投稿日:2025年7月2日

自動車騒音振動対策設計で快適運転空間を実現する方法

自動車騒音振動対策設計が重要視される理由

自動車の性能向上とユーザーのニーズの多様化に伴い、快適な運転空間の実現がかつてないほど求められるようになりました。
その中でも、車内の静粛性や振動の低減は、走行性能や安全性と同等に、いやそれ以上に重視される時代となっています。
特に、電動化が進む昨今、エンジン音以外のノイズや細かな振動が目立つようになり、「静けさ」を保つ設計技術の重要性が急速に高まっています。

昭和の時代、工場や現場では「多少の音や振動は仕方がない」と考えられてきました。
しかし現代の自動車ユーザーは、静粛性・乗り心地について非常に高い期待を寄せています。
高級車だけでなく、一般的な量産車でもこの傾向は強まり、グローバルに見ても騒音・振動対策設計(NVH:Noise, Vibration, Harshness)の巧拙がブランド価値に直結しています。

ここでは、現場で培った実践的な視点から、自動車騒音振動対策設計で快適運転空間を実現するためのポイントや最新トレンド、調達・生産管理・品質管理の観点から見る注目施策まで、分かりやすく解説します。

自動車における騒音・振動源と問題点の分析

自動車騒音・振動の主な発生源

自動車から発生する騒音・振動の主な発生源は、多岐にわたります。

まず挙げられるのが動力源であるエンジンやモーター、トランスミッションです。
加えて車体外部のタイヤ・足回りから発生するロードノイズ(路面ノイズ)、空力音、車体構造に起因するボディ鳴きやビビリ音なども快適性を損なう要因となります。

近年はEV(電気自動車)の普及によってパワートレーン由来の騒音が減少し、タイヤノイズや風切音、微細な振動音がより際立つようになりました。
また、軽量化を優先するあまり、板厚の薄い部材が増え、金属板の振動・共鳴による不快音も課題です。

現場目線でみる騒音・振動の「厄介さ」

現場の経験者として痛感するのは、騒音・振動対策が「最後の詰め」で後回しになりやすいことです。
開発段階では目に見えない問題として潜伏し、量産直前や市場投入後に不具合として顕在化するケースも珍しくありません。

また、「実際に走行してみないと分からない」「個体差が現れやすい」といった特性から、設計・調達・製造・品質管理の全てのプロセスが協働しないと、抜本的対策は難しいのです。
さらに、調達品の品質ばらつきや現場の「ちょっとした組み立ての癖」が、大きな不快ノイズの要因になることもしばしばです。

NVH(騒音・振動・ハーシュネス)対策設計のアプローチ

基本となる設計思想と現場の工夫

自動車のNVH対策は、大きく下記の3段階で検討します。

1. 発生の抑制(源対策)
動力系や構造物自体の剛性を上げることで発生源そのものを減らすアプローチです。
現場では、部品のバランス取りや、部品自体の精度向上が重要となります。

2. 伝播の遮断・減衰(経路対策)
発生した振動・騒音を客室へ伝えないための工夫です。
例えば、防振ゴムや吸音材を適切な箇所に配することで、不快なノイズ・振動の伝達を抑制します。
実際のラインでは、少しの材質変更や装着方法の工夫が大きな成果につながることもよくあります。

3. 放射の制御(受側対策)
最後に、客室に到達した音や振動を「いかに感じにくくするか」という段階です。
パネル材の二重化や、音響的に有利な車内形状の工夫も、この段階に含まれます。

最新技術の動向(CASE対応も踏まえて)

CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)の潮流に沿い、NVH対策も進化しています。

例えば――
・アクティブノイズキャンセリング:車室内のスピーカーから逆位相の音波を出して雑音を打ち消すシステム
・多層構造の遮音材や軽量吸音材:従来よりも薄型・軽量・高性能
・AIを活用した騒音源推定・対策検証:数値解析やバーチャルプロトタイプ技術が飛躍的に進歩

現場でも、遮音材の自動貼り付けロボットの導入や、サプライヤーとの共同で材料開発を行う動きが活発です。
一方、アナログなノウハウ――「ここにもう一枚吸音材を貼ると効く」といった職人感覚も依然として重要です。

調達・購買が推進するNVH対策の実践ポイント

部品選定のポイント

購買部門がNVH対策に果たす役割は想像以上に大きいです。

たとえば、「安さ」だけを追い求めると、振動吸収性の低いゴム材や、厚み・密度にバラツキのある吸音材を選びがちです。
実際の生産現場では、こうした「微妙な違い」が車内ノイズに敏感に表れます。
したがって、量産前の段階から、現場のNVH評価データを調達部門が共有し、「数字では見えない快適性」を織り込んだ部品調達が不可欠です。

また、サプライヤーとの関係性構築も重要です。
仕様にない「使い勝手」や「組付性」まで掘り下げて提案できるサプライヤーは、現場目線の価値あるパートナーとなります。
バイヤーを志す方には、この「現場課題の本質をくみ取れる目線」が非常に重要です。

コストと品質のバランス最適化

NVH対策部品は一見コストアップ要因となりがちですが、「全部盛り」では持続可能な経営になりません。
現場で有効な「最小差分投入」の観点で、NVHに効くピンポイント対策や、逆に不要なスペック向上を抑える提案も重要です。

たとえば、「このパーツをA材に変えるだけで、他の吸音対策が不要になる」というような設計変更は、現場経験がものを言います。
こうしたアイディアを調達・生産・設計が一体となって検討することが、業界全体の競争力に直結します。

生産管理・品質管理が推進するNVH対策

標準化と再現性の確保

どんなに良い設計・材料でも、現場で「バラツキ」が出れば台無しです。
NVH対策で肝となるのは、「均質な品質の確保」と「現場作業の標準化」です。

現場では、「吸音材の貼り付け位置がずれた」「ボルト締結トルクが設定と違った」だけでもノイズ・振動のレベルが変化します。
したがって、組立治具の工夫や「動画マニュアル」の導入など、実践的な作業標準化が不可欠です。

また、現場スタッフの声やノウハウを反映した「現地現物」チェック体制も、昭和時代から脈々と続く日本的な強みでもあります。
これに加え、近年はセンサーやIoT技術を活用した「全数自動検査」やリアルタイム品質モニタリングも主流になりつつあります。

現場教育と風土づくり

NVH対策は「感性」も大切です。
現場スタッフが「この音、いつもと違う」と感じた瞬間に対処できる組織文化や、異音・異振に対して「小さな違和感を大事にする」教育が根付き始めています。

これは、現場の暗黙知を組織知へ転換し、再現性のある形で次世代に伝えていく上で非常に重要です。

今後のNVH対策設計で求められるもの

従来手法とデジタル技術の融合

今後の自動車NVH対策は、「昭和の職人技」と「最先端のデジタル技術」の融合が鍵になります。

従来の「耳で聴き分ける」「手で感じる」場数主義も、依然として重要な価値を持っています。
一方で、CAE(Computer Aided Engineering)解析やAI予測などで、不具合の未然防止や量産バラツキの最小化がより容易になっています。

これにより、現場力にデジタルの裏付けを組み合わせ、「最小限の変更で最大限の効果をあげる」アプローチが今後主流となります。

多職種連携による課題解決力

NVHは設計・生産・調達・品質管理・サプライヤー、さらにマーケティング部門までもが関わる横断したテーマです。
それぞれの部門が「自分ごと」として課題を捉え、小さな違和感を大きな進化へとつなげる「現場力」が、日本的な製造業の底力と言えるでしょう。

また、サプライヤー視点でいえば「どこまでバイヤーの真の目的や現場課題を読み取れるか」によって、受注の決定率が大きく変わります。

まとめ:快適運転空間は「現場力」と「発想力」がつくる

自動車騒音振動対策設計の本質は、単なる技術論にとどまりません。
エンドユーザーの快適性を突き詰めるプロフェッショナリズムと、現場での実践力、そして変革への柔軟な発想力が組み合わさることで、初めて実現できます。

現場目線での小さな工夫、サプライヤーとの密な連携、AI・デジタルによる新しいアプローチ――。
これらすべてが、次世代の「快適運転空間」をつくる礎となります。

調達購買から生産・品質管理まで部門横断で取り組むことで、日本の自動車産業はより高い付加価値を生み出すことができるでしょう。
そして、「昭和の常識」から一歩進んだ新しい発想こそが、未来の競争力を生み出します。
製造業に携わる方々、バイヤー志望の方、サプライヤーの現場にいる皆様の参考となることを心から願っています。

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