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地方工場がオリジナル商品を持つことで変わる社員のモチベーション設計

目次
はじめに:なぜ今、地方工場にオリジナル商品が必要なのか
近年、製造業を取り巻く環境は大きく変わりつつあります。
特に地方の工場では、人口減少や人材不足、価格競争の激化、下請け依存型ビジネスモデルの限界といった深刻な課題が浮かび上がっています。
その中で「自社オリジナル商品を持つ」という選択肢が、現場で働く社員のモチベーションにどのような変化をもたらすのか、実践的な視点で解説します。
本記事では、昭和から続くアナログ体質の現場でありながら、地道にオリジナル商品の開発や販売に取り組む中小・地方工場の事例や、そのメリット・デメリット、必要となる組織開発、そして実際に取り入れる場合のポイントまで、ラテラルシンキングで深く掘り下げていきます。
下請け構造に依存したモチベーション低下の現実
なぜ「言われたことだけをやる現場」になるのか
長年、大手メーカー系列や伝統的な下請け構造の中で仕事をしてきた地方工場では、
「相手先の仕様通りに、決められた数量や納期で作る」
という意識が強く根付いています。
この構造自体は、かつての高度経済成長期において日本の製造業の発展を支えてきました。
しかし、「自分たちの工夫や意志がプロダクトに反映されにくい」「価格交渉力が極めて弱い」「先方の意向次第で受注が大きく減る」などの課題が顕在化しやすくなっています。
具体的な日常風景としてよく見られるのが、社内掲示板や会議で「品質・納期・コストで満足させることが最大の価値」とする一方、現場の社員の主体的な動きや議論、新しい提案はほとんど出てこないことです。
このような環境では、自然と
「言われた通りやることが正解」
「余計な意見は波風立てるだけ」
という考えが蔓延し、やる気や誇りは徐々に薄れてしまいます。
人を成長させる「失敗経験」の欠如
下請け中心の工場は、本質的な意味での「挑戦」「決断」「失敗」の機会が非常に限られています。
与えられた仕様・工程を間違いなくやり抜くことはもちろん重要です。
ですが、それだけで社員個人や現場チームの成長サイクルを本当に回せるでしょうか。
新しい設計や販売チャネルを自分たちで検討し、時には失敗して、改善点を議論する。
そうしたリアルな挑戦・苦労が社員一人ひとりのスキルとモチベーションに火をつけるのです。
オリジナル商品開発が現場にもたらす劇的な変化
自分事化が生むクリエイティビティと情熱
オリジナル商品――自社の名前で考え抜いて作り、市場で勝負する製品――を持つことで、社員の意識は大きく変わります。
一言でいえば、「自分たちが主役」という空気が現場に生まれ始めます。
従来の仕事の流れではあり得なかった、こんな新しい光景が生まれます。
– 開発担当だけでなく製造・品質管理・調達部門も含めて「どうすればもっとお客様に喜ばれるか」を自発的に議論する
– 試作品のフィードバックや市場の評判をみんなで共有し、次の改良案を持ち寄る
– 業務マニュアルや標準作業すら、使う人目線で「これもっと良くできるのでは?」と改善が進む
自分がこの商品の成否を握っている。
そう思えた時、モチベーションは「やらされ仕事」から「やりたい!」「もっと良くしたい!」という前のめりのものへ変化していきます。
チームワークと部門横断のアイディア創出
オリジナル商品を持つためには、単一部門だけの努力ではうまくいきません。
営業、調達、生産、品質、時には社外パートナーも巻き込んで「お客様に伝わる商品」「より効率的で安全な作り方」「訴求力のあるパッケージや販促」など、部門横断で新しい視点を生み出す必要があります。
それは結果的に、従来バラバラだった部門同士の壁を低くし、現場全体のコミュニケーションを良くします。
「こんな原材料ならコストダウンできる」
「お客様アンケートで〇〇という不満が多かった」
「今の設備でも、こう工夫すればデザイン性が大幅に向上する」
こんなアイディアがどんどん出てくる雰囲気が作れれば、現場の一体感も大きく高まるのです。
事例紹介:地方工場発、オリジナル商品の成功・失敗から学ぶ
新潟県の金属加工会社A社の挑戦
新潟県にあるA社は、古くから大手メーカー向けの部品加工を主力としていました。
しかし先細りする受注と、若い技術者の離職に悩んでいました。
社長は「自社ブランド商品を作ろう」と決断。
現場の職人・技術者・事務部門を巻き込んで、
「地元の米を美味しく炊ける鉄製のご飯鍋」
をゼロから開発します。
技術力は高いですが、一般消費者向け商品を作る知見はほとんどありませんでした。
トライ&エラーを繰り返し、地元の米農家や主婦にモニター協力を依頼。
数年かけて、ついに自分たちが胸を張って薦められるクオリティの商品を完成させ、地元百貨店やECサイトでの直販を開始しました。
最初は売り上げも小さく、利益も限定的でした。
それでも現場の雰囲気には大きな変化がありました。
「自分の名前がパンフレットに載った!」
「取引先から『作り手の顔が見えるものづくりは信頼できる』と褒められた」
「若い社員が『新しい仕事ができるなら』と戻ってきてくれた」
数字以上に、こうした社員の声や笑顔がA社の「強み」となり、じわじわと新たな案件や販路開拓にもつながっていきました。
顧客目線を見失ったB社の失敗例
一方、近隣のB社は同様にオリジナル商品開発を進めましたが、成果につながりませんでした。
理由は「現場メンバーを巻き込まず、経営サイドだけで商品コンセプトや仕様を決めてしまった」からです。
現場のアイディアやノウハウが活かされず、従来仕事の延長で「なんとなく作る」だけの仕事になり、誰も商品に愛着や責任感を持てませんでした。
さらに営業部門も巻き込めず、販路開拓も後手に回りました。
オリジナル商品は作っただけでは売れず、関係者全員が「自分事化」してコミットする体制と雰囲気が不可欠だと言えるでしょう。
オリジナル商品によるモチベーション設計の本質
昭和型「一体感」から令和型「自律型人材」への進化
昭和の時代は「みんなが同じことを同じようにやり抜く」ことに価値がありました。
ですが、今求められているのは「多様な価値観を持つ個人が、共通の目標に向かって自発的に協力し合う」令和型の組織です。
自社商品をみんなで考え、みんなで作り、みんなで売っていく。
それは単なる新規事業ではなく、工場の組織文化を「自律型人材の育成の場」へと変えてくれる手法です。
従来の
「目の前の指示を無難にこなす」
という社員から、
「失敗を恐れず、仲間とアイディアをぶつけ合い、製品を進化させていく」
という人材へ。
それがオリジナル商品を持つことの最大の意義なのです。
「1人ひとりの顔が見える組織」への変貌
最終的なゴールは、自社の「顔が見える」状態――社員一人ひとりのストーリーや思いが外部にも自然と伝わるものづくり現場です。
顧客は「大量生産品」よりも「作り手が分かる」「物語がある」商品やサービスにお金を払います。
ある中小工場では、自社開発商品とともに、パンフレットやHPで社員一人ひとりの「推しポイント」やものづくりへの思いを発信する取り組みを始めました。
結果として顧客の反応は明確に変わり、「この人がやっている工場なら大切に使いたい」というリピーターも増えていきました。
オリジナル商品を持つための現場発の実践ステップ
1. 全員参加型チームを組成
トップダウンで決めるのではなく、企画・設計・製造・調達・営業など多様な部門から有志を募り、小さな「商品開発チーム」を作ります。
ベテランと若手、現場と事務、調達や営業も含めて巻き込むことで、現場の情報や知恵、顧客目線を反映させやすくなります。
2. 顧客のインサイト探求と仮説検証
「どんな顧客に、どんな価値を、どう提供したい商品なのか」を明確に仮説を立てて進めます。
できれば「お客様の声」や「困りごと」を現場で直接ヒアリングすることをおすすめします。
試作段階でも、積極的に意見を集めて改善点を抽出します。
3. 権限委譲と「小さな失敗」の推奨
リーダー層がすべて決定しない。
開発チームや現場社員自身に、仕様決めや改善案の決定を任せていきます。
「チャレンジと失敗」をできる限り歓迎することが、現場の自律性・オーナーシップを育てます。
4. 製品に「エピソード」と「ストーリー」をのせる
完成した商品に対して、開発過程や使った人のエピソード、作り手の顔やこだわりを積極的に伝えていきましょう。
「効率一辺倒」の大手量産型企業と差をつけるポイントになります。
まとめ:変わる現場の未来
オリジナル商品を持つことは、単に「儲かる新規事業」を目指す以上の意味があります。
現場社員一人ひとりが「自分たちが主役」として仕事に向き合い、様々な部門・世代が連携することで、工場という場所の価値は飛躍的に高まります。
社員の顔が見える商品づくりは、顧客・取引先からも選ばれる大きな武器になります。
昭和型の「受け身」から令和型の「自律」「挑戦」型組織へ――オリジナル商品はその象徴です。
今いる現場のリーダー・バイヤー・サプライヤーの皆さんも、ぜひ次の一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
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