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“製品デザイン優先”が内部設計に大きなひずみを生む苦しい裏側

目次
はじめに:なぜ“製品デザイン優先”が現場を苦しめるのか
製造業において、「売れるものを作る」「ユーザーに刺さるデザインにする」という命題は非常に重要です。
近年、プロダクトデザインの重要性が高まり、「見た目」や「ブランドイメージ」を重視するあまり、設計や生産現場に無理難題が降りかかる場面が増えています。
市場では「かっこいい=売れる」という構図が根付き、設計や生産体制は、時にその美しい製品イメージの実現のために大きなひずみを抱えることになります。
しかし、その裏側で何が起きているかは、なかなか明かされません。
本記事では、製品デザイン優先によって現場で実際にどのようなひずみが生じているのか、また“昭和的”なものづくり文化からなかなか抜け出せない理由、そして製造現場、バイヤー、サプライヤーそれぞれの視点から、現実解にたどり着くためのヒントを解説します。
“デザイン優先”の現場、本当に正しいのか?
なぜデザイン最優先になるのか
欧米や新興国との競争が激化し、日本のものづくりは「デザイン性でも勝たなくてはいけない」というプレッシャーにさらされています。
これにより、商品企画やマーケティング部門の権限が強まり、製品化プロセスの中でデザイン部門が強く主張するケースが増えてきました。
しかし、このアプローチは決して新しいものではなく、「工場は現場の知恵で困難を乗り越えろ」「製造は下請けである」という、昭和のものづくりイデオロギーと表裏一体の構造に陥りやすくなります。
よくある“ひずみ”の具体例
デザイン要求が現場を困らせる典型的な例として、次のようなケースがあります。
- デザイナーが想定した形状が複雑すぎて、金型加工が困難
- 薄肉化しすぎて強度や調達コストが跳ね上がる
- 見栄え優先で不可解な寸法公差を要求
- 組立時にアクセスできないネジや接合ポイントが発生
結果として「どうせ現場は何とかしてくれるだろう」という空気感、「無理だけど、仕方ないからやるしかない」という消極的な諦めムード、そして物理的な仕様変更や度重なる手戻りが起こります。
製造業の“昭和の遺産”と呼ばれるこの構造は、未だ強く残っています。
調達・購買、バイヤーが抱える苦しみ
“調達コスト感覚”の欠如
デザイン優先で仕様が決まると、次に困るのが調達・購買部門やバイヤーです。
部品点数は増え、材料の品種は多様化。
市場にほとんど流通していない特殊材料や、複雑な加工が必要な部品を求められることもしばしばです。
現場では「なぜこんな材質を?」と嘆きの声があがります。
場合によっては、部品ひとつのためだけに新たなサプライヤーを探し、コストアップを強いられることも少なくありません。
購買担当者は「ユーザーが望んでいるから」と仕様変更の折衝を繰り返し、サプライヤーにも無理を言わざるを得ない状態に追い込まれます。
納期遅延・調達難のリスク
デザイン優先の仕様は、サプライチェーン上で「未知の負荷」となって跳ね返ります。
調達困難な部品は納期遅延のリスクを呼び、従来の大量調達スキームが通用しません。
サプライヤーが「これはリピート品ではない」と判断すれば、特注ラインの立ち上げすら検討してもらえず、工場側にも在庫負担が生まれます。
そしてそのしわ寄せは、実は全て顧客サービスレベルの低下や品質不安定化に直結します。
サプライヤーの本音と板挟み
見積もり段階の“無理注文”
バイヤーから相談を受けたサプライヤーは「また難しい案件が来たな」という思いを抱きます。
見積もり段階から、
- 過剰な精度要求
- 特殊コーティングや材料
- 量産に乗りづらい設計
などに直面します。
しかも、「今回は取引開始だから無理してでも…」という圧力を感じ、採算度外視で引き受ける自社担当者も多いのです。
取引継続のリスク
一方で、こうした「特例品」ばかりが増えると自社のリソースを圧迫し、他案件とのバランス調整や生産負荷調整、品質保証維持がますます困難になります。
それでも、実績を積み重ねて得意先との信頼関係を築かなくては、そもそも生き残れません。
「バイヤーの真意は何か」「これは本当に長期案件になるのか」「価格勝負に持ち込まれるのではないか」と、苦悩は深まります。
現場が抱える“デザイン優先”のひずみ
生産技術者の苦労
設計図が現場に降りてきた瞬間、手間とコストに直結するあらゆる課題が浮き上がります。
工場の生産技術者からは、「この曲線は既存の治具では無理がある」「社内装置での加工制約を理解していない」「そもそも歩留まりが出ない」といった本音がこぼれます。
そのたびに「工程を一から組み直す」や、「全く新しい加工方法を試す」など、莫大な工数を費やすことになります。
品質管理、検査の現実
複雑なデザインは検査も複雑化させます。
測定治具が調達できない、従来の測定方法が使えず、一つ一つ手間のかかる検査をしなければならなくなります。
結果として品質保証のコストが跳ね上がり、現場が疲弊してしまうのです。
“昭和から抜け出せない”アナログ組織の問題構造
縦割り組織とコミュニケーションの壁
日本の製造業では依然として「設計→生産→調達」という縦割り組織が根強く、エンジニアリングチェーン全体の情報共有と課題解決が遅れがちです。
しかも、商品企画部が「売りたいもの」を一方的に流すことで、部門横断の議論が不十分なまま現場が苦しむ構図が続いています。
「現場がギリギリまで我慢する」この美徳が、かえって新しい価値創造の阻害要因になっています。
改善・提案が活かされにくい組織文化
「現場からの提案が上層部まで上がらない」「改善よりもルール遵守が優先される」など、昭和から抜け出せないアナログな企業体質が、時として技術革新のブレーキとなっています。
現場が「できません」と言いづらい空気、上司が「なぜできないんだ」と詰める場面は今もあります。
ひずみを解消するためのラテラルシンキング
現場に開かれた開発プロセスへ
真のイノベーションは、部門横断的な開発体制から生まれます。
そのためには、上流段階(企画設計時点)から調達、サプライヤー、工場現場が“一望できる”フロー設計が不可欠です。
「売れるもの」と「作れるもの」「続けられるもの」を同時に考えるプロセスをはじめから組み込むことが大切です。
“協働的コストデザイン”へのシフト
原価低減、品質安定、サプライチェーン最適化を、一部門の責任に押し付けるのではなく「デザイン」「設計」「生産」「調達」の多様な視点で共創することが重要です。
最新IT技術やデジタル技術の導入、AI解析による開発前シミュレーションなどを活用し、部門間で情報をリアルタイム共有することで、「ひずみ」が発生する「兆し」の段階から早期に芽を摘むことができます。
技術伝承と“自働化”の両立
自動化ロボットやIoT活用、属人化排除も進めつつ、一方で「職人技」的な知見やノウハウもデジタル化し、組織的に活用する仕組みづくりが欠かせません。
自働化・デジタル化のなかで、現場の気づきや提案もシステム的に反映できるよう設計しましょう。
まとめ:“目指すべきものづくりの未来”
製品デザイン優先の動きが現場にひずみを生みやすい構造には、これまで解き明かされたことのなかった“現場の真実”があります。
それを打ち破るためには、バイヤー、サプライヤー、設計現場が同じ未来を見据え、現場の知見を最大化し合う、水平的な開発とコミュニケーションの場が不可欠です。
「売れるもの」と「作れるもの」の両立が、“本当に強い日本のものづくり”を再生します。
最新技術の導入だけでなく、現場主導で改善提案をドライブできる文化、そしてサプライチェーンの全体最適に向けた協働体制が、産業の新たな地平線を切り開く鍵になるでしょう。
製造業に携わる全ての方へ――現場目線とラテラルシンキングの両立で、目の前の“ひずみ”こそ、変革への第一歩に変えていきましょう。