投稿日:2025年10月10日

電池の安定した電圧を生む電解液注入とシール工程の高精度化

はじめに:ものづくり現場が直面する電池製造の精度向上

現在、車載用途からスマートフォン、IoT機器に至るまで、リチウムイオン電池を中心とした電池の安定供給は社会インフラの根幹を支えています。

特に「電池の安定した電圧」を長期間維持することは、ユーザー体験や機器そのものの安全・寿命に直結する最重要ポイントです。

この安定性を左右するのが、工場現場での「電解液注入」と「シール」工程の高精度化です。

本記事では、20年以上現場で培った知見とラテラルシンキングに基づき、アナログ的な現場習慣が根強く残る製造業でも実践可能な最新動向、課題、そして解決策を具体的に解説します。

現場の「知恵」と最新テクノロジーの融合で、あなたの工場運営・調達活動が一歩先に進化するヒントをお伝えします。

電池不良の“根本原因”と、なぜ今電解液・シール精度が問われるのか

不良電池はなぜ発生する?

電池製造における典型的な不良には、「膨張」「発熱」「容量劣化」「短絡」などがあります。

その多くは、実は電池内部での「電解液の不均一な浸透」や「シール不良」から発生します。

現場では“目視検査”や“経験者の肌感”に頼る部分も多いものの、数字で見れば不良流出は激減しません。

バイヤーにとっても、サプライヤーとの信頼関係維持やリコールリスク低減の観点から、この二つの工程の安定的な高品質維持が大変重要です。

電解液とシール:どこで精度が乱れるのか

電解液注入工程では、単なる「液体の注入」ではなく「均一な湿潤」「内部空隙の極小化」「絶対量の機械的精密管理」が必須となってきました。

一方で、シール工程では「異物混入」「圧着強度不足」「溶着温度・圧力管理のズレ」などが不良の温床です。

とくに、昭和の時代から続く現場の“暗黙知”に頼った運用では、工程がブラックボックス化しやすく、問題の早期発見・再現性向上に壁が立ちはだかります。

最新製造現場での高精度化アプローチ

1. “アナログからの脱却”を阻むもの

現実には、工場内の自動化やセンサー導入が進んでも、最後は“経験者の感覚”での微調整や“見た目”への依存が根強く残ります。

これは工程の属人化や再現性の低下、引き継ぎ時のリスク増大を招きます。

また、設備投資やシステム刷新が大規模化しがちで、「現場主導の改善」が進めにくい業界特有の悩みもあります。

2. 独立検証できる定量品質指標の設定

高精度化のためには「目標値と許容範囲」の数値化と、現場スタッフでも追いかけやすい管理指標の分かりやすい設定が不可欠です。

例えば、電解液注入工程であれば、重量異常・注入時間異変・内部圧のリアルタイム監視など、IoTセンサーを活用し“異常の見える化”を推進します。

また、シール強度についても材料特性×圧着温度・圧力・時間の最適組み合わせを事前に取得し「異常傾向の早期把握」を実現する取り組みが進んでいます。

工程改善の最新事例と導入ポイント

高精度注入:マイクロポンプ&AI流量制御の活用

微細化・高容量化が進む電池では、電解液の注入量精度は±0.02g以下が求められるシーンもでてきました。

ここで有効なのが「マイクロポンプ」による均一注入と、画像認識や圧力計からのフィードバックをAIが解析し、「その場で最適注入量を自動補正」する流量制御技術です。

これにより、従来の「目分量」や「旧来の定量ポンプ制御」のみでは難しかった“ばらつき”の劇的低減が可能となっています。

圧着・シール工程の最適化:データ駆動とリアルタイムフィードバック

シール工程の要は、清浄度・温度・加圧・時間パラメータ管理です。

工場によっては、圧着バーの“押し込み過ぎ”“加熱ムラ”でバラツキがでてしまっていたものが、現在では

– 温度・圧力分布の定点センサー配置
– バー押し込み量と時間データの自動ロギング
– 仕上がり部位の画像データと仕組みの「紐付け解析」

などによって、連続生産中でもリアルタイムで“エラー傾向の検知→即微調整”が進められるようになりました。

属人化を極力抑えることで、工程の標準化・継承負担軽減・歩留まり向上につながります。

バイヤー・サプライヤー双方に求められる“透明な品質づくり”

調達目線では「実データ×トレーサビリティ」がカギ

“良い電池とは現場の感覚でなく、誰にでも再現できる条件で安定供給ができるもの”です。

バイヤーはサプライヤーに「品質安定化の仕組みと、問題発生時の速やかなトレース可能性」を求めています。

ですので、

– 電解液の注入量やシール圧着情報のリアルタイムデータ提出
– バッチ間・タイミングごとの工程データ履歴
– 問題発生時の迅速なフィードバック体制

この三点セットを備えているサプライヤーであれば、長期的な信頼契約・高単価要望もしやすくなります。

サプライヤー目線では「現場起点のデータ活用力」が強み

急激なデジタル化波に乗り遅れる現場でも、小さなIoT化や工程可視化から始めることで、

“安全・安心・安定”を顧客に数字で訴えられるようになります。

現場スタッフの知恵やベテランの目利き力を、「データ」という形に変換する努力が市場競争力強化の起点です。

今後の製造業現場は「現場知とITのハイブリッド化」へ

デジタル化が進む一方で、現場感覚や不良時の勘どころ―これはAIシステムでもなかなか拾えません。

大切なのは、昭和流の“目利き”をITで再現し切ろうとするのではなく、

「どの工程で今もアナログ頼りの部分が残っているか」
「そのデータ化や可視化を、現場スタッフが納得して受け入れられる運用設計になっているか」

という地道な現場対話とシステム刷新のサイクルです。

工場内でよくある「新システムを“使ってるふり”するだけ」にならないよう、KPI(重要業績評価指標)や現場ごとの運用マニュアルも細やかに整備しましょう。

まとめ:製造業の未来—強い現場は“進化と継承”の両立でつくられる

電解液注入とシール工程の高精度化は、もはや「現場力+データドリブン運営」の二輪でしか達成できません。

現場の“いぶし銀のノウハウ”を、分かりやすい定量データとして見える化し、
バイヤーとサプライヤーが「お互いが納得できる論理的・透明性のあるやり取り」を実現すること。

これが、日本の製造業が「昭和の遺産」から進化し、世界の顔となるカギです。

目先の設備更新だけでなく、現場対話とラテラルシンキング(横断的思考)で、次なる進化の地平線を拓いていきましょう。

この取り組みは、電池製造工程だけでなく、あらゆるものづくり現場の強みとして根付かせていく価値があります。

貴社の現場改善活動の一歩に、ぜひこの記事の内容を役立てていただければ幸いです。

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