投稿日:2025年10月1日

役職を盾にした上司の態度が現場の人間関係を壊す理由

はじめに:役職と現場力のねじれ

企業の現場――特に製造業の工場では、組織の規律や効率を保つために階層的な役職構造が築かれています。
役職が明確だと円滑な業務遂行が期待できますが、一方で「役職を盾」にした上司の態度が現場の人間関係を壊す要因となることも少なくありません。
昭和時代から続く“立場主義”が、令和の現場にも根強く残っている現状を、私は20年以上の現場経験を通して見てきました。

この記事では、役職や権限を振りかざす上司が、なぜ現場の人間関係を崩壊させるのか。
ラテラルシンキングを用いて深く考察し、読者が明日から職場で活かせるヒントも交えながら解説します。

「役職を盾にする」とは?

命令と指揮が「支配」になる瞬間

役職者は、本来「職責」を果たす存在です。
例えば、工場長は最終的な品質や納期、コストについての責任を持ちます。
係長や課長は、現場スタッフがもつポテンシャルを最大化し、チームワークを維持する使命があります。

しかし一部の上司は、「私は係長だ」「課長の命令だから従え」「この業務フローは絶対」など、“役職そのもの”を前面に出して現場を動かそうとします。
本来は職責であるべき「役職」が、部下やオペレーターを押さえつける「支配の盾」へと変化するのです。

現場の空気を一瞬で塗り替える言葉

典型的なケース―
「君は指示通りやればいい」「ド素人の君たちが何を言うか」
こうした発言は、オペレーターや若手技術者の主体性を奪い、現場の空気を一瞬で重くしてしまいます。

私は現場で、「課長が怖いから口を出さない」「どうせ意見しても無駄」という空気が蔓延してしまった経験を数多く見ています。
新人の成長、改善提案、事故やトラブルの予兆報告さえも、役職主義的な上司によって埋もれてしまうのです。

なぜ役職を盾にする上司が生まれるのか

昭和型ピラミッド組織の負の遺産

製造業、とくに自動車や電機など大手メーカーの伝統的な組織は「ピラミッド型組織」と呼ばれます。
現場主任→係長→課長→部長…と明確な階級があり、その上下関係が“絶対的なルール”として受け入れられてきました。

バブルや高度経済成長期、戦後復興を支えた日本の工場では、上意下達が効率や納期遵守、コストダウンに寄与しました。
しかし現在の市場環境は、市場変化やカスタマイズ需要の急増、熟練工の退職など大きなパラダイムシフトを迎えています。

そのなかで、古い価値観にすがる管理職ほど「俺の言うことを聞け」「肩書きがすべて」というスタンスになりがちなのです。

「マネジメント不安」から生まれる権威主義

人は、自分のリーダーシップや能力に自信が持てないほど、権威に頼ろうとします。
マネジメント経験が浅かったり、新しい技術についていけないと感じている上司ほど、「役職を盾」にする傾向が強まります。
本来はチームのモチベーションや自律性を高めるのが管理職の役目ですが、不安や恐怖から「指示命令型」へ逃げてしまうのです。

現場に広がる悪影響

心理的安全性の崩壊

役職の盾化が行き過ぎると、部下や現場オペレーターの「心理的安全性」が著しく低下します。
心理的安全性とは、「この場で自分の意見を言っても否定されない」「チャレンジしても責められない」という職場風土のことです。

心理的安全性の低い現場では、改善提案、リスク報告、不良品の早期発見、トラブル時の柔軟な対応など、あらゆる“現場力”が落ちます。
結果として、小さなヒヤリ・ハットが積み重なり、重大な品質事故や納期トラブルにつながりかねません。

若手の成長と組織知の断絶

役職主義的な管理職は、「自分の経験」だけを絶対視しがちです。
その結果、デジタルスキルを持った若手や現場改善へのアイデアを持つスタッフの成長を妨げます。
たとえば「AIやIoT活用の提案」が、「そんなの俺たちの時代には無かった」「昔ながらのやり方が一番」と切り捨てられてしまうのです。

また、意思決定が上層部の“鶴の一声”だけで下されるため、現場にノウハウや問題意識が共有されず「組織知」が分断されてしまいます。

バイヤーとサプライヤーの信頼関係にも影響

外部との取引でも、バイヤー(調達側)の担当者が役職を盾にサプライヤー(供給側)を威圧する場面が少なくありません。
こうした取引関係は短期的なコストダウンにはつながるかもしれませんが、長期的には「本音やリスク情報」をサプライヤーが隠す温床となります。
ひいては“ものづくり”の信頼基盤そのものが崩れてしまうのです。

デジタル化と役職主義のギャップ

アナログ業界に潜む「デジタル拒絶反応」

いまだに紙の帳票、電話・口頭でのやり取りが根強く残る日本の工場。
こうしたアナログ慣習の背景には役職主義も影響しています。
「自分がダメと言えば、現場は動かない」「変化を恐れて新しい技術を拒絶する」という姿勢は、デジタル化推進の足かせになります。

工場IoTやAI導入のプロジェクトで、若手エンジニアやIT担当がいくら良いシステムを提案しても「責任は俺にある」と門前払いされる。
そこに存在するのは“役職の都合”であって、“現場の最善”ではありません。

ボトムアップの力が発揮できない

現場が自律的にPDCAを回したり、現場スタッフが小さな改善を積み上げたりする“現場発”の力が日本のものづくりの強さです。
役職を盾にした上司がいると、こうしたボトムアップの力が根こそぎ消え失せてしまいます。
その結果、海外工場やスタートアップのスピード感・柔軟性に太刀打ちできない組織体質に陥ります。

現場目線で考える、解決へのアプローチ

1on1や現場巡回で「肩書きを脱ぐ」

まず有効なのは「上司が役職を脇に置く」時間を意識的につくることです。
私自身も、現場巡回や1対1でスタッフと話す際は必ず「工場長」ではなく「一人の現場経験者」として接してきました。
役職を強調するのではなく、「同じ現場をつくる仲間」としての距離感を保つこと。
それだけで現場の空気、アイデア、課題感が大きく変わります。

現場の暗黙知を「可視化」する

役職主義の悪影響として、大切なノウハウやトラブル予兆が役職者しか知らない“ブラックボックス”化します。
紙の帳票で止まっている現場も、思い切って「ヒヤリハット共有ボード」や「現場改善チャット」などデジタルツールを導入しましょう。
できれば現場スタッフ自身がルールを決めるなど、参加型の設計が望ましいです。

外部交流で「井の中の蛙」から抜け出す

他社やサプライヤー、地場産業との交流の場を増やしましょう。
役職者も若手も参加できる現場改善の勉強会や交流会は、固定観念を打破する大きなチャンスです。
外部と比較して「自分たちの職場」の雰囲気や改善ポイントに気づくよい機会となります。

評価制度の「役職依存」からの脱却

昇進や人事評価が「現場改善の量」「現場貢献の質」を正当に反映する仕組みに見直すことも重要です。
年功序列や肩書き偏重だけではなく、チームワークや現場スタッフの声に耳を傾ける管理職の姿勢も評価対象に加えるべきです。

読者が目指す未来へ

役職を盾にしない上司が増えれば、ものづくりの現場は大きく変わります。
バイヤーを志す方なら、サプライヤーの声にもっと真摯に耳を傾けてください。
サプライヤー側なら、バイヤーの立場や判断軸を知り、“役職”に惑わされず本質的な提案や問題報告ができるようになりましょう。

そして現場で働く全員が、「役職は現場の邪魔ではなく、現場で一番役立つべきものである」ことを再認識できれば、日本の製造業はさらに強くしなやかに発展していきます。

まとめ

役職を盾にした上司の態度が現場の人間関係を壊す本質――それは、現場の多様な知恵や力、本質的なコミュニケーションを奪ってしまうからです。
昭和型のピラミッドだけが“正義”の時代は終わりました。
令和の現場では、「肩書き」ではなく「現場を良くする意志」が評価される職場づくりを目指すべきです。

製造業の発展は、現場の一人ひとり、本質を見抜く多様な視点と勇気から始まります。
役職に依存しない健全な組織文化をともに築いていきましょう。

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