投稿日:2025年6月9日

SiC、GaNパワーデバイスおよびLED向け高温対応ダイボンド材料とその接合技術

はじめに〜半導体の進化が止まらない理由

半導体業界は、今まさに第3世代パワーデバイスであるSiC(シリコンカーバイド)やGaN(窒化ガリウム)の普及により、大きな転換点を迎えています。

これらの新材料は、エネルギー効率、耐熱性、スイッチング速度などあらゆる観点で、従来のシリコン半導体を凌駕しています。

自動車の電動化、5Gインフラ、さらには最先端LED照明や医療機器にも、これらの材料なくしては語れない時代が到来しています。

ですが課題も多く、新しい材料ゆえの製造難易度や、高温環境下での信頼性確保の難しさが立ちはだかっています。

特に、電力変換や高温下での安定動作が求められるSiC/GaNパワーデバイスや、白色LEDの製造分野においては、「ダイボンド」すなわち、半導体ダイ(チップ)を基板上へ接合する新たな材料・方法の革新が急務となっています。

本記事では、昭和時代から受け継がれた製造現場のアナログ技術も交えつつ、最先端の高温対応ダイボンド材料と、実践的な接合技術について、わかりやすく深掘りします。

業界動向を知りたい方、購買担当者、サプライヤーの皆様にとって「現場で本当に役立つ」情報をお届けします。

SiC・GaNパワーデバイス・LEDの特性が接合材に求めるもの

高温・高信頼性への要求の背景

SiCやGaNといったワイドバンドギャップ半導体は、200℃以上という高温下でも安定動作が可能です。

これは電気自動車のインバーター回路、鉄道のパワーモジュール、そして白色LED発光素子の実装など、極めて過酷な環境で使われる場面が多いことを意味します。

そのため、単に「つながればよい」では通用しなくなっています。

ダイの割れや接合界面の剥離が、致命的な故障・事故につながるためです。

従来のはんだ実装とのギャップ

昭和から続くシリコン半導体用のはんだ接合では、鉛(Pb)を含むSn-Pb系や、鉛フリー化の流れを受けたSn-Ag-Cu(SAC)系が主流でした。

しかしこれらは融点が200℃前後と低く、高温でのクリープ(時間による変形・疲労)が避けられません。

ワイドバンドギャップ半導体のパフォーマンスを最大化するには、より高融点・高耐熱・高信頼のダイボンド材料が必要なのです。

LEDの特異な課題

また発光ダイオード用チップは微細化・高出力化が進み、ヒートシンク能力と配線接合の両立、白色化用蛍光体との界面安定など、高難度の要求を突きつけています。

高温対応ダイボンド材料の種類と選定ポイント

1.Au-Sn共晶はんだ

もっとも伝統がありつつ、今なお現役なのがAu(ゴールド)を主成分とした共晶はんだです。

Au80%-Sn20%(融点:280℃)などが代表例です。

この合金は高融点・高耐食・熱膨張差への優れた追従性から、パワーデバイスのみならずレーザーダイオードや高信頼LEDでも採用されています。

難点は金価格の高騰、材料費の高さです。

2.銀シンタリングペースト

近年注目されているのが、銀(Ag)微粒子をペースト化し、加圧・加熱で焼結(シンタリング)する材料です。

銀の高融点(962℃)・高導電・高熱伝導と、無機材料ならではの高温安定性が強みです。

120~250℃程度で焼結できるよう設計されており、大型・高出力パワーデバイスのダイアタッチにはほぼ必須となっています。

導入には、焼結設備(プレス・炉)の初期投資や、ペーストの均質塗布・焼成管理のノウハウが求められます。

3.銅ピラー・Cu-Sn系材料

実装技術の微細化に合わせて、銅ピラー+Sn(錫)メッキやCu-In系低温焼結技術も活用されています。

はんだのように「溶かす」工程を取らず、より低温・短時間で高信頼な接合界面を作ることが可能です。

最新のファインピッチLED実装に好適です。

4.エポキシ・Agペースト(有機系インターコネクト材)

安価・簡便なダイアタッチ材料として、昔ながらのエポキシ接着剤系、銀充填エポキシなども今なお一部用途で使われています。

高温域ではガス発生や経時変化が課題ですが、用途とコストで適材適所の選択が大切です。

5.次世代金属間化合物接合

近年、SnやInなどの金属を中間層に利用し、自己組織的に高融点金属間化合物(IMC)を生成する手法も開発が進んでいます。

界面が厚く高安定となるメリットがあります。

実践的な高温接合技術の深化 〜 現場でのポイント

現場での歩留まり確保が最大の肝

どんなに高機能な材料でも、「歩留まりをいかに上げるか」「再現性をどう確保するか」が製造現場の最大の悩みです。

材料の選定時は、データシートのスペックだけでなく、現場テスト・量産試作を重ね、その特性と現場のラインへの適合性を検証しましょう。

とくに焼結型のダイボンドは、温度・加圧・雰囲気制御など複雑なパラメータ管理が成否を分けます。

アナログ管理技術の再評価

「標準作業」「ヒューミッドコントロール」「手順バラツキの排除」など、昭和由来のアナログな職人技が今も現場品質を支えています。

新材料・新プロセスで歩留まりが伸び悩む現場ほど、古き良き細やかな管理技術との融合が重要性を増しています。

装置・冶具設計の工夫

シンタリングや高温下でしっかりした圧着を行うには、装置や冶具設計も必須です。

例えば、「加圧プレートの平行度」や、「熱分布」「冷却制御」「抜き取り検査の標準化」といった、現場ならではの地道な改善の積み重ねが、工程信頼性を大きく上げます。

トレーサビリティと不具合管理

半導体パワー部材の高信頼化には、材料Lotとの突き合わせ、不具合ロットの早期特定も不可欠です。

現場で培った目視検査・光学検査のノウハウも、最新AI検査装置と連携して活かしましょう。

バイヤー目線・サプライヤー目線で捉える高温ダイボンド材の調達のコツ

バイヤーが見るべきポイント

高温対応ダイボンド材料は一般に価格が高く、且つ安定供給・短納期が難しいことが多いです。

調達時は、以下のポイントを必ずチェックしましょう。

・サンプル供給速度と量産納入能力
・適正な価格と長期供給見通し
・トラブル時(プロセス変化や歩留まり低下)の対応体制
・継続的な材料改善・技術サポート

また競合材料の評価や、複数サプライヤーからの二重調達も、リスク低減に有効です。

サプライヤー側が心がけるべきこと

バイヤーは、材料の“本当の価値”を工場現場での安定運用・作業効率・手直し削減に見出します。

材料スペックや開発ストーリーを整理し、現場プロセスでのデータや、歩留まり改善事例とセットで提案を行いましょう。

ユーザー現場で困っている点を積極的にヒアリングし、アプリケーションエンジニアと協業による「導入サポート体制」を構築することが最も信頼を得る近道です。

業界動向:昭和アナログと次世代デジタル技術の融合

自動化・品質DXにどう向き合うか

データ駆動型の生産管理、各工程のIoT化・AI外観検査の導入など、デジタル技術の波が高まる製造業。

しかし、日本の半導体・電子部品業界は、長らく「匠の勘と経験」に頼る昭和的な現場力に支えられてきました。

ダイボンドなどのアナログ工程も、品質ノウハウをデジタル化し、人から機械に継承する動きが加速しています。

現場担当者は、「伝承すべき暗黙知はシステム化」「最新設備の導入には自社に合わせたカスタマイズ」を意識しながら、古き良きアナログ管理と最新DXを両立させましょう。

サステナブルな材料開発とリサイクル技術の進展

使い捨て材料や高価な金・銀の使用削減、再生材料の活用など、「環境規制」「資材高騰」に強い材料開発も加速しています。

材料メーカーとユーザー現場の連携による、LCA(ライフサイクルアセスメント)志向の新リーダーが求められています。

まとめ 〜 製造業の未来の地平線を切り開くために

SiC、GaNパワーデバイス、LED向け高温ダイボンド材料および接合技術は、単なる材料選びではなく、プロセス全体の最適化や人と設備の融合による新たな品質向上のドラマです。

バイヤーやサプライヤー、製造現場担当、それぞれが「現場目線」「経営目線」「技術者目線」を持ち寄ることで、失敗から学び、業界全体の課題解決を牽引できます。

デジタル化や自動化推進の一方で、昭和アナログ工程で培われた改善マインドも決して色褪せることはありません。

ぜひ多くの現場の知恵と経験を集積し、さらなる新材料・新技術の地平をともに開拓していきましょう。

You cannot copy content of this page