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グリッパ変更が品質ばらつきを生む瞬間

目次
はじめに:グリッパ変更がもたらす現場のリアルなリスク
グリッパとは、ロボットや自動機械のアーム先端に取り付ける“掴み手”の部品を指します。
多品種少量生産や自動化が進む現代の製造現場において、グリッパの交換や変更は避けて通れません。
しかしながら、その安直な変更が思わぬ品質のばらつきをもたらすケースも多いのが現実です。
現場で20年以上にわたり調達・生産・品質・自動化に携わってきた身として、グリッパ変更によるリスクの本質と、その瞬間に発生しやすい品質ばらつき、そして、昭和時代から続くアナログな現場の“思い込み”について深掘りしていきます。
なぜグリッパ変更が品質ばらつきを生みやすいのか
「寸法合わせ」だけで解決できない問題
グリッパ変更の際、しばしば設計図面の寸法通り、あるいはワークの外形に沿って「とりあえず掴めるように作ればよい」といった発想が根付いています。
確かに、図面通りの寸法合わせは重要ですが、“掴む”という動作には、寸法だけでは見落とされがちな「力の加わり方」「部品の滑りやすさ」「表面仕上げ」「材料バラつき」「製品特性変動」など、多くのパラメータが複雑に関与しています。
特に、同じ製品でもバッチやロットごとに微妙な寸法や反り、柔軟性の違いが生じるため、人間なら「うまく手加減してやる」対応が、ロボットグリッパでは難しくなります。
グリッパ設計や選定を“カタログ頼み”や“現場適当主義”で行ってしまうと、グリッパ変更のたびに思わぬ品質ばらつきを生むのです。
変更時に組み込まれる“現場の思い込み”
グリッパを変更するきっかけはさまざまです。
品種追加、製品設計の小変更、搬送ラインの最適化、安全対応、省人化など、その都度「今回はこれでいけるはず」という現場判断が下されます。
この時、現場では以下のような“思い込み”が介在しがちです。
– 「以前このやり方で問題なかった」
– 「カタログスペックで十分」
– 「現物合わせで調整できるだろう」
– 「とりあえず回して、異常が出てから考える」
これらは、短期的なライン再稼働やトラブル時の応急対応では有益な場合もあります。
しかし、長期的・継続的な品質安定を目的とした場合、非常に危険な落とし穴と言えます。
グリッパ変更が招く“見えない”品質トラブルの具体例
ケース1:ワークのずれ・つまみ損ね
代表的なのが「ワークの掴み損ね」や「搬送中のズレ」です。
表面に油分が多い、微小なバリや傷がある、重心に偏りがある…といった実物製品ならではのバラツキ要因が、グリッパ変更後に顕在化します。
例として、以前はゴム製のパッド付きグリッパで安定搬送できていたのに、コストダウンや代替部品の調達難によって樹脂製パッドに切り替えた結果、「微妙に掴み方が変わり、毎回位置ずれが発生する」といった事態が起きやすいです。
特に、複数箇所で同じスペックを使っている場合、現場個々に調整のノウハウが異なり、品質バラツキが拠点ごとで発生しやすくなります。
ケース2:部品への“変な力”によるクラックや変形
工業部品、とくに樹脂・薄板金属・繊細な仕上げが必要なパーツでは、「掴む力」すなわちグリップフォースの過不足から生じるクラックや変形、擦り傷が致命傷になります。
一見すると問題なく動作していても、表面に微細な傷や応力変形が残り、後工程でクレームや歩留まり悪化の原因となる場合が少なくありません。
グリッパ型番の選択や、指先のチップ素材・形状、エア圧やサーボ制御設定など細部がわずかに変わるだけで、力の伝達バランスがすぐに崩れるため、定形・定量のバラツキ要因として無視できません。
ケース3:段取替え作業が“標準化”されず属人化する
昭和時代から根強く残る「現場のカン・コツ主義」も、グリッパ変更リスクを増幅させます。
ベテラン作業者であれば、“あの部品はあのタイミングで指先を曲げて…”といったノウハウを持っていますが、これが自動化されグリッパが新型に変わるタイミングで一気にリセットされてしまいます。
マニュアルや作業標準書に正確な記載がなく、担当者ごとの「これで大丈夫だろう」の感覚でセットアップが行われると、日ごと・人ごと・シフトごとで不具合発生率や搬送ミスが大きく変わり、それがそのまま品質バラツキに直結します。
根本対策:アナログから脱却し“標準化/数値化”を進める方法
各工程の“見える化”の徹底
グリッパ変更・段取り換えのタイミングで重要なのは、「何のために」「どこを」「どう変えたか」を明確化することです。
– チップ素材・硬度・摩擦係数
– 把持部の形状・ウレタン等のクッション材厚み
– ワーク材質・表面粗さ
– グリップ力(圧力・把持トルク等)の数値化
– 組付・脱着時の手順書の整備
これらすべてを“見える化”し、変更履歴や現場での微調整内容を誰でも確認できる仕組みをつくりましょう。
“グリッパ仕様書”の設計・共有
特に多品種・頻繁な型替えを要する現場では、「ワーク別最適グリッパ仕様書」の整備が不可欠です。
形状・サイズ・必要グリップ力・保護材・取替頻度・点検表・適用機種…最低限この程度は、調達・生産・品質・保全の各部署が共有できる「現場オーナーズマニュアル」として運用しましょう。
こういった標準化が進めば、“現場の思い付き”による突発的な品質バラツキを減らし、新人や非正規スタッフでもミスなく品質管理できる“体制”が整います。
調達と現場の間に“対話”を生む
昭和的な大手製造業では、いまだに「調達は調達、現場は現場」と担当領域を分断しがちです。
ですが、調達バイヤーもサプライヤー側も、本気で「使われ方」や「現場ニーズ」を知る必要があります。
調達時には「どの工程でどんなバラツキが起きがちか」「現場は何を最も困っているか」「納入仕様は適切か」など、聞き取りや現地ヒアリングを徹底しましょう。
これが結果として、バイヤー・現場・サプライヤーの三位一体での品質安定化・コストダウン・歩留まり向上に貢献します。
グリッパ変更の“瞬間”に必要な現場行動とマインドセット
一つ一つの現物を再確認する
型替えやグリッパ交換時には、理想として「現物サンプル」を使った掴みテストを必ず行います。
チェックポイントは、ワークが滑らない・過度な力で割れない・位置ずれを起こさない・他製品と汎用性があるか…などです。
この実物テストによって事前に潜むバラツキリスクを“肌で”確認する文化を根付かせれば、図面や伝票では読み取れないトラブルを先回りして排除できます。
PDCA(計画→実行→確認→是正)ループの深化
製造業の現場では「計画書どおり」に進むことは稀です。
特にグリッパのような“消耗品かつ高頻度変更品”では、適用初期に不具合品発生などのイレギュラーが必ず発生します。
重要なのは、発生時の現物の記録・調整内容・担当者の気付き・対処履歴を「全件ドキュメント化」し、次回の取替えやタイプ変更時に必ず参照する“PDCAの仕組み”を徹底することです。
スタッフ教育も“改善提案型”に進化させましょう。
「トラブルが出た瞬間こそ新たな基準が生まれる」現場力が、昨今の人手不足・高付加価値化の時代にはますます求められています。
まとめ:グリッパ変更の瞬間に“気づける”現場づくりを
グリッパの変更は、生産性アップや多品種対応力の強化が期待できる反面、思わぬ品質ばらつきやトラブルの引き金になる恐れもあります。
その“瞬間”に現場側・調達側・サプライヤー側が単なる「作業の継続」ではなく、「なぜ変更するのか」「どんなリスクが潜んでいるのか」を自問し、“見える化・標準化・対話”を深めることで、一段上の品質安定・現場力向上が図れます。
時代はアナログからデジタル、属人的なノウハウから標準プロセスへと移行しつつあります。
この転換点において、グリッパ変更という“現場の小さな瞬間”が、大きな品質革新への一歩となるよう、現場の知恵と力を今こそ結集しましょう。