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伝熱技術基礎と熱回路網Excel計算で定常非定常熱設計を最適化

目次
はじめに ― 熱設計が製造業を制する理由
製造業の現場で、伝熱技術の最適化は製品品質・生産効率・コスト削減の要となります。
特に工場自動化や精密製品の生産が進み、高度な熱マネジメントが要求される今、伝熱現象を正しく理解・制御しなければ国際競争で後れを取るリスクさえあります。
伝熱技術の基礎は決して難解な理論ではありません。
現場の視点で「なぜこの材料が熱を持ちやすいのか」「なぜこの配管は結露しやすいのか」といった日常の疑問に正面から応え、応用につなげることが重要です。
本記事では、伝熱技術の基礎から応用まで、現場のリアルな課題解決に即した形で丁寧に解説します。
また、従来アナログ的に進められてきた熱設計を、Excelによる熱回路網法(サーマルネットワーク)により、定常・非定常設計を最適化する実践ノウハウについても紹介します。
伝熱現象の基本 ― 製造業のリアルが突きつける「三つの壁」
伝導、対流、放射 ― それぞれの癖を現場でどう見るか
伝熱の三大要素は「伝導」「対流」「放射」です。
「伝導」は板金や押出材の部材を通して温度差により分子運動が伝わる現象、「対流」は液体や気体など流体の動きにより熱が移動する現象、「放射」は赤外線などの電磁波を通じて物質から物質へ熱が移動する現象です。
現場ではこれらが複雑に絡み合い、単純なモデルが通用しないことも少なくありません。
例えば、高温になる金型の温度管理では「伝導」と「対流」の両面を考慮しないと冷却効率が大きく低下するケースがあります。
また、食品工場のオーブン設計では「放射」を軽視すると焼きムラや品質低下の大きな原因となります。
まずは三つの伝熱現象それぞれを個別に整理した上で、現場ならではの「複合現象」としてどのように最適化するか――という目線を持ちましょう。
古い熱設計手法の限界とその現状 ― 昭和から続く計算ミスのタネ
日本の製造業に今なお根強く残るのが「経験と勘だけに頼った熱設計」です。
たとえば「このヒーターなら大丈夫だろう」「いつもの断熱材しか使わない」といった属人的な手法は、量産品の立ち上げでトラブルや歩留まり低下を招く大きな温床です。
加えて、手計算や紙にスケッチしただけの熱回路図では、多点の温度推定や複数経路による熱損失の考慮が難しく、詳細な現象把握やコスト最適化ができないのが現状です。
設備投資額が年々高騰し、失敗の許されない時代だからこそ、アナログだけに頼った設計手法から脱却しなければなりません。
熱回路網(Thermal Network)の設計とそのExcel計算手法
熱回路網とは何か ― 電気回路と熱設計の意外な共通点
電気回路における抵抗などのネットワーク設計と同様、熱の流れも「抵抗」と「容量」で表現できます。
これをサーマルネットワーク、つまり熱回路網法と呼びます。
伝導部では熱伝導抵抗、対流部では対流熱伝達抵抗、内部に金属鉄など熱容量の大きい部材があれば熱容量素子(コンデンサ)も組み合わせます。
現場でよく使う応用例としては、ヒートシンクの温度上昇計算や、複数の温度管理拠点がある設備の過渡応答シミュレーションなどが挙げられます。
この手法をExcelの表計算機能で自動化することで、「属人化しない」「誰でも確認できる」「解析パターンを高速で回せる」という大きなメリットが得られます。
定常熱計算のExcel実装 ― シンプルな抵抗ネットワーク化から始める
まずは「定常状態」(たとえば機械や部材の温度が時間とともに変動せず安定している場合)の熱計算について学びます。
手順は以下の通りです。
1. 温度差がある部材の断面ごとに、熱伝導・対流・放射の各熱抵抗を計算します。
2. 各伝熱経路ごとに「熱回路」として回路図を描き、直列・並列の形で整理します。
3. 合成熱抵抗を求め、全体の熱流(Q=ΔT/R)を計算します。
4. Excelでは、各抵抗値や温度差、部材構成を変数化し、セルの計算式に落とし込みます。
これにより、例えば機械カバーに使う金属板の厚みや、断熱材の種類・厚さを変えた際の温度分布・熱損失の違いを即座にシミュレーションできます。
これは現場での「設計レビュー」や「VA/VE(コストダウン)検討」に強力な武器となります。
非定常熱計算のExcel化 ― 過渡現象への現場的アプローチ
定常だけでなく、スタートアップ時やトラブル時の「温度の時間変化」も無視できません。
ここでは、熱容量を考慮した「非定常熱伝導(過渡応答)」を検討します。
Excelでの代表的な実装は「繰り返し計算(反復法)」です。
1. 温度上昇や放冷対象を、一定時間ごと(たとえば1分、10秒など)に分割します。
2. 前回時刻の温度データを用い、(受熱量-放熱量)÷部材の熱容量 で、次時刻の温度を計算します。
3. シートの1行ごとに時間ステップをずらし、必要な時間だけ繰り返します。
これにより、「このヒーター設定だと何分で規定温度まで上がるか」「内部部材がオーバーヒートするリスクはないか」など、実際の生産現場やフィールドでの温度挙動が掴めます。
現場で活きる熱設計最適化のコツ ― バイヤーとサプライヤーの視点融合
バイヤー目線での熱設計最適化
調達担当やバイヤーの皆さんにとって、単に「安い部品を集める」だけでなく、「要求仕様を満たしつつ、メンテナンス性・安定供給性・ライフサイクルコストまで見越した調達」が進むにつれ、熱設計への知識と関わりが必須となります。
例えば生産財(制御BOX、パワーコンディショナ、モーター等)の選定では、部材の熱特性やその寿命を把握することが、調達戦略に直結します。
サプライヤーと設計者が「熱性能要求」の共通言語でものづくりに携わることで、「納入前検証の手間削減」や「市場トラブルリスクの最小化」が狙えます。
サプライヤー目線でのバイヤーへの提案力アップ
部品・装置のサプライヤーである皆さんには、「納品後の現場トラブル減」と「継続的な発注確保」を目指し、熱設計見える化の提案が大きな強みとなります。
Excelによる熱回路網を使った「仕様書+温度シミュレーション資料」等を提示することで、現場の安心・顧客満足度の向上が期待できます。
また、バイヤーの「なぜこの設計/材料なのか?」という疑問にも、技術根拠を明確に説明できるため、信頼感が格段に高まります。
よくある失敗事例と改善アプローチ
「つもり設計」の落とし穴
製造現場でよくある失敗に「このくらいのファンなら冷えるはず」「材料は変わらないからいつもの設定」という“つもり設計”があります。
こうした場合、熱回路網で具体的な数値・挙動を見える化するだけで、歩留まり低下・過大コスト・納期遅延といったリスクを事前に払拭できます。
「定常・非定常」の切り分けミス
現場で最も多い誤算が、定常熱計算だけで設計や検証を終えてしまい、実運用では「起動時の過熱事故」「急冷時の結露」などが頻発するパターンです。
スタートアップや運転停止、異常トラブル発生時の温度過渡挙動を、非定常熱回路網で必ず追いかける事が重要です。
まとめ ― デジタル×現場知見で製造業は飛躍できる
伝熱技術の基礎と、熱回路網法をExcelで実装することは、工場現場の熱設計・トラブル防止・コスト競争力強化の切り札となります。
従来の「勘と経験」「黒板スケッチ」から脱却し、データドリブンな熱設計サイクルを回すことで、限りある購買費・人材リソース・設計工数の最適配分が現実のものとなります。
バイヤー・サプライヤーの双方が「熱設計」という共通の設計言語を持ち寄ることで、ものづくりの信頼性・生産性・競争力はさらに高まるでしょう。
昭和から続くアナログな慣習を最新のExcel熱回路網技術でアップデートし、現場発・実践的ものづくり改革を皆さまと共に実現していきましょう。
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