投稿日:2025年12月20日

材料コストが高いほど要求される工程安定性

材料コストが高いほど要求される工程安定性

はじめに:なぜ今、工程安定性が重要なのか

製造業の最前線では、原材料価格の高騰が止まりません。
世界的なインフレーション、中国や東南アジアの需要増加、さらにはSDGs志向による素材の高度化‥。
多くのメーカーが感じている通り、かつて「出せるだけ出して、ロスは多少仕方ない」という時代はとうに終焉を迎えました。

その中でも「材料コストが高い」製品ほど、そのロス許容度は極限まで削られます。
わずかなミスや不良が“利益の蒸発”に直結する。
となれば、工程をいかに安定化し、つねに一定の品質・生産性を維持するかが以前にも増して強く求められるのです。

本記事では、現場で身をもって感じた材料コスト高騰時代における工程安定化の要点や、これから求められるアプローチについて、あらゆる立場の製造業従事者に向けてさまざまな視点から解説します。

材料コスト高騰の実態と、その波及効果

まず、材料費の高騰はどのように企業活動に影響するのでしょうか。
単純に「利益を圧迫する」だけではありません。

  • 歩留まり低下=廃棄ロスによる損失拡大
  • 部分的な材料手配ミスが致命的な納期遅延に直結
  • 製造原価の算定が都度変動し、利益計画が立てづらい
  • サプライヤー管理や調達リードタイムの長期化

このように、材料コストの高騰は想像以上に工程全体へ深刻な圧力となります。


たとえば自動車業界では、半導体素材やレアメタル、樹脂など、専門サプライヤーからの“争奪戦”が繰り広げられ、納期や品質面でも大きなブレを感じている現場が多くなっています。

「高コスト材料=工程安定性要求」になる3つの理由

なぜ、材料コストが高騰すると工程安定性の重要度が増すのでしょうか。
製造現場の声をまとめると、大きく3つのポイントが浮かび上がります。

1. ロスが利益を一瞬で吹き飛ばす

安価なA材なら多少の歩留まり低下も許容圏内かもしれません。
しかし高いB材なら、わずか1%の不良や廃棄でも利益目標を大幅に下回ることがザラにあります。

ですから「どんな条件でも安定したプロセス」を作りこむ必要があるのです。

2. 材料調達自体のリスク増大

調達先が限定され、リードタイムも長めの高コスト材料。
突発的な生産トラブルで材料追加手配すると、納期遅れや信用失墜につながります。

工程にブレがなければ計画的な調達が可能ですが、ブレが大きいと“材料待ち”でラインが止まるのは避けられません。

3. 生産計画や原価管理の精度が問われる

高コスト材料では、わずかな計画差や工程のばらつきが、全体原価や利益率に強く反映されます。
「標準原価の見直し」や「留意要素の設計段階へのフィードバック」まで含めて、安定したつくりかたを定着させる必要があります。

昭和からの脱却:古い現場慣習とアナログ的思考の限界

多くの製造現場では、いまだに「職人技」や「ベテランの勘」が主導する風土が根強く残っています。
もちろん経験からくる知見は貴重ですが、高コスト材料時代にはこのアプローチだけでは限界があります。

  • 紙図面からの伝達ミス
  • 個人毎の作業手順やばらつき
  • 「前はこれでいけた、だから今回も」という属人化リスク

これらは、DXやスマートファクトリーといった最新のデジタル管理手法でようやく改善の糸口が見えてきました。
とくに工程安定性や繰り返し精度を極限まで高めるには、現場データによる「事実ベースの判断」が不可欠です。

現場発想で行う工程安定化の具体策

「そんなの当たり前」と思われる方も多いかもしれませんが、改めて「なぜ実現できていないのか」を自問自答してみてください。
20年以上の現場経験から、以下のポイントが本当に徹底できているかどうかが分かれ道です。

工程FMEA・リスクアセスメントの徹底

キー工程については、徹底的なFMEA(故障モード影響解析)を全社横断で実施しましょう。
「どこでズレが起きやすいか」「どんなロスが隠れているか」といった洗い出しを繰り返すことで、事前に管理すべきポイントがあぶり出されます。

IoT/データロガー活用で“見える化”

温度・圧力・速度・投入量など、これまでアナログ管理だった領域も、IoTセンサーやデータロガーで見える化しましょう。
職人の勘が“数値化”される大きな転換点です。

異常兆候を早期に検知できるので、コスト高材料でも手戻りや廃棄を未然に防げます。

標準作業と多能工育成の両立

作業手順は工程ごとに標準化しつつも、状況に応じて柔軟に動ける多能工を育てましょう。
安定プロセスの土台と、トラブル時の即応性を両立させる戦略的な人づくりが必要です。
属人化排除も経営のカギとなります。

工程改善サイクルの高速化(PDCAの深化)

変化スピードが激増した今、年1回の改善活動ではもはや追いつきません。
「月次」あるいは「週次」での小改善をビジネスプロセスに組み込み、現場の知見を速攻で工程設計に反映させましょう。

デジタル時代の工程は、常に進化し続けるものです。

サプライヤー・バイヤー両視点で考える安定工程のメリット

材料コスト高時代では、調達側も製造側も「工程安定化」には明確なメリットがあります。

バイヤーの視点

安定工程を実現しているサプライヤーは、次のような評価が得られます。

  • 品質・納期の信頼度が高いため注文量やリピート率が向上
  • カーボンフットプリントや歩留まり管理でSDGsニーズに応えやすい
  • 材料高騰下でも提案型コストダウンを実現できる

サプライヤーの視点

工程が安定すれば、材料投入→加工→出荷までの全体最適がやりやすくなります。
未然防止により不良損失が減り、材料仕入れの安全在庫水準も削減できます。
バイヤーへの提案力や、納期確実性のアピールにも直結します。

将来を勝ち抜くための製造業パーソンの新たな意識とは

材料コストは今後も上昇基調が続くとみられています。
こうした時代を生き抜くには、単に「工程安定化」というワードを掲げるだけでは足りません。
以下のような意識・行動変革がカギです。

  • ベテランの知見×デジタル手法の融合を極める
  • 現場発案の改善サイクルをいかに高速化できるか
  • 競合サプライヤーとの差別化要素を“工程安定性”に据える
  • 調達部門・製造部門・管理部門の垣根を超えた連携意識

これらを実践する人材こそが、今後の製造業界で真に評価されるバイヤー、現場リーダー、サプライヤーになるでしょう。

まとめ:材料コスト高時代は、工程安定性が最大の武器

高い素材ほど、いっそう洗練された工程安定化の価値は増しています。
時代遅れの現場風土やアナログな慣習から脱皮し、最新の現場データやデジタル管理手法を駆使して、ミスやロスが「起きにくい工程」を徹底的に作りこみましょう。

工程安定性の追求は、個社ごとの利益向上だけでなく、取引先との関係性強化、ひいては日本の製造業全体の競争力向上にもつながります。
一人ひとりの「もっといい現場を作ろう」という意識と行動が産業の未来を変えます。

現場で汗を流すみなさん、これからバイヤーやサプライヤーを志す方――
今こそともに新たな地平を切り拓くときです。

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