投稿日:2025年11月23日

海外企業が嫌う“資料の過不足”を防ぐ作成術

はじめに―製造業現場で痛感する“資料の過不足問題”

製造業でバイヤーやサプライヤーを担当する皆さんにとって、見積依頼や仕様確認、品質打ち合わせなど、資料のやりとりは業務の生命線です。

とくに海外企業との取引になると、「求められた情報が過剰」「足りない」「わかりにくい」と言われ、せっかくの商談や比較が後ろ向きになってしまうことが少なくありません。

なぜ“資料の過不足”が起きるのでしょうか。

20年以上、日本の大手製造業の現場で課題を見てきた私の経験から、単なるコミュニケーションギャップではない、業界特有の歴史や思いこみ、そして昭和的な制作文化が影響していると考えています。

この記事では、「海外企業に嫌われる過不足資料」になってしまう構造解析と、アナログ業界でもすぐ活用できる、現場目線の“ちょうどよい資料作成術”を伝授します。

なぜ過不足が起こる?―日本的ものづくりと資料文化の落とし穴

「とにかく全部詰め込む」昭和的安心感は、情報のジャングル?

日本の製造業には、失敗や見落としを極端に嫌う文化があります。

そのため「念のため」と資料にあらゆる情報や参考データ、社内ルール、過去のやりとりまで盛り込みがちです。

その結果、資料は分厚く、肝心の求められたポイントが埋もれてしまいます。

海外企業の担当者は、「要点が見えないので比較できない」「結局何を判断すればよい?」と途方に暮れてしまうのです。

「目配り」「忖度」頼み―暗黙知に頼る危険性

特に経験豊富なベテランは、頭の中に暗黙知として「この人にはここまで言えば通じるだろう」「状況を読んで穴を埋めてほしい」と考えがちです。

しかし、社外で、しかも文化の異なる海外ではその前提が通じません。

資料に「書いていない」ことは存在しないのと同じです。

海外バイヤーは「Why?」「理由は?」「何がリミット?」と根掘り葉掘り聞いてくるため、正確さと論理性が問われます。

逆に、“情報は少ない方が楽”という誤解

若手や資料作成が苦手な方がよくやるのが、“見積依頼条件”や“生産計画”などの書類で「とりあえずこれくらいでよいだろう」「足りなければ聞いてくるはず」と、最小限しか書かないパターンです。

日本企業同士なら「あとは電話や訪問で保管」という昭和的習慣が根付いてきましたが、海外企業には通用しません。

結局「情報が足りない」という理由で商談が止まるリスクが高くなります。

“過不足”を見極めるポイント―実務ベースで考える3つの要素

1.「目的」から逆算する

まず資料作成に着手する前に、「その資料で相手はどんな意思決定をしたいか」を明確にしましょう。

例えば、
・見積依頼→要件の比較、投資可否の判断
・品質打ち合わせ→NGが出ない根拠、品質の実現可能性の判断

この軸がぶれなければ、不必要な情報の削除・必要な情報の漏れ出し防止ができます。

2.「エビデンスの粒度」を合わせる

日本人はどうしても“根拠集め”に熱心ですが、海外バイヤーにとっては「Your Recommendation(推奨案)」と「その理由」が一番大事です。

・全データ開示か、代表値だけでよいか
・グラフや数値でどこまで示す必要があるか
・認証やスペックの引用は必要か

「過不足」のポイントは“証明レベル”の違いにあります。

相手企業のポリシーや業界標準(ISO/IEC規格など)をリサーチのうえ、情報量を調整するとよいでしょう。

3.「開示・非開示ライン」を社内で決めておく

資料を厚くしたくなる理由の一つに「後々ツッコミや交渉があった時のリスクヘッジ」があります。

しかし、社内ルールや社外秘情報を含めすぎると、全体像に靄がかかります。

事前に「外部向け資料に出してよい範囲」「開示するレベルとその根拠」を決めておくことで、ブレない資料作成が実現できます。

過不足ゼロのための“資料骨格テンプレート”

資料の過不足をゼロに近づけるためには、「どの案件でも大筋は同じ」骨格を持つことが重要です。

以下はどの分野にも通用するシンプルなテンプレートです。

【資料骨格例】

1. 件名・目的(相手が読む理由・判断目的)
2. 要点ダイジェスト(結論、要件整理、本資料の主旨)
3. 主要条件の提示(検討パラメータ、要求値など)
4. 根拠・証拠(数字、規格、データ、過去実績など)
5. 分かりやすい補足・注記(想定外リスク、未確定箇所の明示)
6. 「次のアクション」提案(相手に求めること、いつまで、何を検討or回答してほしいか)

この流れをベースにすれば、何を入れて・何を削るべきかが整理しやすく、伝え残しや不要な盛り込みを防げます。

海外企業とやりとりする上でのテクニック

1. グローバル標準・規格を優先する

資料が“伝わらない”最大の原因の一つは、ローカルルール・日本独自仕様に基づいた内容だからです。

できる限りJISや日本工業規格でなく、ISO(国際標準)・IEC(電気)・ASTM(米国材料)といったグローバル規格名を明記しましょう。

2. 数値・図表は直感的に

多言語コミュニケーションでは、文章でゴチャゴチャ説明しても通じません。

簡単なチャートや図表、アイコンを用いて、「どこがどう良いか」「比較してどこが違うか」を一目で把握できるようにしましょう。

3. “Q&A欄”を必ず設ける

海外企業はとにかく質問し、根拠や抜け落ちを徹底的に突いてきます。

最初から「よくある質問」と「回答(想定FAQ)」を加えておくことで、相手が不安や疑問を抱いた時のトラブルを未然に防げます。

バイヤー目線の「資料の見え方」から逆算する

サプライヤー側が陥りがちなのが、「自社都合の資料」になってしまうことです。

例えば、説明過多な会社案内、開発ヒストリー、こだわりの細かな工程…。
確かにアピールしたい気持ちは分かりますが、バイヤーは「自社案件で何がどのように解決するか」だけを知りたがっています。

海外バイヤーは「Yes or No」「なぜこの判断か」という“二者択一”“論理的根拠”を重視します。
その前提を意識し、
・結論とおすすめ理由を冒頭に
・第三者的根拠を数値・データで
・不要な情報は省略しつつ、突っ込まれる基本的な事項は漏れなく

という形を徹底しましょう。

現場で明日から使える「三つのカイゼン」ルール

1. 「3分」ルール
 資料を最初から最後まで“3分で読める”分量にまとめる。
 深掘り情報は別紙や添付に回す。

2. 「読み手変更」ルール
 納品履歴や承認ルートによく出る海外担当者や購買責任者を“ペルソナ”に設定。
 「この人は何を重視するか?」を毎回見直す。

3. 「見せてOK/NG」分類ルール
 社内で“外部公開可”な情報かどうかを、色分けやマークで一目でわかる仕組みにしておく。
 微妙な情報はテンプレートの「留保欄」に集約。

まとめ:資料過不足から解放される“現場力”を

製造業現場の資料文化は、なかなか一朝一夕で変えられません。
しかし、グローバル競争が激化し、現場が忙しくなるほど、「ちょうどよい情報発信力」で効率と成果が大きく変わります。

資料の過不足を見極め、「伝えるべきことだけ、もれなく、かつ過不足なく」届けること。
これは単なる技術ではなく、組織文化を変えうる大きな武器です。

バイヤー・サプライヤー双方の立場を知る皆様が、現場主義の“カイゼン”で資料力を一歩先に進めることを期待しています。

引き続き、誰もが読みやすく使いやすい資料で、日本のものづくりが世界としっかりつながっていく…そんな未来を一緒に作っていきましょう。

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