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家電OEMの基礎:安全規格・耐圧・絶縁距離の設計要件

目次
はじめに – 家電OEMの「設計基礎力」が問われる時代
家電製品のOEM(Original Equipment Manufacturer)は、単なる生産委託の枠を超え、メーカーとサプライヤー双方に高い設計力・リスク対策能力が求められる時代になりました。
品質、コスト、納期を守るのは当然として、特に「安全」というキーワードが重要性を増しています。
その中でも、安全規格や耐圧・絶縁距離といった設計要件は、家電OEMで最も“現場泣かせ”なポイントです。
本記事では、製造業の現場経験者として、現実的な設計の押さえどころ、市場動向、調達・品質・生産管理の各視点を交えながら、家電OEMの基礎を解説します。
家電OEMで安全規格が重要である理由
いま、安全が優先される時代背景
家電製品の“安かろう悪かろう”は許されません。
SNS・口コミの普及で、わずかな失敗や事故でもブランド・信頼を一瞬で失うリスクがあります。
また、グローバル展開の加速、日本独自規格からIEC(国際電気標準会議)など世界基準への移行も求められます。
加えて、社会全体で事故再発防止、消費者保護への関心が高まっていることも大きな要因です。
現場では「安全規格に適合しないと量産できない」「取引停止、PL法(製造物責任法)による賠償(リコール)といった事態につながる」など、調達・生産・品質管理部門で徹底的な管理が求められています。
OEM元(バイヤー)視点とサプライヤー視点の違い
バイヤー(発注側)は「とにかく確実に安全規格を満たせ」「認証の取得ルートも事前審査もキチンとやって」と要求します。
一方、受託側(サプライヤー)は「仕様の不明瞭さ」「個別要求追加」「設計変更の連絡スピード」「過剰品質とコストダウン要求の板挟み」と日々現場で苦労しています。
両者のすれ違いを減らす最大のポイントが「設計時点で安全規格・法規対応まで腹を割って話し合うこと」です。
安全規格の基礎知識 – 家電OEMで押さえるべき主要規格
PSEマークと日本の法規制(電気用品安全法)
日本国内では家電のほとんどにPSEマーク(電気用品安全法適合)が求められます。
PSE規格では部品ごと・ユニットごとに要求事項(耐電圧、絶縁距離、発熱量、構造、材料など)が細かく定められています。
違反すれば販売停止や回収処分命令に発展しかねません。
PSEの適合証明や届出はOEM元(リリース企業)が担いますが、実質的にサプライヤー(協力工場)は証明書の原本・第三者試験データ提出を求められるため細部まで知識が不可欠です。
グローバル展開ではIEC/EN/UL規格と認証体制
日本だけでなく、中国、ASEAN、欧米へ輸出する場合、
– IEC(国際標準方式)
– UL(米国)
– EN(欧州)
など、各国の規格認証が必要です。
例えば、中国CCC、韓国KC、欧州CE LIV/LVDマーキング等です。
「どの市場向けに設計するのか」「同一プラットフォーム設計で複数規格をパスできるのか」「個別認証費用や管理コストはどうするか」も、設計・営業・購買で事前合意が重要です。
要求事項の違いと実務ポイント
最もトラブルになるのが“適合する生産設計のすり合わせ”です。
例えば国内向けのみ意識していた試作品が、いざ営業側から「欧州展開したい、ULも取りたい」となった途端、部品レベルでやり直し、量産延期・コスト増大となることがあります。
この時、必ず図面・仕様書に「どの安全規格に適合」なのか明記し、「抜け漏れゼロ」の設計承認フローが必要です。
耐圧(耐電圧)設計 – 電気事故を防ぐ“見えない設計品質”
耐圧試験とは何か、その重要性
耐圧試験は、「設計上想定される最大電圧以上に一時的に印加しても絶縁破壊しないか?」を確認する試験です。
家電に多いAC100V~240V回路では、数千ボルトの耐圧検査を規定する規格もあります(例:AC2500V/1分間)。
このクリアが、安全設計の“最低ライン”です。
現場的には、設計図・部品表で耐圧仕様をマーク、各部品が安全認証スペック内か、量産品も100%/抜き取りで耐圧試験し、初期流動で必ず不良ゼロか確認が不可欠となります。
耐圧設計の良くある失敗例
昭和・平成の“現場あるある”として、以下のような事故が発生しています。
– 部品発注時に「コストダウン品」で耐圧グレード低下
– 外観・寸法だけ合っていても基材品質(絶縁・難燃性)が不合格
– 中国製PCB、安価リレー、コネクタなど細部でスペックミス
– 部品代替時のリスクアセスメントや再試験の手抜き
現場では、仕入先任せや“書類だけ合格”にせず、実サンプルでの確認、受入・最終検査のWチェックが命綱です。
絶縁距離 – 部品・基板設計での“スキマ”が現場品質を決める
絶縁距離(空間距離・沿面距離)とは?
絶縁距離とは、高電圧・低電圧の配線や部品が十分離れているか(空間距離)、基材や基板の表面に沿った距離(沿面距離)を指します。
これが狭いと、トラッキング現象、アーク放電、絶縁破壊、感電事故のリスクが一気に高まります。
各安全規格には“用途・環境ごとに”最小絶縁距離の値が定められています。
(例:2.5mm以上、4mm以上、または専用シートで補強など)
設計現場での実務ポイント
– 基板設計時:ハイパワー回路、高耐圧部に“絶縁クリアランス”を大きくとる
– 配線材選定時:コネクタ間隔、被覆材の厚み、端子カバーでブレークダウン防止
– 組立後検査:圧着不良や部品の曲がりがないか「見える化」する
特に、商社やEMS(電子機器受託生産)への外注では、「仕様伝達の細部」「現地スタッフのスキルギャップ」が事故の芽です。
現場では、組立作業標準書で“写真付き”の距離図示、QC工程表への絶縁点明記、トレーサビリティ確保も必須です。
バイヤー・サプライヤーの真のパートナー関係が不可欠
調達購買部門の視点
調達担当者がよく陥る落とし穴は“価格先行”です。
安く仕入れても、現場で安全基準をクリアできなければ、量産停止・クレームで調達費用が数十倍、信用を一気に失うリスクがあります。
信頼できるサプライヤーとは、
– 設計段階から規格適合・リスク評価を共に議論できる
– 変更点が出た際も即座にフィードバック・再試験できる
– 証明書や検査成績書、変更履歴の管理が透明で速い
ことが大前提です。
現場視点では、単なる「値段・納期」交渉より、長期目線のパートナーシップ型ターゲットコスト設計が不可欠です。
サプライヤーの立場と課題解決策
サプライヤーがOEM元の信頼を勝ち取るには、
– 根拠ある耐圧・絶縁設計提案(自社試験データ・第3者認証提出)
– 安全規格動向の自社アップデート(「仕様追加です」への即対応力)
– 万一の“現場不適合・ドレイまがい”発生時にも即解決・報告できる柔軟さ
が重要です。
本気で安全なモノづくりを目指す関係であれば、出来ません・分かりませんでなく「一緒に最適解を探る」姿勢が現代の製造業で最大のコア競争力です。
アナログ現場の“昭和体質”をデジタル化で強くするには
設計・調達・品質・現場全体DXへのロードマップ
安全規格・耐圧・絶縁といった「帳票一式」「設計ノウハウ」を属人化から解放し、全社的にナレッジ化・AIツール化することも必須です。
QC工程・部品管理・ブラックボックス化を防ぐデジタルツール活用が、将来のヒューマンエラー・事故防止、海外展開にも直結します。
昭和体質の強みを活かしつつ次世代設計へ
かつての手作業・職人技・現場目線の“想像力”は、今こそ設計DXで“型化・標準化”する最大のチャンスです。
現物確認・工場臨場感もAI点検やオンライン現場カメラで補完し、部門/国境/役割を越えた品質保証体制を目指しましょう。
まとめ:家電OEMで勝つための設計・現場力とは
– 仕様書・図面・規格適合を“現場起点”で確認し、抜け漏れゼロへ
– 耐圧・絶縁・安全規格の「見えないリスク」を日々点検
– バイヤー、サプライヤーすべての役職で「設計段階から」共通認識
– DX時代の波を乗りこなし、昭和現場力+デジタルで安心品質を提供
令和の製造業では、現場目線の実践力と新技術への適応力、その両方が求められています。
本記事が、現場で戦う皆さんの“安全で攻めのある”モノづくりへのヒントになれば幸いです。
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