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飲食店が商品開発で最初に直面する「味のブレ」への向き合い方

目次
はじめに――「味のブレ」は不可避か?
飲食店が新たなメニューを開発する際、もっとも悩む問題のひとつが「味のブレ」です。
一度決めたレシピなのに、実際に調理してみると日によって、あるいは作る人によって味が違う。
製造業の現場でも「バラツキ」や「工程変動」と呼ばれ、品質管理の永遠の課題とされています。
ここには、昭和以来、アナログな現場文化が根強く残る業界特有の課題が横たわっています。
本記事では、製造業の現場で培った品質維持と標準化の知見、そしてバイヤーやサプライヤーの立場からの視点も交えつつ、飲食店が直面する「味のブレ」にどう向き合うべきか、根本原因から現場対策までラテラルシンキングで深掘りしていきます。
「味のブレ」の正体とは――なぜ起こるのか?
人による差、食材による差、環境による差
「味のブレ」の要因は大きく三つに分類できます。
一つは「人」。
調理する料理人の技術や経験、その日の体調や感覚の違いです。
二つ目は「食材」。
同じレシピでも、仕入れロットや原産地、旬や天候により微妙に味や水分、食感が異なります。
三つ目が「環境」。
温度や湿度、キッチン機材のクセなどが影響します。
これらが複雑に絡み合い、どうしても”完全な再現”は難しくなります。
製造業との類似性――工程能力と標準化
実はこの課題、わたしたち製造業が長年向き合ってきた「工程変動(ばらつき)」や「標準化」の問題と極めて近いものです。
寸法が微妙に違う、硬さが違う――これも「味のブレ」と構造は同じ。
自動化の進んだ工場でも、原材料や作業員、機械の状態などが毎回すべて同じことは決してありません。
そこで重要になるのが「どこまで許容するか」「ブレをどうコントロールするか」です。
「味のブレ」を見える化する――数値管理のすすめ
感覚からデータへ――料理の『科学』的アプローチ
長い歴史を持つ料理の現場では、「職人の勘」「目分量」「経験」が重視されてきました。
しかし、商品開発から量産化=店舗での安定提供までを考えるならば、感覚を数値化し標準とズレを把握する“科学の目”が不可欠です。
まずレシピ段階で、原材料の重さやカットの大きさ、調味料の計量、加熱温度や時間などを可能な限り具体的な「数値」で記録してください。
ここまではメジャーな手法ですが、さらに製造業式に一歩深めてみます。
官能評価と計測機器の活用
食品業界での「官能評価」(複数人で味見し、点数やコメントをつける手法)は有効です。
が、「今日は誰が味見するか」「朝と夕方では舌の状態が違う」といった主観のバラツキも無視できません。
そこで、可能ならば糖度計、塩分計、水分測定器など簡便な機器を導入し、「再現性のある味のコア部分」を数値で共通理解することをおすすめします。
例えば、「タレの塩分は0.7%±0.05%」「スープの糖度は4.5±0.5」等と設定し、各店舗や人でのズレを明らかにしましょう。
バラツキ許容範囲と最低合格点の設定
製造業では「設計値(狙い値)」と「公差(許容できるズレ)」を決めます。
同じように、飲食の現場でも「最低限の味の合格点」「そこからどれだけズレてOKか」(バラツキのレンジ)を関係者で議論し、全員で合意しておくことがポイントです。
“人依存”から“工程依存”へ――標準化の壁
昭和的現場の「属人化」問題
多くの飲食店や食品工場では、レシピや調理のコツがベテラン個人の中だけに存在し、マニュアル化・標準化が進んでいないケースが根強くあります。
これは日本の製造業、特に昭和時代の手作業中心だった時代の現場文化そのものです。
「〇〇さんがいないとできない」「□□さんの時だけなんだか味が違う」――こんな声に悩む、店長や現場リーダーも多いのではないでしょうか。
誰でも再現可能な『調理マニュアル』構築法
まずベテランの技術や注意点を「観察」「ヒアリング」しましょう。
一例として、「煮込み時間は出汁の色が〇〇色になったら」などのコツも、写真や動画で記録しておけば、未経験者でも判断しやすくなります。
さらに「必ずこの順番でやる」「この状態なら加熱を+30秒」など、判断ポイントを細かくルール化します。
このマニュアルを「現場教育」にどう落とし込むかも大事です。
単なる文書の配布だけでなく、OJT(現場実習)やロールプレイ、定期的な振り返り・テストまで含めることで、定着度がグッと上がります。
サプライヤー視点:食材の安定供給が「味の軸」を決める
飲食店での「味のブレ」の大半は食材の品質やロットに起因します。
同じ産地・生産者から安定して仕入れる工夫、もしくは「味・水分・食感」などのスペックを細かく事前にサプライヤーと打ち合わせ、「どこまでのバラツキを許すか」「不良時の情報フィードバック体制はどうするか」など、バイヤー力(購買担当力)を強めていくことも大切です。
食材交渉の現場から言えば、仕入先の「品質の揺らぎ」を認識し、「ブレ幅が狭い仕入先」を評価ポイントにする。
一歩進んだパートナーシップでは、サプライヤーと共に野菜の収穫タイミングや漬物の熟成期間、カットサイズなどを細かく決め、共に味の軸を作り上げる取り組みも増えています。
「昭和的アナログ現場」でもできる小さな標準化
最新のITや自動計測機器が導入できなくても、工場や厨房のアナログ現場でも、実践的な標準化は可能です。
「マイズルールノート」(個人が自分目線で感じる注意点やコツをメモ帳にまとめて共有)や、調味料の計量スプーン・業務用タイマーの徹底。
あるいは「目視検査のWチェック」「調合時の作業者指名制」など、現場の知恵を束ねれば、属人化の呪縛も少しずつ解けていきます。
また、味見用として「基準サンプル品」を冷凍・冷蔵保存しておき、製造の合間や新人教育で「基準味と比較する」「いつでも戻れる原点の味」を持ち続ける工夫も有効です。
新しい思考:「味のブレ」を許容し、武器に変える
最後に、根本的な問いを投げかけます。
本当に「味のブレ」は“ゼロ”でなければならないのでしょうか。
消費者心理をみると、「専門店らしい手仕事の温かみ」や「季節ごと微妙に味わいが異なる楽しさ」を感じているお客様も少なくありません。
機械のように同じ味を追求しすぎると、「個性」や「飽きの来ない奥行き」が薄れていく危険もあります。
製造業で言う「多品種変量生産」=“あえて変動の幅を設け、その中でおいしさを作る”という視点も大切になるかもしれません。
また店長やバイヤーとしては、「どこまでが“味のアイデンティティ範囲”なのか」という哲学的問いに向き合い、自店舗やブランドの方向性に応じて「ブレ」をマネジメントしていく覚悟が求められます。
まとめ――「味のブレ」は現場の進化の種
「品質のバラツキ」は工場でも飲食店でも“理想ゼロ、現実は付き合い方がすべて”です。
属人化やアナログ体質が色濃い現場ではありますが、標準化・数値化への小さな一歩、現場の知恵の可視化、サプライヤーとの協調によって、必ず「味のブレ」をコントロールできるようになります。
そして「ゼロブレ」を目指しすぎず、“ちょうどよい個性”を活かしていく――日本の製造業が現場改善を重ねてきた歴史、その知見が必ずや飲食業界の商品開発にも新しい風をもたらすことでしょう。
現場に立つ皆さん、これからバイヤーや品質管理を目指す皆さん、そして食材サプライヤーの皆さん。
「味のブレ」を恐れず、まともに向き合い、そして自信を持って実践現場を前進させていきましょう。
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