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シャツの裾のラウンドカットと縫製方法が動きやすさに与える影響

目次
はじめに ~工場長が見てきた「裾」の進化~
日本の製造業、とりわけ縫製工場の現場では、長らく「工程効率」と「コストダウン」が最重要視されてきました。
それと同時に、着る人が「仕事をしやすい」「動きやすい」と実感できる服の工夫—つまり現場で働く方の本質的なフィジカルサポートが、密やかに語り継がれています。
シャツの裾に着目すると、単純な直線で処理されたもの、曲線=ラウンドカットになっているものと、形状による違いがあります。
また「縫い方」も裾の耐久性やごわつき、動きやすさに大きく影響します。
本記事では、現場目線から、裾のラウンドカットと縫製方法が着心地やパフォーマンス性に与える力、その背景にあるアナログな製造現場の実態、バイヤーやサプライヤーが意識すべきポイントについて、深堀りしていきます。
シャツの裾の「ラウンドカット」とは何か
なぜラウンドカットが生まれたのか
シャツの裾には「ラウンド型」「フラット型(一直線型)」の2つが存在します。
ビジネスシャツやワークウェアに多いラウンドカットは、裾が前後や左右で緩やかな曲線を描く仕様です。
これには明確な理由があります。
最大の理由は「可動域の拡大」と「シャツのずり上がり防止」です。
人が前かがみになったり、腕を上げたりした際、ラウンドカット裾は腰回りの引っ張りを和らげます。
また、パンツイン状態でも裾が飛び出しにくく、見た目のだらしなさも防げます。
現場作業や製造ラインで着用されるシャツは、体を大きく曲げる・ねじる動作が多いもの。
このため、「直線よりも丸みを持たせたほうが動きやすいのでは?」という現場発の工夫が普及しました。
フラット型(ボックスカット)との違い
一方、フラット型—いわゆる「ボックスカット」は、Tシャツやカジュアルシャツによく見られます。
デザイン性重視・裾を出しても様になる、というメリットはありますが、パンツに入れると動作の度に裾が出やすい傾向があります。
ワークユニフォームやバイヤーが「機能性重視」で選択する場合、ラウンドカットが優先される理由でもあります。
縫製方法による機能性の違い
三つ折り(折り伏せ)縫いの有用性
裾の縫い方で最も一般的なのが「三つ折り縫い」です。
薄手のシャツ地を数ミリ幅で2回折り、端がほつれないようロックミシンとは異なる細工でカバーします。
この手法のメリットは、
・肌当たりが柔らかい
・ごわつかず、裾が自然に収まる
・縫い代が薄く仕上がり、動作の邪魔にならない
ことです。
食品工場や精密機器組立の現場など、細やかな動きが要求される合理主義な分野ほど、「三つ折り縫いの丁寧さ」が高く評価されています。
環縫い、ロックミシンの落とし穴
生産性優先の現場では、「ロックミシンで端始末→目立たない直線縫い」という省工程も選ばれます。
ただ、縫い代が厚くなりやすいうえ、糸が肌にチクチク当たったり、裾がパンツから出てくる原因にもなりえます。
ラウンド形状は縫い工程の負荷(曲線のアイロンセットや手間)が直線型より大きく、結果として「雑な工程」が発生しやすい点も長年の課題です。
現場の職人が「端処理までしっかりやる」ことが、真の“動きやすさ”を担保します。
動きやすさにどこまで差が出るのか?現場・バイヤー・サプライヤーの視点
熟練現場作業員の証言
昭和・平成・令和と工場現場を歩いた身として断言できますが、同じ体型・素材・パターンであっても、裾のラウンドカット+三つ折り/直線+厚い縫い代では、半日は体の疲労感に歴然とした差がでます。
・前傾で何度も荷物を持ち上げる
・工作機械に腕を伸ばす
・机上作業からすぐ現場に立つ
——こうした一連動作で裾の引っかかりやズレが減ることは、「気持ちのゆとり」に直結します。
バイヤーが注目すべきポイント
バイヤーがシャツの仕入れを検討する際、「裾カット」と「縫製の仕様書」を必ず確認するべきです。
自動化拡大の現代日本でも、裾まわりは「人間の裁断→職人ミシン」の手が入る最終工程がまだ主流です。
その理由は、細やかで曲がった部分の縫製精度が、機械化しても品質を落とせない—つまり、顧客の“仕事のしやすさ”に直接関わるからです。
コスト見積りの比較だけでなく、現場作業のモニタリングや、着用レビュー(現場作業者からの率直なヒアリング)を重要視しましょう。
サプライヤーの現場力が“価格競争力”とイコールではない
昭和の時代から、国内下請け工場で「単純な直線縫い→コストダウンを推進」という改革が度々起こりました。
しかし、その度に発生したのが「現場クレーム(裾が出やすい、ほつれる)」でした。
海外OEMやAI裁断が浸透しても、ラウンド裾+三つ折り縫製を省略すると結局返品・追加再生産が増え、逆にコスト高となります。
サプライヤーはこの顧客視点を理解し、“価格だけの競争”から「使ってもらって初めてわかる付加価値」の提案へと発想を転換しましょう。
機能とデザイン—裾の未来をラテラルシンキングで考える
AI時代の「裾」はどうなる?
AIによるCAD設計・裁断機導入の現場では、ラウンドカットも正確に大量生産が可能です。
今後は、作業別・ユーザー別に最適化した裾ラウンドパターンをAIが「自動提案→オートカッティング」、さらにバイオ素材や次世代ボンドで縫製レス=“無縫製ラウンドカット”も現実味を帯びていくでしょう。
さらに進化する「裾」への挑戦
今こそバイヤー・サプライヤー・現場が三位一体で、
・AIとクラフツマンシップの融合
・人体工学×デジタルフィードバック(モーションキャプチャによる裾形状の最適化)
・着用者×現場目線でのPDCA
による「新・現場スタンダード裾」開発に挑戦すべきです。
昭和のアナログ職人技が、“最適化されたラウンドカット”という形でIT・データ活用時代にも引き継がれる。
これは日本のものづくり現場で生き残るための大きなヒントです。
まとめ ~「機能美」と「現場力」が製造業を進化させる~
裾の小さなカーブ—ラウンドカットと三つ折りの細かい技術に、現場生まれのイノベーション精神が息づいています。
バイヤーには「目に見えない仕様」にも目配りし、品質はコストダウンより長期的顧客満足度を重視するラテラルな思考が求められます。
サプライヤーは、職人技の継承と次世代自動化技術の融合を志し、裾の細部までこだわった提案力を磨きましょう。
現場に立つ全ての人が、快適に、余裕をもって動ける。
そんな“現場スタンダード”を追求する文化が、製造業の未来を明るくすると信じています。
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