投稿日:2025年12月13日

量産前の試作調達が予算を圧迫する隠れコスト問題

量産前の試作調達が抱える“隠れコスト”とは

製造業において、新製品開発の重要なプロセスのひとつが「試作」です。

特に、量産前の試作調達には、大きな労力とコストが関連します。

ところが「試作だから仕方ない」と表面的なコストだけで把握しがちですが、実はここには企業経営にも直結する“隠れコスト”が数多く潜んでいます。

私自身、20年以上にわたり調達・生産管理・品質管理の業務に携わり、現場で何度も同じ課題に直面してきました。

本記事では、昭和型の業界慣習がなお根付くアナログな現場目線も加味しつつ、量産前の試作調達が予算を圧迫する本質的な“隠れコスト”の実態と、今後どう対処すべきかについて深く掘り下げていきます。

これからバイヤーを目指す方、サプライヤーの立場でバイヤーの視点を理解したい方にも役立つ内容です。

表に出づらいコストの正体

1. 「見積もり外」の調整コストが想像以上に大きい

試作の調達では、サプライヤーからの見積もりはあくまで“モノの値段”が中心です。

ですが、実際は以下のような「見積もり外コスト」が膨大に発生します。

例えば

– 図面や仕様の細かな調整
– 設計変更への迅速な対応
– 小ロット・短納期のための特別手配
– 打ち合わせ、検討会、現場立会

など試作段階特有の手間が掛かります。

ときに、担当バイヤーや設計、生産技術、サプライヤーの各担当などが平日/休日を問わず拘束され、既存の業務シフトが大きく圧迫されます。

人件費として直接計上されないこれらのコストこそ、本来“隠れコスト”と呼ぶべきものです。

2. 社内外のコミュニケーションロス

特注品である試作部品は「こんな仕様で本当に作れる?」「実機とどう違う?」など、設計・製造・品質など各部門間で膨大な情報伝達があります。

このとき、認識ミス・伝達ミス・記録モレといった小さなミスが連鎖的に後工程へ跳ね返ることで、最終コスト・手戻り量が一気に増大します。

さらに昭和から抜け出せない現場では“紙ベース”“電話”などアナログ手法が根強く、情報のタイムラグや属人的な対応が常に課題となっています。

3. サプライチェーン全体への影響

試作部品は、量産対応を前提にしないため、サプライヤーが通常取引とは異なる特別プロセスを組みます。

例えば「一品一様の手加工」「外注工程の緊急手配」などが代表例で、これが時間・費用の両面から大きな圧迫要因となり、経理上は見えづらい追加コストが発生します。

また、他の受注製品とのスケジュール調整による社内混乱、生産予定の差し替え、短納期による夜間・休日稼働など、一見、直接的ではない現場側の“ムダ”も無視できません。

現場体験から見る、業界特有の“抜け出せない構造”

1. なぜ「見積もり外コスト」に無関心なのか

大手メーカーの調達現場では「表面的な予算消化」こそが評価対象です。

たとえば、バイヤー自身が社内プレゼン資料や上司への説明では“いかに定価より安く買えたか”“予算内でやりくりしたか”だけがアピール材料になります。

実際には、担当者や部門がすり潰される形で“無償のサービス残業”や“通常業務の圧縮”でどんどん企業体力を消耗しているのです。

そして、この体力消耗こそが最も大きな隠れコストです。

プレイングマネージャーやベテラン担当者に無理を強いる文化が根強く、これが働き方改革の阻害要因にもなっています。

2. アナログ文化に支配される現場

特に40代以上の技術・調達担当者が多い現場では

– “FAXでの発注”
– “手書き図面”
– “現場立会での口頭指示”

など、いまだにアナログ手法が“正攻法”としてまかり通っています。

IT導入やペーパーレス推進の仕組みもありますが、結局“ここだけは手書き”という現象が一向になくなりません。

その結果、情報共有のロス・タイムラグ・手戻りリスクが高止まりし、試作のたびに同じ失敗を繰り返しています。

時代は変化、試作調達にも“デジタル化”と“構造改革”を

1. 設計・調達・生産を一気通貫でつなぐ

近年、3D CAD・PLM(製品ライフサイクル管理)・電子調達システムなどの導入が進みつつあります。

これによって、設計段階から

– 部品表(BOM)と見積もり依頼を自動連携
– Web会議によるデータ共有
– サプライヤーとクラウドで仕様・スケジュール管理

といった「見える化」「一元管理」が可能になっています。

これらは単なるコスト削減に留まらず、“隠れコスト”の根絶と再発防止に直結します。

2. サプライヤーとの“協働設計(DFM)”の強化

試作時に必要以上の仕様を盛り込んだり、将来の量産性を加味しない設計はコスト増の温床となります。

最近は、開発・試作のタイミングからサプライヤーがプロセス設計や工法最適化に参加する「協働設計(DFM, Design for Manufacturability)」の実践が広がっています。

これにより、早期段階から試作コストの最適化が可能になり、お互いに余計なやり直しや手直しを回避できます。

3. 管理職・経営層の“価値観転換”が不可欠

最終的に、見積もり外コストに目を向けて本当の最適化を目指すには、現場任せでなく管理職・経営層の意識改革が欠かせません。

安易な“コストダウン至上主義”から「トータルコスト最適化」「人材の価値と時間の評価」へと舵を切ることが、現代の製造業のサバイバル条件となっています。

これからのバイヤー・サプライヤーに求められること

1. “安く買う”から“問題を解決する”へ

従来は「より安く仕入れた者が評価される」時代でした。

しかし、これからバイヤーを志す方には「いかに潜在的な隠れコストを可視化し、取引先と協力してトータルの課題を解決する」視点が求められます。

無駄に抑圧的に値切るのではなく、全体パフォーマンスを高める交渉力や人間力が不可欠です。

2. サプライヤーは“受け身”から“提案型”へ

発注者の言いなりになるのではなく「この点をこうすれば安価かつ安定供給できます」「量産性を考えて設計変更提案します」といった提案力が今後ますます重視されるでしょう。

試作段階でしっかり意見を出せるサプライヤーほど、量産フェーズ以降でも信頼を勝ち取りやすくなります。

現場力&デジタルの“ハイブリッド”で新しい時代へ

アナログ文化が根付く製造業も、今まさに変革の渦中にあります。

量産前の試作調達こそ「現場力」+「デジタル技術」+「トータルコスト発想」のハイブリッドが問われています。

永らく“隠れコスト”として軽視されてきた多様な問題を、今一度可視化し、組織全体で抜本的に見直すことが、これからの競争力強化に直結します。

バイヤーを目指す方・現場にいる方、サプライヤーとして発注側とより良い関係を目指したい方、ぜひ「隠れコスト」問題に現場目線&未来志向で取り組んでみてください。

変化の時代には、旧来の“当たり前”を疑い、“新しい調達・開発の地平線”を共に切り拓いていきましょう。

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