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顧客仕様と規格仕様が衝突し調整に追われる過酷な実務

目次
はじめに:顧客仕様と規格仕様――現場を悩ませる終わりなき調整
ものづくりの現場で、顧客の要望は製品づくりにとって最優先事項です。
一方で、社内で長年培われた規格や業界の標準仕様も存在します。
理想を言えば、顧客仕様と規格仕様が完全に一致する製品を作れれば、現場の作業はスムーズになり、すべてが円滑に進みます。
しかし、現実はそう甘くありません。
しばしば両者がぶつかり、現場担当者やバイヤー、生産管理担当者は調整に追われることとなります。
この記事では、顧客仕様と規格仕様の板挟みにされながらも苦闘する現場の実情や、長年アナログ体質が根強く残る製造業ならではの課題、そして、筆者が体験してきた“リアル”な調整業務について、実践視点で深掘りしていきます。
顧客仕様と規格仕様が衝突する場面
「お客様は神様」では済まされないものづくり
多くの製造業に共通するのは、“顧客第一”という基本理念です。
とくにBtoBの現場では、顧客企業の要望は細部に至るまで具体的であり、ときには全体の工程の流れや社内の標準を大きく逸脱した要求が出されることもあります。
一方、企業側としては、納期・コスト・品質を守るため、過去の失敗やノウハウから厳格な規格仕様・標準作業手順を設けて対応しています。
社歴が長い会社ほど、暗黙のルールや形式化された規格が幅をきかせているでしょう。
顧客から「この材質で、ここだけこうして欲しい」「一部サイズ規格から外れても良いから使いたい」などというリクエストが入った際、現場の「規格ではダメです」という正論と、営業の「顧客の要望だから」の圧力がぶつかる――この状況に、現場担当者とバイヤーは常に頭を悩ませています。
典型的な衝突のパターン
1. 材料や部材の規格違い
2. 加工方法・仕上がり寸法の相違
3. 受け入れ検査項目・基準の違い
4. 包装や輸送における要件差異
例えば、顧客から「JISより厳しい寸法公差を要求される」ケース。
こちらの規格ではNGだが、顧客には“カスタマイズ対応”を期待される。
こうした曖昧な要求が、調整の火種になります。
現場で起こる調整実務のリアル
打ち合わせは“戦場”になる
現場責任者、生産技術、品質管理、材料調達、営業、それぞれが異なる立場・視点から会議に参加します。
顧客要望と規格仕様が食い違う案件について、最終的な仕様承認をめざし打ち合わせを重ねますが、着地点探しに難航することもしばしばです。
営業:「顧客の大手自動車メーカーは“規格+独自仕様”が絶対条件です」
品質管理:「当社の全数検査基準を超えている。過去の不具合もあったし…」
調達:「この材料ではコスト跳ね上がりますし、納期も延びる」
現場:「現有の設備では追加工でしか対応できない、歩留まりも悪化…」
現場に近い立場ほど「現実」を見ており、理想と現実のギャップに胃が痛くなる毎日です。
バイヤー・サプライヤー間の溝と推し量り
バイヤー(調達側)は会社として「品質・コスト・納期」の3つのバランスを取らなければいけません。
しかし、顧客要求に最大限応えるとなると、従来の仕入れ先や、標準化された部材の調達から外れざるを得ないケースもしばしば。
サプライヤー側にとっては、「規格外注文」による追加負担——特殊材料の手配、機械の段取り変更、二重三重の検品体制など——が発生します。
にもかかわらずバイヤーは「コストは据え置きで」と要求しがちで、現場サイドとのコミュニケーションが一層重要になります。
調整=根回し+現場現物主義+リスクヘッジ
この調整業務で大切なのは、単なる机上の議論だけではありません。
「現物・現場・現実」を重視し、実際の製作・品質確認・納入まで目の前で確かめ、それを関係者全員で体験・共有することで、合意形成の突破口を模索します。
また、言いっ放し・やりっ放しではリスクが高まるため、
「万一の場合の責任範囲はどこに置くか」
「暫定対応と恒久対応をどう使い分けるか」
といったリスクヘッジも同時進行で進めるのが現場の知恵です。
昭和から続くアナログ文化とその“闇”
なぜ“根回し”調整がなくならないのか
製造業の多くは、IT化・自動化の波を受けつつも、昭和の現場文化が根強い業界です。
中でも、
– 口約束や慣習主義
– 文書化されない“裏標準”
– 関係者を巻き込んだ“場当たり的”な会議
こうしたアナログ文化が、顧客仕様と規格仕様の調整業務でも色濃く残っています。
例えば、仕様変更ひとつとっても、
「この場合はA課長に電話して根回し」
「品質問題が起きたら“勘定”で補填対応」
「文書には残さず、工場長の一声でGO」
など、非公式な流れが現場の機動力として機能する一方で、結果責任の所在が曖昧になり、ミスや品質事故の温床になる危険性も孕んでいます。
デジタル化で消えない「現場のリアル」
ERPやIoT、SCMといったデジタルツール導入が進む昨今。
調達システムや図面・仕様管理システムが発達しても、肝心な調整事項だけはメールやFAX、はては“対面会議”という事例が一向に減りません。
これは「人の顔が見れる」「現物・現場を皆で見て話ができる」という現場主義に根差した安心感が、デジタルの合理性を上回ることが多いためです。
調整現場に必要な戦略的思考法
なぜ“規格どおりにすれば良い”が通じないのか
現場では「規格どおり」の運用が唯一正解とは限りません。
時に規格自体が時代遅れ、十分な更新がなされていないケースも散見されます。
逆に、顧客要求が常識を越えて過剰品質を求めてくる場合もあります。
調整担当者には、
– なぜその規格や仕様が必要とされるのか(背景理解)
– どこまで譲れるのか、逆に絶対譲れないポイントはどこか(優先順位の明確化)
– Win-Winなライフサイクルコストの提案力
このような“ラテラルシンキング”=既成概念を横断して考える柔軟な思考法が求められます。
バイヤー・サプライヤー双方のメリットを提示
「顧客にはこう言われているが、我々の現場としてはこのやり方なら両者にメリットがある」
「サプライヤー側で定番化できれば、標準品提供でも対応可能になる」
といった提案型の交渉力が、バイヤーには不可欠です。
サプライヤー側も、
「規格外対応により、追加コストは発生するが、将来の量産提案も視野に入れることでWin-Winを描く」
「この規格変更なら品質保証の観点で“代替案”を提示できる」
といった戦略的アプローチが現場からは強く求められています。
現場目線での「妥協点の探し方」と合意形成
三方よしを目指した“落としどころ”づくり
製造業の実務で本当に大切なのは、「顧客よし」「会社よし」「サプライヤーよし」の三方よしを意識した妥協点探しです。
現場で叩き上げられた知恵としては、
– 最終的な要求品質と市場リスクを冷静に評価し「必要十分条件」を定義
– コスト・納期へのインパクトを数パターン用意して選択肢として提示
– 追加工や特注対応は将来的な標準化も視野に入れ、中長期で合意形成
こうした多面的アプローチが不可欠です。
合意形成と“現場力”の発揮
最終的に調整がついたとしても、文書化・記録化・横展開の仕組み化まできちんと落とし込み、同じ失敗やトラブルがくり返されないようにすること。
これが「現場力」に結びつきます。
現場の声を経営層や営業部隊にしっかり伝え、学びを組織知に変えていくことが、調整実務から“強いものづくり”を実現する原動力となります。
まとめ――現場調整の苦労は「価値の源泉」
顧客仕様と規格仕様の調整は一見、ただの“面倒ごと”や“コスト増”に見えるかもしれません。
しかし、実はここにこそ、現場力・調達力・提案力という製造業の“価値の源泉”が隠れています。
最新テクノロジーやAIが普及しても、「現場の調整力」こそが差別化のカギです。
バイヤー志望の方、現場で実際に調整業務に携わる方、あるいはサプライヤーとしてバイヤーの本音を知りたい方……。
ぜひともこの泥臭い現場調整を“価値ある実務”として認識し、自らの経験値や現場知の蓄積を武器に、次世代のものづくり現場を牽引していって欲しいと願っています。
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