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溶接後の割れ不適合を防ぐための熱影響部制御技術

目次
はじめに:溶接割れ、その本質に迫る
現代の製造業において、溶接は多くの産業基盤を支える重要な接合技術です。
しかし、その効果的な利用には「溶接後の割れ」という重大な品質リスクが常につきまといます。
私もこれまでの現場経験で、溶接構造物の割れに起因する不具合や手戻り、納期遅延、クレームといった多大な損失を幾度となく目の当たりにしてきました。
ではなぜ、十分なノウハウや検査技術が発達しているはずなのに、割れの不適合が繰り返されるのでしょうか。
本記事では、現場を知る者ならではの視点で、溶接後の割れを引き起こす「熱影響部」に焦点をあて、最新の制御技術と昭和的アナログ手法の両面から、実践的な知見をご紹介します。
バイヤーの購買品質確保、メーカー現場のリスク低減、サプライヤーの改善提案など、多様な立場の方に役立つ内容を目指します。
割れの原因:熱影響部とは何か
溶接割れの根本要因には「母材・溶接金属の組織変化」「溶接応力」「不純物偏析」などがあり、その多くが熱影響部(HAZ:Heat Affected Zone)で発生します。
熱影響部とは、溶接による加熱で組織が変化し、硬くてもろくなる領域です。
溶接時、母材は溶融部近傍で急加熱され、冷却される過程で急速な相変態や粒成長、組織の凝固が生じます。
このとき、例えば一般的な炭素鋼では、硬化しやすいマルテンサイト組織の生成や残留応力の発生が割れの引き金になります。
また、鋼材における硫黄・リンなどの有害元素偏析、また水素の拡散も割れを誘発する大きな要素です。
よくある事例と現場トラブル
実際の現場では、突合せ溶接のビード端部、コーナー部、肉盛溶接の局所加熱部分で予期せぬ割れがよく発生します。
応力集中、冷却速度の急変、溶接プロセスのばらつき—こうした要因のミスマッチが現場での割れを引き起こすのです。
私は現役時代、納期間近での組立時に「微細な割れがあった」と社外クレームが入り、夜遅くまで工程再確認を繰り返し、原因解析に奔走した経験が何度もあります。
それだけ、割れは現場全体に波及効果が大きい課題である、と断言できます。
割れ不適合防止の熱影響部制御技術の本質
熱影響部に起因する割れを防止するためには、「過度に硬くしない」「応力を残さない」「有害元素の影響を抑える」といった制御が不可欠です。
そのための代表的な技術アプローチを解説します。
1.予熱・後熱の最適化
熱影響部の制御でもっとも現場で使われているのが予熱・後熱技術です。
溶接部位の温度を事前に上げ(予熱)、溶接後も一定温度域に保つ(後熱)ことで、急冷を防ぎ、マルテンサイト組織や残留応力の発生を抑えます。
例えば、板厚20mmの中炭素鋼を手溶接する際、規格通り150℃前後まで予熱を行い、ビードごと・層ごとの温度管理を徹底します。
こうした積み重ねが割れリスク低減に直結します。
昭和的な現場では「人肌で温度感覚をつかむ」といった熟練工の技も健在ですが、近年は赤外線温度計や多点温度センサーの導入で「見える化」「記録管理」も進んでいます。
2.溶接入熱の制御(ヒートインプット)
材料に供給される熱量(入熱)のコントロールも極めて重要です。
入熱が大きすぎると粒成長や粗大組織化が進行し、逆に小さすぎると冷却速度が増して硬化しやすくなります。
溶接電流・電圧・速度を適切に組み合わせ、母材と溶加材のマッチングを図ることが肝要です。
また、近年のファイバーレーザー溶接やCMT(コールドメタルトランスファー)といった最新高精度溶接プロセスも、熱影響部の幅や組織変化を大きく抑制できる技術として注目されています。
3.低水素系溶接材料の選定
材料内部に取り込まれる水素(溶接割れ最大の要因)の低減には、低水素系(Low Hydrogen)の溶接材選択と保管管理が重要です。
材料の乾燥保管、使用直前のオーブン加熱、現場での開封管理など、地味ながらも再現性の高い割れ防止策です。
4.PWHT(溶接後熱処理)の活用
大物構造物や圧力容器の溶接後に、溶接部ごとに指定温度・時間で加熱保持するPWHT(Post Weld Heat Treatment)は、残留応力除去とともに脆性組織の戻し(焼きなまし効果)に高い効果があります。
管理コスト・設備導入が必要なため、コスト体系を理解したうえで工場とバイヤーが交渉しつつ計画設計することがポイントです。
アナログからデジタルへの変革と昔ながらの知恵の共存
溶接割れ防止の現場力は、デジタル化が進む現代でも「昭和的3K職場」の知恵と最新技術の両輪で成り立っています。
熟練工の目視・手触り検査
例えば溶接ビードの色・形状・ひずみ、わずかな冷却ムラなどを「手で触れて」感じ取る手法は、アナログであれど割れ発生予知の最前線です。
最新の非破壊検査装置/監視カメラとの組み合わせにより、現場と事務局がダブルチェックで品質向上に貢献できます。
現場帳票&ITシステムの融合
温度・溶接条件の記録はこれまで手書き帳票が主流でしたが、今ではスマートフォンアプリやタブレット、クラウドを連携させてリアルタイムに記録、異常通知を実施する企業も増えています。
工場のデジタル化による「見える化」と「品質トレーサビリティ」も、割れリスクの再発防止やノウハウ蓄積に大きな武器となります。
バイヤー・サプライヤー・現場がつながる溶接品質マネジメント
グローバル調達の進展とともに、「国内/海外」「大手/中小」を問わず、一貫した溶接品質マネジメント体制の構築が求められています。
サプライヤー選定で意識すべき視点
バイヤーの立場としては、サプライヤーの技術力が「品質管理規格への適合」「溶接要員の技能保有」「工程能力の実績値」まで見える化されているかを見極めることが重要です。
現場実力と帳票、両面から評価し、「割れゼロ・手直し不要」を目標とする姿勢が求められます。
一方、サプライヤーは自社現場のアナログ的な知見や失敗事例もオープンにし、現場最前線の熱影響部対策を積極的に提案する「パートナー型営業」が選ばれる時代になりました。
製造部門の取り組み事例
たとえば、ある中堅自動車部品メーカーでは、溶接不適合発生率を下げるために
・溶接工の全員に熱影響部制御の基礎教育
・異常温度ログ自動収集→すぐに担当者へアラート
・再発防止会議の録画・データベース化
といった「人とデジタルの融合」現場改善を実施。
結果、割れ不適合が大幅減、工数削減と品質リスク低減が実現されました。
おわりに:製造業の「次の一手」へ
溶接後の割れは、単なる現場の「ミス」や「現象」と捉えるのではなく、材料・溶接プロセス・現場管理・バイヤーとサプライヤーの連携など、多面的な知恵とシステムが問われる難題です。
業界全体が昭和型の「人頼み」から、現場知見をデジタルで活かす仕組み作りに転換できれば、日本のものづくりに新しい地平線が開けると私は確信しています。
まずは、熱影響部の「なぜ割れるのか」を現場で問い直し、小さな温度管理から工程の標準化、最新テクノロジー導入へと一歩ずつ進みましょう。
それが、あなたの現場、ひいては製造業全体の持続的成長につながるはずです。
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