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製品保管時の湿度管理不足が後工程で苦情につながる仕組み

目次
はじめに
製造業の現場では、工程ごとの品質管理が重要視される一方で、意外に軽視されがちな部分があります。
そのひとつが「製品保管時の湿度管理」です。
「うちの製品は出荷後しっかり検査しているから大丈夫」と安心している方も多いかもしれませんが、現場経験から言えばそれだけでは完全とは言えません。
特に、部品や製品が社外へ流れた後で予期せぬクレーム・品質不良が発生し、原因を遡ると“保管中の湿度管理不足”に起因しているケースは決して少なくありません。
この記事では、なぜ保管時の湿度管理が重要なのか、どのようにして後工程にトラブルを持ち越してしまうのかを、昭和から続くアナログ現場の習慣や業界構造にも触れつつ、現場管理者と調達・バイヤー双方の視点から解説します。
製品保管時の湿度管理の現状と課題
なぜ湿度管理が“見落とされる”のか
多くの現場では、「生産工程」「検査工程」にはチェックリストが整備され、厳しく管理されています。
ところが、製品・部品が一時的に倉庫で保管される「保管工程」は、その間がブラックボックスになりがちです。
特に、昭和からのやり方を引き継ぐ日系大手では、「昔からここに置いてあるし問題なかった」という暗黙の了解のもと、簡易な倉庫や空調設備のない場所に在庫を抱えることが珍しくありません。
季節によって倉庫内の温度・湿度は大きく変動します。
目に見えないながらも、鉄やアルミ、樹脂、電子部品などさまざまな素材は、適切な湿度管理がなされていないことで、サビ、カビ、静電気ダメージ、吸湿による変形・特性変化といった劣化のリスクを抱えてしまいます。
実際に生じる後工程での苦情事例
私の経験でも、次のような事例を数多く目にしてきました。
- 機械加工部品:出荷直前に外観検査をクリア。しかし保管中の結露や通気不足が原因で、後工程で赤錆が進行し、サプライヤーへのクレーム発生。
- プリント基板:梅雨時に未管理倉庫に保管され吸湿。後工程で基板実装時に加熱されることで“ポップコーン現象”が発生し、リワーク依頼が頻発。
- 樹脂・プラスチック部品:吸湿性の高いナイロン系素材を高湿度環境で長時間置いたため、組み立て後の製品精度が出ず組立ラインがストップ。
表面上は“問題なし”と判定された製品でも、後工程や顧客先で不良現象が「顕在化」し、バイヤーから納入仕様違反と見なされるのです。
なぜ苦情が後工程で発生するのか〜仕組みの解明〜
湿度による「潜伏的不良」の発生メカニズム
保管中の湿度不管理が招く品質劣化には特徴があります。
それは「顕在化が遅れる」ことです。
生産直後には問題なく動作していた製品でも、湿気が材料内部にわずかに滞留し、後の工程で加熱や組立といった外部ストレスが加わることで、初めて不良が発現します。
たとえば、精度の求められる金属パーツでは、表面から見えない進行性の酸化によってわずかな寸法変化を起こし、組付け不良や早期摩耗につながるケースがあります。
同様に、電子部品は吸湿状態でハンダ付けされると、内部に水蒸気が残留し、通電後に絶縁破壊や破裂を引き起こすこともあります。
このような“潜伏的不良”は、製造ロット全体に広がるため、苦情や返品となった際の影響範囲が大きいのです。
責任の押し付けあいと信用失墜
苦情が発生すると、現場・仕入れ担当・サプライヤー間で「どこに責任があるのか?」という押し付け合いが始まります。
昭和型の「現場が最優先」文化では、製品のトレーサビリティや保管履歴が記録・管理されていないことも多く、「いつ、どこで、どう管理していたか?」が証明できなくなってしまいます。
結果、「あそこの会社からの部品は品質が安定しない」「在庫品に気をつけて発注しよう」とバイヤー側は見立て、サプライヤーは無実のまま信用を失うリスクがあるのです。
具体的な湿度管理対策と現場目線での運用ポイント
最新設備だけが正解ではない~身近にできる対策~
「保管中の湿度管理=高価な空調倉庫や設備投資が不可欠」と考えてしまう方がいますが、現場目線では必ずしもそうとは限りません。
- 湿度ロガー(=温湿度記録計)を製品ロットごとに設置して記録を残す
- 除湿剤やシリカゲルの活用、および定期交換(コストはわずか)
- 湿度が上がる時間帯・季節に入庫品を優先出荷するなど在庫管理見直し
- 吸湿しやすい部品は、二重包装や防湿性袋の採用で管理レベルを引き上げ
- 定期的な庫内換気の実施、簡易エアコンや換気扇のピンポイント設置
まずは「できることから始める」ことが重要です。
湿度記録のデータ化(デジカメ撮影も含む)は、将来的にバイヤーや顧客への説明資料にもなります。
バイヤーの立場から求められる証跡管理
調達購買・バイヤーの立場では、製品の品質保証に加えて「どんな管理をしているか」の記録(証跡)が年々求められる傾向にあります。
特に、グローバル取引では保管環境証明(英語表記含む)が求められる場面も増えており、社内外問わず“見える化”と“トレーサビリティ”は重要な競争力となっています。
サプライヤー側の工夫一つでバイヤーからの信用・評価が上がることを、ぜひ戦略的に取り入れていただきたいです。
社内の“常識”を捨てて横断的に本質を問う
多くの現場では「夏でも冬でもここに置いている」「賞味期限(在庫期間)はこのくらい」といった過去の“常識”を鵜呑みにしがちです。
ですが、材料技術や製品構成が変化し、より厳しい品質基準が求められている現代において、過去の常識は通用しません。
ラテラルシンキングの発想で、「部品はなぜ劣化するのか?」「どんな環境だと品質リスクが高まるか?」を横断的・多角的に現場全体で考えていくことが大切です。
たとえば、ICTやIoTによる遠隔監視、AI異常検知、サプライヤーとバイヤーでの品質カルテ共同管理など、アナログな現場にも段階的にデジタルを取り入れていけます。
未来志向で考える製品保管と品質の関係
“つくる”から“とどける”までが製造業の品質責任
製造業における品質とは、「つくった瞬間」だけ保証されるものではありません。
出荷後、さらに納品後、後工程やエンドユーザーに至るまで、一貫した“品質の設計”が問われています。
保管中の湿度管理は、そのプロセスの要の一つです。
物流の効率化、グローバル調達の拡大、JIT(ジャスト・イン・タイム)生産など、時代とともに「短納期・多品種化」が進んでいますが、一方で「在庫レス」や「即応性」を追求しすぎると“いま手元にある在庫の質”への意識が薄れがちです。
これからの時代は、「迅速な納品」と同じくらい「保管中も含めた品質保証」のアピールが、取引先からの信頼を勝ち取るポイントとなります。
まとめ:業界変革の第一歩は“保管環境”の見直しから
製品保管時の湿度管理は、単なる工程の一つではなく、その先の苦情・トラブル予防、サプライヤーの信用、バイヤーの安心に直結します。
「こんな簡単なことが…」と思われがちな部分ほど、現場の意識を問い直し、データ化やルール化で強化していく。
ぜひ一歩引いた目線で、自社の保管環境・管理体制をチェックしてみてください。
製造業の発展には、細部の見直しと地道な改善が未来への礎となります。
現場に根ざした実践力と先を読む思考、この両方が何よりも現代の業界に求められているのです。
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