投稿日:2025年9月26日

顧客が勝手に使用材料を安価品に変える隠れたリスク

はじめに―その材料、本当に“想定通り”ですか?

製造業の現場で長年働いていると、しばしば顧客が「コストダウンのために、こちらが選定した材料を独断で安価品に置き換える」例に遭遇します。
一見「経済性を優先した合理的な判断」に見えても、その背後に思いもよらぬリスクが潜んでいることを、現場経験をもとに解説します。
この問題は購買担当・バイヤーはもちろん、サプライヤーや工場現場の皆様、さらにはこれから関わろうとするビジネスパーソンにとっても、本質的なテーマになります。

「材料変更」がもたらす目に見えないリスクの全貌

現場のあるある:「同等品」表記の罠

発注図面や仕様書に「同等品可」「指定銘柄または同等品」などの記載がある場合、顧客側がコストカットのために既製品の中から廉価な材料を選定し、サプライヤー側に使用を指示することは少なくありません。
現実の現場では、「同じJIS(日本産業規格)の記号が入っていれば問題ない」「顧客指定の材料メーカーは納期が長いし高いから、このメーカーに切り替えてしまおう」という判断が下されることがあります。

昭和的アナログ文化が生む“言った・言わない”の溝

とくに、昭和時代からの製造業では「現場判断」や「長年の付き合い」が重視され、ドキュメントやデータの裏付けが不十分なまま材料変更が進行してしまうことが現実問題として残っています。
「うちの工場で前も同じ材料を使ったから大丈夫」と、経験則に頼りきってしまい、材料のロット差やメーカーごとの差異による品質リスクが軽視されがちです。

見落とされる「小さな違い」が巨額損失につながるワケ

材料のメーカーや等級が違うと、化学成分や機械的性質、表面処理方法などにわずかなバラつきが生じます。
この微差は当初は目立たなくても、量産時や環境変化、長期使用後にトラブルの火種となり、「アッセンブリー不良」「耐久不良」「品質クレーム」などの巨額損失を引き起こしかねません。
そのリスクに気づけないまま製品化されてしまった場合、後戻りができなくなり、対処コストが爆発的に増大してしまうのです。

現場目線で伝えたい「安価材料切り替え」の実践的リスク

1. 加工性や歩留まりの悪化

目先の材料費ダウンにとらわれて、いざ加工工程に入ると「加工条件がきつくなる」「刃物が著しく摩耗する」「歩留まりが悪化して再加工が必要」といった“隠れたコスト”が浮き彫りになります。
現場の職人や生産管理担当は「この材料、なにか違うぞ?」と違和感を覚えますが、安価材料への切り替えが正式な手順・記録を通していなければ、問題の原因特定は困難です。

2. 品質保証・トレーサビリティの崩壊

製造業においてトレーサビリティ(追跡可能性)は納入先から信頼を勝ち取る重要な要素です。
しかし、「顧客が勝手に材料変更」→「現場で記録されていない」→「後日問題が発覚し、元の材料に戻せない」といった情報の断絶が生じると、品質保証体制そのものが崩壊します。
サプライヤーの立場では「正規ルートで調達された材料ではない」と見なされ、責任分界点が曖昧になります。

3. 顧客とサプライヤー間の信頼関係悪化

安価材料への切り替えを黙認した場合、ラインで問題が起きたときに「責任のなすりつけ合い」になるリスクが高まります。
バイヤー側は「コスト優先で、リスクはサプライヤーが被って当然」と考えがちですが、サプライヤー現場では「信頼していたのに勝手に材料を変えられて事故が起きた」と不信感が生まれます。
このような小さな不協和音が積み重なると、長期的なパートナーシップ自体が破綻しかねません。

日本の製造業が抱える「アナログ流儀」の根強さ

昭和レガシーが今も息づく現場

ITツールが発展した令和の時代においても、日本の中小・中堅製造業では「属人的な材料切り替え」「紙ベース管理」「口頭での合意」が残っています。
一つの理由は、技術伝承における「阿吽の呼吸」の文化や、長年の仕入れルートで形成される“なあなあ”の関係性にあります。

アナログ環境ゆえの情報伝達・記録の限界

手書き伝票やFAX、口頭確認といったアナログな業務フローが今も温存されていると、現場の最初の材料変更情報が組織内で消えてしまうことが頻発します。
誰が、いつ、なぜ、どこで材料を変えたのかが記録されなければ、いざ不具合が起きたときに「遡及調査」ができません。

こうした背景から、実は“材料選定と変更のガバナンス”が重大な経営課題であるにもかかわらず、現場の現実に即した対応ができていない企業が数多く存在します。

バイヤー・サプライヤーの双方に求められる変革と意識

コストダウン活動とリスクマネジメントの両立

近年の製造業では、材料費・外注費の徹底削減が至上命題となっていますが、その一方で「目先のコスト減」だけを目指すと、将来的な品質事故につながるリスクを孕みます。
バイヤーは単価比較や相見積もりだけでなく、「最終製品性能や品質保証、法規制への適合性」も総合的に見極めながら材料変更を企画すべきです。

サプライヤー現場のプロフェッショナル魂を活かす

サプライヤー側は「安価だから」と安易に材料を切り替えるのでなく、自社加工工程や製品品質への影響を徹底評価し、必要に応じて顧客へリスク説明・データ提示を行う責任があります。
経験豊富な現場管理者こそ「なぜこの材料でなければならないのか」「どんな過去失敗・成功事例があるのか」を明確に説明できるよう、ナレッジの共有と記録を密にしましょう。

現場視点のナレッジマネジメント強化の必要性

材料の選定基準、過去のトラブル事例、顧客要求事項と自社の対応方針など、現場情報を“現場の感覚”に頼らず仕組み化し、次世代への技術伝承を強化する必要があります。
IoTやデジタル管理の仕組み導入はもちろん、現場経験者の知恵をロジカルに「可視化」することで、材料変更に伴うリスクの芽を早期発見できます。

顧客主導の「隠れ材料変更」を防ぐための実践策

1. 材料指定・変更履歴の厳格な管理と社内標準化

設計書・仕様書段階から材料指定の根拠や許容条件を明文化し、バイヤー・現場・技術部門など関連部門が一体となったチェック体制を築く必要があります。
さらに、材料変更にあたっては「影響分析」「試作品での検証」「顧客・サプライヤー間での文書合意」などの標準オペレーションを導入しましょう。

2. 顧客とのコミュニケーションの深化

バイヤーやエンジニアは「このコスト削減案はどんなリスクを持つか?」「顧客への品質保証体制は万全か?」を常に問い直し、サプライヤーへの説明責任を果たす姿勢が求められます。
また、サプライヤーも「現場起因のリスク」を率直にフィードバックし、互いの現場力を生かす双方向コミュニケーションと情報共有習慣の定着が不可欠です。

3. 工場の自動化・DX推進で「現場の記録」を残す

IoTセンサーや生産管理システムの導入によって、どのロットで・どの材料で・どのような工程を経たかの生データを蓄積できる時代になっています。
属人的な記憶頼みから脱却し、「もしもの事故発生時にも即座に遡及調査できる仕組み」をごく当たり前に運用していくことが、令和の製造業の条件になります。

まとめ―「小さな安易さ」が大事故を生む、その原点は現場

顧客が勝手に使用材料を安価品に変える——その一瞬の判断が、「目先の利益」と引き換えに未来の品質事故・損害賠償・信頼毀損を招くという現実。
昭和の“現場勘・勘定・感覚”に頼るだけでなく、現場の声・知恵を体系化し、情報伝達・記録・ガバナンスを徹底することが、令和の製造現場に求められる最大の進化です。

単なる金額や納期だけでなく、製品のライフサイクルを俯瞰し、バイヤーもサプライヤーも「リスクに強い現場づくり」を協働で推進する。
それこそが、真に強い日本のものづくりに繋がる道だと私は確信します。

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