投稿日:2025年6月19日

車載およびパワーデバイスにおける高信頼性樹脂封止技術と放熱技術および事例

はじめに

自動車の電動化やパワーモジュール市場が拡大する中で、車載およびパワーデバイスに求められる「高信頼性」と「高効率放熱」はますますその重要性を増しています。
部品の小型化や高機能化が進む一方で、回路動作の安定性確保や長期信頼性の向上、さらには熱による劣化防止が事業継続に直結するほど大きな課題となっています。
これらの課題を解決する鍵となるのが、「樹脂封止技術」と「放熱技術」です。
今回は、現場で実際に採用されている封止材料選定や放熱設計のノウハウ、そして近年の業界動向や事例について、現場管理職経験者ならではの目線で徹底解説します。

車載およびパワーデバイスが直面する課題

車載機器の高性能化と小型パワーデバイスの進化

近年、車載用エレクトロニクスはADASやxEV(電気自動車、ハイブリッド車)の普及によって搭載部品数自体が激増しています。
パワーデバイスに目を向けると、インバータ、コンバータ、バッテリーマネジメントシステムなど、モジュール化・高密度実装、ならびに「小型化」と「高出力化」の両立が強く求められます。

この進化の裏で、信頼性低下(はんだクラック、配線剥離、絶縁劣化)や熱暴走によるトラブルが顕在化しやすくなっています。
従来のアナログ的な現場対応や経験則のみに依存する時代は終わりつつあり、「科学的根拠」や「DX活用」も求められるようになりました。

車載品質の“ゼロディフェクト”要求

自動車は事故など人命に直結するため、電気部品ひとつとっても「ゼロディフェクト」、すなわち不良ゼロが厳しく求められる特殊業界です。
電子部品の封止材料や冷却設計においても、微細なクラックやボイド、後工程のオーブンや環境ストレス試験に起因する不良も一切許されません。
このような背景から、小さな部品内でも「熱」と「封止」に関しては徹底した管理と知見が業界全体に根付いています。

高信頼性樹脂封止技術の進化

オーソドックスから最新エポキシ樹脂まで

樹脂による封止は、外部環境からデバイスを守るだけでなく、電気的絶縁、熱・機械的ストレスの緩和、耐湿・耐薬品性能の付与など多様な役割を担います。
車載・パワーデバイス用には主にエポキシ系樹脂が採用されてきましたが、環境対応、信頼性向上、量産性向上などのニーズから続々と新タイプが登場しています。

具体的には、高耐熱型・低応力型・低吸水型・高フロー型・無ハロゲン型など、細分化されたグレードアップが進んでいます。
例えば、パワーデバイスではサイクル時の膨張収縮に強い低応力型(弾性率調整)のエポキシ樹脂や、従来よりも界面接着性の高い分子設計樹脂が実装現場で支持されています。

課題に合わせた材料選定と現場導入ノウハウ

樹脂封止の導入は「適材適所」が基本です。
たとえば、
– 絶縁耐圧が必要な基板実装品では、高耐圧型の樹脂
– サイクルテストの繰り返し熱応力対策には低弾性・クラックストップ型
– 車載電池搭載部品では、溶剤レス/無ハロゲンタイプ

――このような選定観点に加えて、現場では「樹脂流動性」「封止圧力」や「硬化条件最適化」も重要です。
近年、封止不良解析には赤外線透過X線装置やデジタルマイクロスコープも活用され、“不良原因の見える化”が進んできました。
導入事例としては、国内大手自動車メーカーが大手材料メーカーと共同開発した「高クラック抵抗性樹脂」の採用により、10年以上にわたり量産トラブルゼロの記録を維持しているケースもあります。

放熱技術の最前線と現場対応

従来放熱設計から最新ヒートマネジメントへ

パワーデバイスの熱課題は、「部品寿命」と「性能安定」に直結します。
従来は厚板アルミヒートシンク+シリコングリスでカバーしてきた現場も多いですが、小型化・高集積化により従来設計の限界が見えてきました。

最新の放熱技術では、
– 導熱フィラーを練り込んだ高熱伝導樹脂封止
– グラファイトシートやフェーズチェンジマテリアル
– 銅プレート内蔵モジュール構造
– ナノダイヤモンドやカーボンナノチューブ素材の応用
など、多彩なソリューションが開発されています。

中でも「樹脂自体に導熱フィラーを高濃度添加」する手法は、樹脂封止と放熱の“二兎を追う”現場導入例として注目を集めています。

実践的な放熱設計ノウハウとポイント

現場で失敗しないために重視すべきポイントは、
– 熱シミュレーションによるホットスポット特定
– 部品間隙間への高密着ギャップフィラー選定
– 油分散型と無機分散型の信頼性検証
– 樹脂流動性・硬化収縮率や実装後検査

など、机上理論だけでなく、現場で実際に「使える」信頼性設計が重要です。
一方で、アナログ的な現場芸として
– 実装部品の並びや厚み変更
– 冷却風の取り回し改善
– テストラインでの長期間データ蓄積
こうした改善活動も根強く残っています。

車載業界・パワーデバイスの最新動向と“DX浪潮”

デジタル技術との融合で進化するものづくり

ASSPやパワーモジュールサプライヤーでは、CAE(Computer Aided Engineering)シミュレーションやビッグデータを活用した製造現場“DX”(デジタルトランスフォーメーション)が本格化しています。
「スマート工場」での全数温度・応力測定、IoT端末によるリアルタイム不良検知など、人的スキルとデジタル知のハイブリッド型現場が増加中です。

これにより、これまで個人の“勘と経験”が頼りの世界だった樹脂封止・放熱設計も、
– DXによる適切な封止条件提案
– 熱ストレス解析による寿命シミュレーション
– 量産初期からの品質予測・異常検知
といった全く新しいソリューションが可能になっています。

ただし、アナログ一辺倒の昭和的体質が根強く残る中小現場や、人材流動の激しい現場では、DX浸透にギャップや抵抗感が強いことも現実です。
そのため、新旧技術や現場価値観の「上手なミックス」が成功のカギと言えます。

サプライヤーとバイヤーに求められる新たな提案力

現場目線で見ると、サプライヤー(材料・部品)が単なる価格勝負から、いかに“バイヤーの真の困りごと”を見抜き最適な材料・ソリューションを提案できるかが生き残りの分水嶺となりつつあります。

例えば、価格だけでなく「放熱性・信頼性保証・加工性・サポート体制」まで含んだ提案資料やデータ提供が受け入れられる傾向にあります。
また、バイヤーサイドも、材料や放熱特性の知見を深めることで、単なるコストダウン要員から“共創パートナー”へとシフトする人材が増えてきました。
これは、サプライチェーン全体の生産性や品質向上、長期的な競争力確保にもダイレクトに貢献します。

実際の導入事例~現場の苦労と成功のリアル

事例1:高耐熱・放熱一体型樹脂で品質革命

某大手自動車メーカーのインバータモジュール開発では、量産立ち上げ時に発熱量増大による故障率上昇が頻発しました。
従来のシリコン樹脂では追いつかず、材料サプライヤーとタッグを組み「高熱伝導フィラー配合型エポキシ樹脂」の試作に踏み切りました。
研究開発段階から連携し、試作段階で熱分布や熱劣化データを全数取得、DXでデータ蓄積しつつ造り込みを実施。
結果、放熱性30%UPと、量産後5年間での不具合“ゼロ”を達成しました。

事例2:現場主導の放熱経路改善で歩留まり向上

ある中堅電子部品メーカーの例では、車載用半導体パッケージ内のホットスポット対策で悩んでいました。
現場リーダーが「材料ばかりでなく機構にも着目」と、部品レイアウトの最適化やヒートシンク配置変更に着手。
既存のアナログ手法とデジタル熱シミュレーションをうまく融合させました。
材料コストを抑えつつ全体歩留まり10%改善という、現場力・工程力の好事例となっています。

まとめ~今後求められるバイヤー・サプライヤー像

車載・パワーデバイスの高信頼性樹脂封止技術と放熱技術は、ものづくり現場の絶え間ない挑戦と現場知見、そして最新デジタル技術の融合の上に進化しています。
品質維持・コスト・納期は当然、さらに未来志向(ゼロディフェクト・CO2削減・環境法規対応も)まで求められるのがこの業界のリアルです。

バイヤーや調達担当者を目指す方は、単なる価格交渉者から「技術価値」を見抜く目、リスクを事前に察知し、工程・材料・品質・現場運用まで一気通貫で考えられる人材への進化が必要不可欠です。
一方、サプライヤー側も提案型営業・開発支援・品質保証サポートに磨きをかけ、“共創型パートナー”としてバイヤーに寄り添うことがますます大切になってきます。
現場での実践や他社事例から学びつつ、物理現象や最新技術、組織や人間の「肌感覚」まで立体的に把握することが、製造業の明日を切り拓くのです。

以上、ものづくり最前線からの生きた情報とノウハウをお届けしました。
皆様の職場やキャリア設計での参考になれば幸いです。

You cannot copy content of this page