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アパレル初心者が見落とすパーカーOEMの原価構造と見積もりの裏側

目次
はじめに
アパレル業界は一見華やかに見えますが、その裏には複雑で泥臭い「原価算出」「OEM調達」といった現場の葛藤が存在します。
特に、パーカーのOEM(相手先ブランド名製造)はデザインや品質だけでなく、原価構造や工場側の見積もりの論理をしっかり理解しておかないとバイヤーとしても、サプライヤーとしても痛い目を見る可能性があります。
この記事ではアパレル未経験や新任バイヤー、OEM初心者向けに、パーカーOEMにおける原価構造の全体像や見積もり・価格交渉の本質的ポイントについて、製造現場で20年培った知見を交えて深く掘り下げます。
パーカーOEMビジネスの構図とは
アパレルOEMとは、ブランド発注者が自社のブランド名を冠し、協力工場にオリジナル製品(ここではパーカー)の製造を依頼するビジネスモデルです。
小規模ブランドやネットショップの参入が増えている背景には、「自社で全て作るリスクや初期投資を避けつつ、オリジナル性を実現できる」というメリットがあります。
一方で、OEMを請けるサプライヤー(工場)は発注量が少額・多品種・短納期化するなか、コスト感覚や現場力が命綱になっています。
バイヤー(発注者)とサプライヤー(OEM先)の利害が直結するため、お互いの「原価に対する考え方」のズレをどう埋めるかがプロジェクトの成否を大きく左右します。
OEM業界のアナログ構造とその背景
アパレルOEM現場は「見積書はExcelか手計算」「旧来の帳票運用」「相見積もりの穴埋め式」「発注者と工場の知識格差」など、昭和からアップデートされにくい環境が根強く残っています。
原価に対する透明性が乏しいことも特徴で、同じスペックのパーカーで見積額が2倍以上違う…といったことは決して珍しくありません。
このため、バイヤーが「原価の中身」や「見積もりのからくり」を読み解く力を持たないと、交渉の主導権は常に工場側の“情報優位”になりがちです。
パーカーの原価を紐解く:構成要素ごとの解説
それでは、実際にパーカーのOEM原価はどのような構造になっているのでしょうか。ここを理解することが、賢いバイヤー・発注者の第一歩となります。
1. 生地・素材費
パーカー原価の中で最も比重が大きいのが「生地費用」です。
糸・編み方・厚み・仕上げ(裏起毛・パイル地)・染色・特殊加工(撥水、抗菌など)がコストに影響します。
ここで押さえたいのは、同じ素材表記でもスペックや品質に「隠されたコスト差」が生まれやすいという点です。
例えば「裏毛コットン100%」でも、糸の番手(太さ)、中国やベトナム産なのか、国内調達かで見積額は大きく変わります。
またロット(最小生産量)の壁も大きく、規模が小さいほど「端尺(はぎれ)」の廃棄ロスやサプライヤー手数料が割高になります。
2. 附属品・副資材の費用
パーカーは意外に副資材が多い製品です。
ファスナー、リブ、ドローコード、金具、タグ、ネーム、洗濯表示、ブランドのピスネーム、刺繍やプリント加工の有無によってもコストは変動します。
特にこだわりのパーツ(オーダーメイドの引手やオリジナルタグ)は、想像以上に型代や最低発注数など隠れコストが発生します。
3. 縫製加工費
ここがOEMパーカーの“職人技”を値付ける工程です。
デザイン(カットパターン)が複雑・ルーズだと作業難度が上がり縫製賃も高騰します。
また「工賃」は受注工場によって設定基準がバラバラで、工業化が遅れている東南アジア工場なら人件費に依拠、大手国内工場なら“品質ロス見越し”で高めに見積もります。
このギャップも、価格交渉で知っておくと有利になる要素です。
4. プリント・刺繍・加工費
OEMパーカーにとってロゴプリントや刺繍はブランドアイデンティティの象徴ですが、ここが原価を大きく左右します。
プリントは色数や面積、転写方式、タタキ回数(多色刷ならその分コストUP)で価格が決まります。刺繍も同様で、針数・番手数、細工複雑性が料金のレバーです。
シリコンラバー加工や特殊加工(ウォッシュ加工など)は、実は“型代”と“技術料”がセットになるケースがほとんどです。
5. 輸送・梱包コスト
意外と見落としがちなのがここです。
国産か輸入か、ロットごとの運送、梱包方法(まとめ梱包か個別包装か)でコストにばらつきが出ます。
現場目線で言えば、納品時の「検品作業コスト」「物流倉庫保管コスト」も見積りに含めている工場が増えており、明細を分解して確認すべき“落とし穴”となっています。
OEM見積もりの裏側にある“業界の常識”
アパレルOEMの見積もりは、単純な足し算ではなく「いかに工場・サプライヤーがリスクを見積もるか」に色濃く反映されます。
サプライヤー側の計算公式
多くのOEM見積もりは下記のような計算軸で構成されています。
1. 素材原価+副資材原価
2. 加工費(縫製+プリントや刺繍の職人賃)
3. 調達リスク分のバッファ(ロス、返品リスク、最低ロット割れへの対応)
4. 輸送・梱包コスト
5. 工場側の利益(原価率10〜30%上乗せが多い)
大手工場は「トラブル対応」「短納期プレミアム」「下請け搾取」など、明文化されない“慣習フィー”も織り込む傾向が強いです。
逆に、個人や小規模OEM工場ほど「赤字案件が致命傷」になるため、かなり保守的にロス率や経費バッファを見積もる傾向が顕著です。
なぜ見積もりが企業ごとに大きくブレるのか
原価項目が大きく変わらないのに見積額が2〜3倍も開く背景には、次の昭和業界的な“暗黙知”があります。
– 工場側の実力・信用力による上乗せ(信用プレミアム)
– 発注ロット・柔軟性(ロット割れの割増)
– 発注元の交渉力(初回の“お付き合い価格”)
– 工場の混雑具合(閑散期は安い、繁忙期は割高)
– “見えないサービス”の抱き合わせ(検品・小ロット対応・納期調整)
つまりバイヤーの「言い値」や要望への応え方次第で、見積額は大きくブレます。
OEM原価を制するバイヤーの視座とは
アパレルOEM初心者が本当に知るべきなのは「値切り」テクニックではなく、“工場側の損得シミュレーション”まで想定しつつ、論理的に交渉を組み立てる視点です。
打ち合わせ前にすべき3つの準備
1. 最低ロット(MOQ)の確認
1, 10, 30, 50枚…工場ごとの設定を事前に聞き、可能な場合は複数工場を比較しましょう(ロットUPで生地原価大幅減などボリュームディスカウントが絡むため)
2. 全工程の原価分解
見積書をもらう際は、必ず「生地コスト・副資材・縫製・プリント・輸送」など工程別明細で提出してもらいましょう。ブラックボックス防止に有効です。
3. ピーク納期・閑散期の把握
OEM工場は縫製ラインの稼働タイミングで値付けや対応力が大きく変動します。希望納期だけでなく、「閑散期にずらせばコストダウン可能か」など現場感覚を持ち込むと有利です。
交渉の本質は“Win-Win”の枠組み作り
現場の工場長として痛感したのは、無理な単価要求や無理な納期短縮は結局「品質リスク」「隠れロス」「急なコストアップ」に跳ね返るという現実です。
単純な値下げ要求ではなく、例えば
– ロットを30枚→50枚に増やす分、単価を調整する
– 特殊タグや加工を標準品に変更してコストダウンを図る
– 納期に余裕を持たせ、閑散期調達で工費削減
など、現場にメリットが残るような柔軟なWin-Win提案ができれば、OEM工場からも「次回以降の優遇」が期待できます。
まとめ:これからの製造現場とOEMバイヤーの関係
デジタル化が進む今でさえ、アパレルOEMの現場はアナログな“経験則”や“知恵比べ”が色濃く残る業界です。
パーカーOEM原価の構造を理解し、細かな数字や現場目線での対応を積み上げることで、「見積もりの裏側」を読み解けるようになります。
原価項目ごとの分解と論理的な説明を求めること、自社サイドでも発注数量・仕様の明確化や柔軟な折衷案を提示すること、そしてお互いをリスペクトする信頼構築が、コスト競争力と品質の両立を導く一番の道筋です。
OEM依頼者・バイヤーとして、あるいはサプライヤーとしても、「数字」と「現場」の両面から戦略的にアプローチすることが、競争が激化するアパレル市場で生き残る鍵といえます。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
アパレル現場のリアリティと新時代の知恵を共有しながら、「現場目線の改善文化」を一緒に盛り上げていきましょう。
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