投稿日:2025年12月4日

工場間移動のムダが全体原価を押し上げる仕組み

はじめに:工場間移動のムダがなぜ全体原価に影響するのか

工場間の製品や資材の移動は、多くの製造業現場で日常的に発生しています。
とくに多拠点体制を敷いているメーカーでは、拠点ごとの生産工程の細分化や工程特化により、拠点間をまたぐモノの流れは避けて通れません。
一方で、この「工場間移動」がもたらすムダは、現場感覚ではなかなかコストとして可視化されづらく、ゆえに改善の優先順位が低くなりがちです。
しかし、少し視点を変えると、この工場間移動のムダこそが、全体原価を確実に押し上げている大きな元凶であることが理解できるようになります。

本記事では、長年の現場実体験や業界動向も交えながら、工場間移動がどのように原価に作用するのかを具体的に解説します。
また、改善へのアプローチやサプライヤー・バイヤー視点での実践的なノウハウについてもご紹介します。

現場の実感と現実:工場間移動の「見えにくいコスト」

可視化されにくい「隠れた原価」

工場間の材料・半製品・完成品の移動は、単純な「運賃」や「送料」だけがコストではありません。
問題は、運搬に要する人的リソース、荷役作業の間接的な時間ロス、移動に伴う停滞在庫、移動工程での品質リスクなど、直接見えないコストが多数内包されていることです。

このコストは、現場の管理費や設備費、保管費、品質不良リスクなどにも波及し、その総量は意外と巨大です。
たとえば、A工場で中間加工した部品をB工場へ輸送し仕上げ、さらにC工場で組立て…といったサテライト型生産モデルでは、一回の工場間移動で発生するコストが総合原価の10~15%を占めることも珍しくありません。

現場の声:効率化より「仕方がない文化」が根強い背景

「同じ社内だし、協力体制がとれているから運送費は仕方ない」
「昔からこの工程分担だから、今さら一拠点集約なんて無理」

このような“決まりごと”や“あきらめ”も、昭和から続く製造業の現場に色濃く根付いています。
物流を内製化している企業の場合は運送費が直接的に見えづらく、人件費や設備減価償却が吸収してしまう「見えないムダ」となって埋もれてしまいがちです。

この「見えにくさ」こそが、工場間移動による原価上昇が放置・助長される一番の要因と言えるでしょう。

具体的にどこがムダなのか:コスト構造を分解する

1. 運賃・輸送コスト増大

物理的な距離が離れていればいるほど、輸送コストは確実に増加します。
しかも、燃料費高騰やドライバー人手不足などで、今後さらに上昇が見込まれます。
小ロット多頻度の移動や定期便運用など、非効率な物流運用が横行している工場も多く、ここに根本的なムダが潜んでいます。

2. 在庫滞留コストの増加

製品や部品が移動している間は「何も生産的な価値を生み出していない」いわば“遊休資産”であり、工場間の輸送リードタイムが長くなるほど、在庫が膨らんで資金が寝てしまいます。
とくに工程間で半製品が滞留すると、全体のリードタイムが読みにくくなり、需給変動への俊敏な対応力を著しく損ないます。

3. 荷役・梱包など付帯作業のムダ

輸送のためには梱包・荷役・検品…といった工程が不可欠です。
これらは現場作業者の業務負荷を引き上げるだけでなく、余分な設備投資やスペース利用にもつながります。
また、繰り返し荷役をすることで部品や製品へダメージが発生しやすくなり、品質リスクとしても跳ね返ってきます。

4. 情報ロスと責任分散による品質低下

工場間移動では、特に指示書や管理票だけに頼った「脱口頭化」が徹底できていない現場も珍しくありません。
情報が部分的だったり、伝え漏れたりすることで、トレーサビリティや品質面のロスも多発します。
責任の所在があいまいになることで、“うちの工場じゃないから”と品質意識が低下する恐れもあります。

業界構造がもたらす「分業のムダ」とイノベーションの遅れ

分業が合理的だった時代背景

日本の製造業はもともと分業による高効率を求めて進化してきました。
地域ごとに最適な得意工程を分担し、系列取引網やグループ会社で補完関係を築くことが「強み」でした。
しかし、グローバル競争や市場環境の変化で、必ずしもこの分業体制が最適とは言えなくなっています。

古い分業体制の“しがらみ”と現場のジレンマ

一度定着した分業モデルや系列関係は、大きなサプライチェーンの組み換えを困難にします。
生産拠点や物流動線を大胆に再配置するには、現場の説得・業界慣行の打破・投資認識の変革…など、
さまざまな壁が待ち構えています。

本来は、再配置と自動化投資で全体最適を図るべきですが、「今のままでも何とかなる」という発想が変われないまま、非効率な工場間移動が温存されてしまう現状があります。

海外勢とのコスト競争でむしばまれる“ゆでガエル現象”

グローバルな視点で見れば、工場間移動のムダが最大のボトルネックになっている業界も少なくありません。
サプライチェーン全体のフラット化やデジタル化を推し進めている海外企業とのコスト差は拡大。
知らぬ間に“ゆでガエル現象”として、じわじわと競争力を蝕んでいくリスクがあります。

改善手法と新たな発想:現場から変革へのアプローチ

1. 原価の「見える化」を徹底

まずは、移動ごとに発生するコストを項目ごとに分解し、「見える化」することが重要です。
生産管理システムへのデータ取り込みや、物流コストの部門別按分、在庫滞留日数とその金利コストの算定など、定量的な“ファクト情報”でムダに向き合います。

2. 移動ゼロを目指す工程再設計

工程の一本化、組立工程内のリレイアウト、必要資材の一括仕入れなどを通じ、工場間の移動自体を物理的に減らす設計が理想的です。
たとえば、分散していた中間組立を統合したり、サテライト工場をクローズし、本社工場への集中生産に切り替えるなどの大規模オペレーション刷新も検討に値します。

3. DX/IoT活用によるコネクテッド工場の実現

IoTやAIによる進捗管理やひと・モノの「トラッキング可視化」の推進で、現行フロー上の非効率をデータで客観視できます。
工程間の自動搬送ロボット導入や、リアルタイム進捗・在庫情報の一元管理も有効です。

4. サプライヤーやバイヤーも巻き込む共創型サプライチェーン

調達購買の段階から「移動レス」「現地調達」「JIT納品」などの指標を織り込むことで、上流工程から全体の最適化を図れます。
バイヤー視点ではサプライヤーの工程集約を促し、サプライヤー側も新たな付加価値提案や業務効率化のビジネスチャンスが生まれます。

サプライヤー・バイヤー視点で考える工場間移動ムダの取り組み

バイヤー側:調達戦略の根本見直し

バイヤーはサプライヤー選定・発注フローの段階で「最終組立地での一貫供給」に重きを置くべきです。
多拠点から小分けで取り寄せるのではなく、最も効率的な拠点を軸に取引条件をガイドライン化します。
また、現地調達・現地一貫生産の要請を強め、物流負担の最小化に努めることが肝要です。

サプライヤー側:工程内一貫化・工程集約の推進

下請けとしても「部分工程受託」から「一貫受託」への脱皮が求められます。
工程集約や自社内の二次加工・アセンブリーへの投資によって、工場間移動レスな供給体制を整えれば、顧客(バイヤー)への差別化ポイントとして強力な営業武器となります。

協業型改革でWin-Win体制を作る

両者の協議の場で、物流コストの透明化や現場視察による工程把握などを積極的に行い、「ムダは徹底的に無くす」「原価低減効果を分配する」などの協業型サプライチェーン構築への合意形成が決定打となります。

最後に:未来志向で業界の地平線を切り拓くために

工場間移動のムダが全体原価に及ぼす悪影響は、見えにくいところに真のボトルネックが隠れています。
「仕方ない」「従来からの分業が常識」という昭和的な思考に縛られていては、イノベーションも競争力強化も絵に描いた餅となってしまいます。

サプライヤー・バイヤー双方が現場の声と現実を直視し、データに裏づけた改革を推し進めることで、
日本のモノづくりは初めてグローバルに戦える水準へシフトできるはずです。

アナログで分断されていた工場間をつなぎ直す発想と、ムダ移動を極限まで減らす工程再設計。
この「新たな地平線開拓」の精神をもって、あなたの現場でも小さな改善から始めてみてはいかがでしょうか。

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