多段階承認ワークフローを自動化し内部統制を守りつつ処理スピードを向上させる方法

はじめに

製造業の現場では、多くの書類や申請業務が日常的に発生します。
特に調達購買、生産管理、品質管理といった部門では、「多段階承認ワークフロー」が根強く運用されています。
一方で、こうしたアナログな運用が足かせとなり、業務効率や処理スピードに課題を抱えている現場も少なくありません。
本記事では、昭和世代の価値観や現状の風土も踏まえつつ、多段階承認ワークフローの自動化による業務改善手法と、その際に求められる内部統制の強化について、現場目線で詳しく解説していきます。

多段階承認ワークフローとは何か

製造現場に根付く多段階承認の歴史的背景

製造業には「ダブルチェック文化」が根付いており、特に購買・発注プロセスでは、複数の担当者や管理職による承認フローが当たり前となっています。
これは、単純な不正抑止だけでなく、属人的なミスの防止、責任の明確化、そして企業全体のガバナンス強化の観点から進化してきた文化です。
昭和から続く多段階承認ですが、現代もなお多くの現場で紙の稟議書やExcel、口頭確認などアナログな承認手法が頻繁に使われています。

多段階承認の基本ステップ

1. 担当者による申請起案
2. 直属上長による1次承認（予算・内容・必要性の確認）
3. 関連部署（経理・品質・調達）による2次・3次承認
4. 部門長あるいは役員による最終承認
5. システムや台帳への記録・保管

こうした流れが月間数百～数千件発生する企業も少なくありません。
これが紙やメール、手渡しなどアナログで進められる状況が、現場の「承認渋滞」や「処理遅延」を招いています。

アナログ運用がもたらす課題

業務スピードの低下

承認依頼のたびに紙に記入し、押印を求め、承認者を探して…といった旧態依然のオペレーションは、多大な時間的ロスを生みます。
また、リモートワークや分散拠点が進んだ今、紙書類の回覧自体が物理的な障壁になるケースも増えています。

内部統制の形骸化

形式的な押印・署名に変質し、承認者が内容を精査していなかったり、担当者の融通で「空承認」が横行したりと、内部統制本来の機能を十分に果たせなくなるリスクも顕在化しています。

抜けや二重申請、追跡不能リスク

アナログ管理は「どこで止まっているか分からない」「最新版がどれか分からない」「申請書が紛失した」といったヒューマンエラーも多発します。

自動化によるワークフロー改革の可能性

デジタル化・自動化のうねり

近年は、稟議や承認プロセスをクラウド型ワークフローシステムやRPA（Robotic Process Automation）で自動化し、従来の「紙・Excel依存」を脱却する動きが加速しています。
具体的な事例としては、以下のような施策が挙げられます。

ワークフローシステムの導入

・申請～承認までを一元管理（進捗・履歴が可視化）
・承認順序や担当者設定を柔軟に構築可能（組織改編や人事異動にも即時追従）
・申請者・承認者への自動リマインド（案件の滞留防止）
・モバイル申請・承認対応（工場現場やリモート環境からも操作可能）

RPAによる定型作業の自動化

・入力データのチェック、自動転記、システム間連携
・コンプライアンスルール違反の自動検出
・過去の申請データとの自動突合・差分確認

内部統制強化の仕掛け

・「なぜこの承認が必要か」の証跡自動記録
・アクセス制限・電子署名等による真正性担保
・各承認段階ごとのログ記録（不正・改ざんの早期発見）

自動化がもたらす具体的なメリット

処理スピードの劇的向上

従来のアナログ運用では1件あたり半日～数日かかっていた承認プロセスが、システム化により数分～1時間未満で完了するケースも珍しくありません。
余計な「待ち」や「追いかけ」の手間が消滅し、バイヤーや承認者はより付加価値の高い業務に専念できるようになります。

ヒューマンエラー・不正リスクの低減

自動化によって記録・承認履歴がすべて残るため、抜けや改ざん、二重申請が自動検知されます。
また、紙やExcelのような「コピー＆ペーストの手軽さ」に依存しないため、データの真正性も向上します。

内部統制の「質的」向上

単なる形式的な承認ではなく、「本当にリスクをふまえた確認・統制」機能を維持しやすくなります。
例えば、高額案件や新規サプライヤーとの取引など「より慎重な審査が必要な案件」をシステムが識別し、自動的に複数チェックを設定することもできます。

導入成功のための現場視点のポイント

システム任せにしすぎない現場コミュニケーション

デジタル化＝全自動ではなく、「なぜこのフローが必要なのか」「どうすればチェック精度と効率の両立ができるか」を現場スタッフ自身が腑に落ちるまで議論することが不可欠です。
導入時には、「疑問や違和感をそのまま放置しない」対話の場を意図的に設けましょう。

昭和的マインドとの共存の知恵

どれだけIT化が進んでも、「紙を見ないと不安」「口頭確認しないと許せない」というシニア層も現場には多く存在します。
完全移行をいきなり目指すのではなく、「紙PDF の自動添付」「緊急時のみ例外的な手動処理枠を設ける」など、移行期特有の柔軟性や配慮も不可欠です。

例外処理・イレギュラーへの備え

製造業の調達現場では、「突発的な緊急購入」「仕様変更による急な再申請」「サプライチェーン由来の外部要因」がつきもので、理想どおりに流れないケースも多発します。
システム化の際には、「例外時の承認ルール」「手戻り処理のワークフロー」も設計段階から明確にしておきましょう。
それにより、「機械任せで人が考えなくなる」弊害も回避できます。

サプライヤー・バイヤーにとってのメリット

バイヤー目線：より高度な購買判断が可能に

定型・繰り返し発生する庶務的業務から解放されることで、本来注力すべき「原価低減」や「サプライヤーマネジメント」など戦略的業務にリソースを割けるようになります。
また各案件の承認プロセスの見える化により、コンプライアンスリスクを自ら抑え込みやすくなります。

サプライヤー目線：取引スピードと透明性の向上

「いつ発注書が来るかわからない」「先方の承認が遅れて納期調整ができない」といった問題が大幅に減少します。
また、承認フローが可視化されることで、「なぜ今回は発注までに時間がかかったのか」といった説明責任を納得感ある形で受けられるようになります。

アナログからデジタルへ――現場が発展するためのロードマップ

1. 現状の課題・滞留ポイントの棚卸し
2. 全承認フローの「見える化」とルール明確化
3. 社内コミュニケーションによる不安解消と参画意識の醸成
4. システム選定と段階的導入（パイロット運用→全体展開）
5. 内部統制・ガバナンス観点からのチェック体制構築
6. 例外時の対応策や現場裁量枠の設定
7. 成果のフィードバックと不断のPDCA（業務改善意識を定着させる）

まとめ

多段階承認ワークフローの自動化は、単なる業務効率化にとどまらず、内部統制・ガバナンスの強化や、現場の働きがい向上、サプライヤーとの信頼関係強化にも直結する取り組みです。
昭和から続く「安心・安全の文化」と、デジタル化がもたらす「スピード・透明性」をうまく融合させることで、日本の製造業はさらなる競争力を高められます。
管理職やバイヤー、サプライヤーの皆さまも、ぜひこの機会に現場改革の一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。