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出荷作業が属人化することで生まれる見えないリスク

目次
はじめに:出荷作業の属人化と製造業の停滞
製造業の多くの現場で、出荷作業が一部のベテラン従業員や特定の担当者に大きく依存する「属人化」が進んでいます。
これは一見、熟練者のノウハウが品質や迅速な対応を支えているように思えるかもしれません。
しかし、昨今の厳しい経営環境やグローバルな取引環境の中で、この属人化が大きなリスクとなり、企業の競争力、ひいては顧客評価や収益にも目に見えない悪影響を及ぼしているのです。
本記事では、現場管理者としての経験、そして現役バイヤーやサプライヤーの実情にも目を向けつつ、出荷作業の属人化によって生じる現実的なリスクとその本質、さらに今後製造業が進化していくための具体的な指針まで掘り下げて考察していきます。
出荷作業が属人化する背景とは
昭和的な現場文化と変化への抵抗
多くの日本の製造業は、長い年月を通して「現場力」と呼ばれる、個々の職人技や経験知に支えられて成長してきました。
特に出荷作業では、伝票の読み間違いや、最適な積載方法、業界ごとに異なる荷姿・ラベルの取り決めなど、細やかな判断が求められる場面が多く存在しています。
こうした難しさに対応するため、現場は自ずとベテランに頼りきる文化になり、業務の標準化やマニュアル化が後回しとなりやすいのです。
一方で、IT化や自動化の重要性は叫ばれ続けているものの、「ウチの現場では厳しい」という半ばあきらめにも近い心理が根強く残っています。
日本人の「丁寧さ」と「排他性」
加えて、日本人の「丁寧に間違えずにやりきる」マインドは強烈です。
これは誇るべき国民性ですが、逆に「自分にしかできない仕事」として守りに入ってしまいがちな傾向も。
現場では「手順はAさんに聞かないと分からない」「Bさんだけがこのお客様の出荷はできる」などの状況が珍しくありません。
その瞬間は安定しているようにみえても、誰かが病気や事故、または定年で抜けた途端に混乱が生じる。
そういった現場が、今なお日本中で多発しているのが現実です。
属人化によって生まれる見えないリスク
リスク1:品質事故やクレームによる信用失墜
属人化が進むことで、最も重大なのが「うっかり」「思い込み」によるミスの発生です。
ベテランであっても人間であることには変わりありません。
繰り返しの作業に慣れるにつれて注意力が低下しやすくなり、同じ伝票記号でも一部読み違えたり、勘違いから誤出荷が起こることがあります。
最終的に取引先で不良や納品遅延が発生し、「この会社は信頼できない」というレッテルを貼られるリスクは非常に高いです。
実際、現場目線での「大丈夫」は、バイヤーや顧客企業にとっての「リスクの予兆」でしかありません。
リスク2:仕事の属人性が現場の閉塞感とブラックボックス化を招く
特定の人だけが全てを握っている状態は、業務の透明性を著しく損ないます。
例えば、その人が急な家庭の事情で長期間休むことになった場合、業務が完全にストップし、他のメンバーの負荷が急激に上がります。
これが職場のストレス、離職の増加、新人教育の停滞につながり、「どうせベテランしかできないから」と悪循環が生まれます。
結果、若手や中堅が育たず、現場知が継承されないまま企業そのものが老朽化していくのです。
リスク3:非効率そしてコスト高
属人化した業務プロセスは、その人なりの「やり方」がベースとなっており、第三者から見たら無駄な動作や重複作業が数多く存在します。
例えば出荷ラベルの貼り方、梱包資材の抱え方、伝票の並べ方、いずれも暗黙のルールとなっていることが多いです。
これは、現場の省力化・自動化設備導入の最大の障壁にもなります。
また、作業方法が標準化されていないために、教育訓練のたびに無駄な時間とコストが発生します。
この結果、同業他社と比べて納期対応力・コスト競争力で見劣りし、最終的には価格交渉の場面でディスアドバンテージを背負う構造です。
調達・購買、サプライヤー視点から見た属人化の実害
バイヤーが最も嫌う「不確実性」
バイヤーは、安定した品質と納期を武器に取引先を選びます。
もしも現場が属人化していて「誰かがいないと回らない」状態だとしたら、それは企業としての脆弱性に直結します。
取引を始める前の工場監査や、継続取引のなかで、現場がどの程度業務を標準化しているか、リスクにどう向き合っているかは非常に厳しくチェックされています。
属人化が進んでいる会社は、長期的なパートナー候補から外されても不思議ではありません。
「なぜこの工程が必要か」が説明できないことの危うさ
多くのサプライヤーが「昔からこうやってきた」という理由だけで手順を守っているケースが多く見られます。
しかしバイヤーは、コスト低減や納期短縮の要望とともに「なぜこの手順が必要なのか?」と本質的な問いを投げかけてきます。
現場に説明責任と透明性がないと、顧客のロジックとギャップが生じ、値下げ要請や品質監査などで圧倒的に不利な立場に立たされます。
現場の「名人芸」は決してバイヤーにとって安心材料ではなく、「明日には消えてしまいそうなリスク」そのものなのです。
調達部門も「現場の柔軟性」に目を光らせている
バイヤーは「この会社はイレギュラー対応できるだろうか?」という現場力も重視しています。
しかし属人化している職場の場合、いつまでも特定のやり方に固執し、急場のオーダーや変更対応に極端に弱くなります。
これは取引を続ける上で、致命的なディスアドバンテージとなるのです。
属人化を脱却するために今、現場でできること
自動化の前に業務の「見える化」を
IoTや自動化は確かに有効です。
ですが、いきなり機械化・IT化を推進しても、属人的な作業がブラックボックスのままでは、適切なシステム化が進みません。
まずは現場一人ひとりの作業手順、判断基準、現状のマニュアル、使っている帳票・伝票などを全員で「書き出す」ことが重要です。
Aさんの手順とBさんのやり方を比較する、動画を撮って違いを可視化する、といった地道な「見える化」作業こそが属人化脱却の第一歩なのです。
業務フローの標準化と「例外」ルールの制定
次に、「誰がいつやっても同じ成果になる」標準プロセスへの置き換えを。
現場ヒアリングを繰り返し、最小限の手順にまとめ直すことで、新人でも取り組みやすく、教育のコストや手戻りを削減できます。
一方、例外処理(特殊梱包、特別納品先指示など)は必ず「判断ルール」を明文化しましょう。
曖昧な属人判断は厳禁です。
「50kg以上はこう積み増す」「○○社向けはこのラベルを追加」など、例外の取り決めを皆で検討してルール化するのが肝です。
継続的な「ふりかえり」と外部視点の導入
人はどこかで楽なやり方や、昔のやり方に戻りがちです。
ですから、定期的に業務を棚卸しして「今のやり方は本当に最適か?」を全員でふりかえる機会を設けることが重要です。
さらに、時には他部署やバイヤー、外部コンサルタントなどの「第三者の目」を入れることで、「現場の常識」を打破するきっかけが生まれます。
これからの製造業が勝ち抜くためには
現場と経営、人事、IT部門が一体となった改革を
属人化を解決したいなら、現場頼みでは限界があります。
マニュアル・標準化の維持更新には、人事部門の教育・評価システムやIT部門の業務サポートも不可欠です。
また、経営層が「標準化・脱属人化は経営戦略だ」と位置付けて、リソースを惜しまず投入する覚悟も重要です。
共通言語と「つながる」現場へ
今後は、現場ごと、工場ごとにバラバラな手順ではなく、グループ全体で共通言語化された手順・管理指標が不可欠です。
こうすることで、人の異動や新規事業、買収先工場への展開も柔軟にできるようになります。
さらには、製造業が目指すスマートファクトリーやサステナブルな生産に不可欠な、データ連携・生産情報の「つながり」が加速します。
まとめ:属人化に向き合い、見えないリスクを可視化する
出荷作業の属人化は、見えないリスクを現場の奥底で静かに育てています。
「うちは大丈夫」と思っている瞬間こそが、最も危険な兆候です。
百戦錬磨の現場経験を持つ私自身も、何度も「慣れ」による大きな失敗や、取引先からの厳しい指摘を受けてきました。
しかし、そのたびに「見える化」や「標準化」に取り組むことで、現場の力は何倍にもなり、バイヤーや顧客の信頼も飛躍的に高まりました。
今こそ目の前の業務だけでなく、5年後・10年後を見据え「業務の見える化・標準化」を全員で考えるタイミングです。
製造現場、サプライヤー、そしてバイヤー。
すべてのプレイヤーが「脱・属人化」に本気で取り組むことで、日本の製造業はもう一段高いステージへと進化できることでしょう。
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