HEVC H265映像符号化技術基礎と拡張規格応用で達成する高効率配信

はじめに―映像データの爆発的進化と産業界の課題

2020年代以降、私たちは、4K・8Kという超高精細映像が日常空間に溢れる時代を迎えています。

IoTやAIによって工場やインフラに設置されるカメラ数も飛躍的に増加し、現場業務や品質管理、遠隔モニタリングにも高精細映像が不可欠となりました。

一方、昭和時代から続く多くの製造業現場では「ネットワーク帯域が足りない」「高解像度映像を伝送するとコストが増える」「画像解析用ストレージが逼迫する」など、デジタル活用に伴う新たな悩みが浮上しています。

それら諸課題の根本には「映像データの圧縮と効率的配信」に関する知識と技術導入の遅れが潜んでいます。

本記事では、現役工場管理者・調達購買経験者の視点で、映像符号化の基礎から最新応用までを「工場の現場目線」で分かりやすく解説します。

特に、今後主流となるHEVC（H.265）とその拡張規格がもたらす「高効率配信の本当の価値」に迫り、皆様の業務・導入判断の一助となる深い知見を共有します。

H.264からHEVC(H.265)へ―技術変遷の本質と効率化の指標

映像符号化技術とは何か？

映像符号化（圧縮）技術とは、画像や動画に含まれる膨大な情報量を、できる限り画質劣化を抑えながらデータサイズを小さくする技術です。

カメラでそのまま映像を取り込むと、“未圧縮”の生データは1秒あたり数百MB〜数GBにもなります。

ネットワーク帯域もストレージ容量も、これを無圧縮で扱うのは非現実的です。

そのため、巧妙に「目に見えない部分」や「時間的な類似」を検知し、不要な情報を排除することで実データ量を数十分の一〜数百分の一へと圧縮します。

これが「映像符号化」「コーデック」と呼ばれる技術の核心です。

H.264(MPEG-4 AVC)の普及と限界

2000年代半ば以降、Blu-ray規格やネット動画配信などで標準化されたのがH.264（MPEG-4 AVC）です。

当時、MPEG-2と比べて約2倍の圧縮率と高画質を両立し、SD→HD→4Kへと映像革命の基盤となりました。

しかし、現代のニーズは4K・8Kなどの超高解像度や、ライブ監視など連続大量トラフィックを要するシーンへと多様化。

「同じ画質なのにデータ量が重すぎる」「ストレージ・回線費が跳ね上がる」というH.264での限界が浮き彫りになっています。

HEVC（H.265）登場の意義

こうした状況を打破するため、ITUおよびISO共同で策定された次世代映像圧縮の標準が「HEVC（H.265）」です。

おおまかに言えば、H.264比で“半分のデータ量（ビットレート）で同等画質”を実現可能とされています。

つまり、ネットワーク回線や保管容量を従来の半分以下に削減できるインパクトがあります。

製造業の現場で言えば、これまで“高画質監視カメラは設置台数を絞っていた”“長期保存のコストが気になる”といった悩みの打開策となり得るのです。

HEVC（H.265）の技術的仕組み―現場目線で読み解く

符号化効率をどうやって実現しているか？

HEVCの最大の強みは、「映像の時間的・空間的な冗長性を徹底的に見抜いてカットする」点にあります。

簡単に言うと、「映像のどの部分が前後のフレームと似ているか」「大きなブロック単位でまとめて省略できる部分はないか」と、より高精度に検出し、不要な情報を徹底的に省くわけです。

– 大きなブロック分割によるマクロブロックの柔軟化
– 予測モード数の増加による圧縮性能向上
– 動き補償・時間方向予測の強化
– カラーフォーマットやビット深度への柔軟対応
など、現場で見るべき性能指標が多岐に渡ります。

結果として、64種ものパラメータを動的に組み合わせることで、従来では対応困難だったシーンでも高精度に圧縮できるのがHEVC（H.265）の真骨頂です。

産業現場・監視用途での「体感できる」変化とは

現場で導入すると、たとえば4K映像を月単位で保存する場合、H.264比でストレージ容量が50〜70％削減されます。

また、カメラの台数を2倍に増やしても、回線帯域やビデオサーバの負荷は従来のまま、あるいはそれ以下で抑えられることも珍しくありません。

リモート保守・AI画像判別・記録映像のクラウド転送など、“5G・IoT時代”にふさわしい広帯域活用が現実的になり、業務継続性やコスト競争力向上に大きく寄与します。

HEVCの拡張規格と新たな応用領域

HEVCのバリエーションとプロファイル選択のポイント

HEVC規格自体は非常に柔軟で、用途や必要画質、処理性能に応じ以下のような「プロファイル（拡張仕様）」が用意されています。

– Main Profile：一般的なフルHD〜4K配信等
– Main 10 Profile：10bit色深度。放送、医療、産業など高画質用途向け
– Main Still Pic Profile：一枚画像（静止画）の圧縮にも適用
– Range Extensions：YUV 4:2:2/4:4:4やハイビット等、専門性の高い産業対応

この選択は、ストレージ、演算装置（CPU・GPU）、ネットワークなど全体設計に直結します。

バイヤー・設備導入担当の方は、「自社の業務に見合う最適なプロファイルは何か？」をベンダーに明示することで、不要なコストや動作トラブルのリスクも回避しやすくなります。

拡張規格で拡がる現場アプリケーション

HEVC本体だけでなく、産業向け・放送向けにさらに強化された拡張規格群も急速に普及しています。

– SHVC（スケーラブルHEVC）：異なる解像度/画質での配信階層化＝工場監視での多拠点一元管理等
– MV-HEVC（多視点HEVC）：360度カメラや立体VR向け＝作業現場のバーチャル現地確認等
– HEIF（HEVC Image File Format）：産業用画像・設計データの効率保存など

これらの新規格群は、従来「映像とITは別物」「現場はアナログ命」という固定観念に風穴を開けるインパクトを持ちます。

たとえば、「多拠点の工場の現場映像を本社集中で効率監視」「設計図や作業映像を軽量HEVCイメージで長期アーカイブ」など、バイヤー・サプライヤー双方にとって“コストだけでない価値”をもたらします。

「昭和体質」から変革するための実践導入ポイント

既存設備とのハイブリッド活用

いまだH.264・MPEG-2ベースの設備を多く抱える工場環境では、全てを一気にHEVC機器へ刷新するのは現実的ではありません。

そこで、実践的な一手として
– 重要カメラのみHEVC化し、H.264との多段変換にも柔軟対応する機器選定
– 既存サーバやVMS（ビデオ管理システム）がHEVCストリームに対応しているか慎重確認
– 「HEVCは今後増える可逆圧縮標準」として中長期RFP（調達仕様書）へ明記
など、段階的導入を強くお勧めします。