投稿日:2025年12月24日

消耗品コストが見えにくい加工法の落とし穴

はじめに:加工現場に潜む「見えないコスト」とは何か

製造業に携わる方なら、原材料や人件費など主要なコスト項目には常に目を配っていらっしゃることでしょう。
しかし、現場で実際に作業をしていると、どうしても「消耗品コスト」が見えにくくなってしまうことが、多くの企業で問題視されています。

特に昭和型のアナログな職人気質が色濃く残る工場では、経験や勘を重視した管理が根付いています。
このため、「この工程のグラインダの砥石はこれくらいで普通だろう」「切削油は毎月、一缶使うもの」と、消耗品コストをしっかり見直す機会が持たれにくいのが現状です。

今回の記事では、加工法の中で見落とされがちな消耗品コスト、そしてその「落とし穴」の正体と対策について、管理職や現場実務を長年経験した筆者の目線で掘り下げます。

消耗品コストが見えにくい理由

見えにくさの正体:「あたりまえ」の裏にひそむ経費

たとえば、CNC旋盤やマシニングセンタによる金属加工現場を考えてみましょう。
材料費や加工時間は案件毎にきっちり計算します。
ところが、エンドミルやドリルなどの工具、切削液、ワーククランプのゴムパッキン、洗浄用アルコール、保護手袋などの「消耗品」は、会計上まとめて雑費や、消耗品費で一括されて管理されがちです。
日々の伝票処理も現場任せで、「何本使ったのか」「どんな状況で交換したのか」までは追いきれていないのが普通です。

ユーザー企業だけでない、サプライヤー側にも潜むコストの見落とし

バイヤー(調達担当)にとって、消耗品コストは見積依頼時に大切なヒアリング項目です。
しかし、サプライヤー側も多品種・小ロット生産の現場では、「平均してこれくらい」と根拠の曖昧な数値を出してしまいがちです。
このため、いざ「なぜこの工数なの?」「材料費は適正なの?」と突っ込まれたときに消耗品コストを充分説明できず、バイヤーとの信頼関係が崩れてしまうリスクもあります。

加工法別、消耗品コストの「落とし穴」事例

切削加工のケース:工具寿命と切削条件の最適化がキモ

切削加工現場では、エンドミル、ドリルのチップ、切削油が主な消耗品です。
見えにくいコストの代表例が、「いつも同じ条件で加工している」ことによる工具の早期摩耗や、切削油の過剰使用です。
実は工具メーカーの推奨条件に忠実に合わせ、かつ工具摩耗をこまめに計測すれば、本来想定していたよりも2割以上長寿命化を実現できる場合もあります。
しかし現場では「いい感じになったら交換」の文化が根強く、無自覚のうちにコストとロスが発生し続けています。

プレス・成形加工のケース:「型」のメンテナンス忘れ

プレス、あるいは射出成形の現場でも、金型グリースや摺動部の潤滑など「型回り」の消耗品は見落とされがちです。
「型が痛んだ」となってから見直す企業も少なくありません。
ここでの落とし穴は、“見えにくい部分のメンテナンスコスト”が、最終的に製品不良やクレーム対応コストとして跳ね返ってきてしまう点です。

溶接や表面処理のケース:消耗品コストと安全対策の両立

溶接現場では、溶接棒やワイヤ、シールドガス、溶接面のフィルタなど多種多様な消耗品があります。
消耗品へのコスト削減を目指して安価な代替品に切り替えた結果、溶接品質が低下した、作業員の安全が損なわれた、といった逆効果も起こりがちです。
見かけのコストダウンだけにとらわれず、本当に必要な品質レベル・安全水準を維持する視点も重要です。

「見えにくいコスト」を可視化するラテラルなアプローチ

現場発のボトムアップ集計と、IoT・デジタル活用

アナログ文化の現場こそ、実は現場作業員の気付きや経験値によるムダ排除ノウハウが無数に存在します。
現場改善活動(KAIZEN)で効果を上げる工場は、消耗品管理も「まずは現場の気付き・小さな集計」からスタートします。
例えば
– 工具交換の都度、交換理由や使用時間をシールで工具キャディに貼る
– 切削液を継ぎ足す都度、日付・量を簡単な表にメモ
– プレス用金型のグリスアップを作業標準書に追加で記録する

さらに最近は、IoTツール(工具寿命管理、切削液モニタリングセンサーなど)を用いた自動データ収集も普及しつつあります。
「消耗品の変化点をデジタルで記録する」ことで、人為的なバラツキや見落とし、属人化が減り、根拠のあるコスト管理へ近づくことができます。

サプライヤー、バイヤー双方の「見積の見える化」推進

バイヤーの立場であれば「どの消耗品が、どの加工でどれだけかかるか」まで見積明細を細かく要求することで、隠れコストの洗い出しがしやすくなります。
一方サプライヤーも、実際の消耗品使用状況に基づいたデータを用意しておけば、価格交渉時の根拠となり、無用な値引き交渉や不信感を減らすことができます。
重要なのは、「ブラックボックス」をなくし、相互に根拠の明確なオープンブック方式を推進することです。

コスト管理と現場力の両立:「いつものやり方」からの脱却へ

「なんとなく普通」を疑う重要性

今までの「慣習的」な消耗品管理は、日本の製造現場に深く浸透しています。
「去年も同じ」「前任者のやり方」。
しかし時代は、デジタル化、グローバル化、価格競争と目まぐるしく変化しています。
競争力向上には、いま一度「本当に最適な消耗品の使い方・管理方法は何か?」を現場レベルから問い直すことが必要です。

設備メーカーや消耗品サプライヤーとの情報連携がカギ

最新の設備や高付加価値の消耗品は、従来品に比べて価格は高いものの、作業性や寿命、歩留まりの向上による「トータルで見たコスト低減」が期待できます。
しかし、現場が「高い=悪」と受けとめて機械的に排除したり、バイヤーが価格の安さだけを重視して選定するようでは、逆にロスを増やしてしまいます。
せっかく現場から上がってくる提案や、サプライヤーの新技術情報を積極的に吸い上げ、現場と一体となってコストの最適化と品質確保を両立することが理想です。

最後に:製造業の未来と「消耗品コスト」への意識改革

消耗品コストの「落とし穴」は、多くの製造現場で長年根付いている構造的な課題です。
昭和時代的「顔の見えるモノづくり」も確かに美点ですが、2020年代以降のグローバル競争期に生き残るには、「見えにくいコストをどう管理し、業界全体で成長力を高めていくか?」が問われています。

現場、サプライヤー、バイヤーが対等のパートナーとして、お互いの視点と知識をオープンに共有すること。
小さな改善・数値化・情報連携。
これら積み重ねが、日本の、そして世界の製造業を持続的な発展に導く原動力となります。

「見えない」からこそ、見ようとする姿勢。
それが、真の現場力、そして現代のバイヤー・サプライヤーに求められる新たな競争力です。

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