
自動制御だけに頼ると、思わぬトラブルを見逃しかねません。

3. 印刷速度の可変制御
高速印刷の合間に徐々にスピードダウンして温度と張力を馴染ませる「ランニングイン工程」など、ベテラン現場では当然のように取り入れています。

自動化の最前線:張力制御技術の進化と課題

デジタル張力管理装置のしくみ

近年、張力制御は自動車工場並みのインテリジェンスへと進化しています。
ロードセルでリアルタイムに張力を測定し、フィードバック制御でモーターやブレーキを自動調整する仕組みが主流になりつつあります。

製造ラインにIoTセンサーを設置し、クラウドでデータを収集・解析、異常検知まで自動化する工場も出てきました。

それでも消えないアナログの現場力

ところが、どれだけデジタル技術が進化しても、多くのお菓子包装工場では「熟練者の目視・五感チェック」が根強く残っています。

理由は、設備やフィルムの経年劣化、ロットごとの微妙なバラツキ、そして突発トラブルへの“嗅覚”ともいえる経験値がまだまだ重要視されているからです。
「この原反は湿度に弱いから、今日は1kgf落とそう」「あのメーカーのロールは細くなりやすいから要注意」など、現場のきめ細かい対策が品質を支えています。

バイヤー・サプライヤー視点:何を知るべきか

バイヤーが理解すべき基礎知識

バイヤーを目指す方や現役バイヤーは、グラビア印刷・フィルム張力の基礎知識が不可欠です。
価格だけでなく、印刷品質にどうやって差が生まれるのか、サプライヤーの設備レベル、管理体制、人材教育への投資状況まで知るべきです。
せっかくのコストダウン交渉で品質クレームが頻発するようでは本末転倒です。

最低限押さえるべきは下記の点です。

– 印刷方式(グラビアなのかフレキソなのか。それぞれの長所短所)
– ラインの自動化率と管理手順
– 品質異常の発生率と再発防止策
– サプライヤー現場従事者の経験年数や資格

サプライヤーが注意すべきアピールポイント

逆にサプライヤー視点では、「どのくらい張力管理に力を入れているか」は大きなアピールポイントになります。
具体的には、以下の内容を盛り込むと信頼度が高まります。

– 現場作業員の教育プログラム
– 定期的な設備・計測機器メンテナンス履歴
– 異常時の改善レポートと実績
– 新素材・高機能フィルムへの対応力

こうした丁寧な開示は、単なる見積もり比較では測れない“質”をアピールし、長期的なパートナーシップにつながります。

今後の展望:DX時代と現場知の融合

グラビア印刷業界は今も昭和時代の作業マニュアルや慣習がかなり残っていますが、同時に自動化・デジタル管理の導入が加速中です。

今後バイヤー・サプライヤーともに求められるのは、「デジタル管理の効率化」と「現場の職人ノウハウ」の“両輪”をどう活用するかです。
異常に自動で気づくシステム+その原因を現場目線で突き止め、改善できる力こそが、これからの産業競争力を左右します。

特に若手やキャリアチェンジを目指す方は、単なるデータ分析ではなく、過去の職人技・現場の苦労・現物改善の歴史まで学ぶことで、次世代のリーダーとなる土壌が養われます。

まとめ:パッケージ美は日々の努力の結晶

美しいお菓子袋は、決して「出来て当たり前」ではなく、グラビア印刷の精密技術と、地道なフィルム張力管理、さらに現場の経験知を組み合わせて初めて実現します。

製造バイヤーなら、単なるコスト軸だけでなく、現場の管理能力や改善姿勢まで目利きできる力を磨きましょう。
サプライヤーなら、アナログとデジタルの巧みな融合による品質力を積極的に発信しましょう。

この地道な積み重ねが、ひいては日本の製造業の底力となり、新たな業界の地平線を切り拓いていくのです。

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