投稿日:2025年10月28日

飲食業がオリジナルレトルト食品を製造するためのライン構築とテスト販売法

はじめに

飲食業界では、競争激化や顧客ニーズの多様化により、オリジナル商品の開発が大きな差別化ポイントとなっています。
特に、手軽さや保存性の高さから注目されているのがレトルト食品です。
オリジナルレトルトを自社で作ることで、既存店舗のブランド力アップや新たな収益源の確保が見込めます。
しかし、製造ラインの構築やテスト販売となると「ハードルが高そう」「どう着手したらよいか分からない」といった声が多いのも事実です。
本記事では、実際の製造現場でのノウハウをもとに、アナログな業界で根強い常識や課題を踏まえつつ、オリジナルレトルト食品ラインの立ち上げからテスト販売までの道筋を徹底解説します。

なぜ今、レトルト食品なのか?

市場拡大と消費者ニーズの変化

レトルト食品市場はコロナ禍をきっかけに再評価され、家庭内での“時短調理”や“非常時の備蓄食”といった用途でニーズが急増しました。
更に、外食代替として「お店の味を家庭で手軽に味わいたい」という消費者心理が強まっており、専門店のオリジナルレトルトへの期待値は非常に高いです。

飲食業の新しい収益モデルとして

原材料費の高騰や人件費の上昇で、飲食店はこれまで以上に収益性改善が求められています。
レトルト食品は、既存店舗のメニューを活かしつつ、EC販売・ふるさと納税・ギフト需要にも展開できるため、事業多角化の起点として有効です。

“現場発想”のレトルト製造ラインの構築ポイント

1.業界特有の障壁とラテラルに突破する発想

日本の飲食業や食品加工の現場には、昭和時代から続くアナログな慣習や「現場感覚でなんとなく…」という意思決定が未だに根強く残っています。
一方で、HACCP義務化や食品衛生法改正による法規制、消費者の安全意識向上など、現場側も新しい地平線を意識せざるを得ない状況です。
最初から「全自動ラインを導入して大規模工場を目指す」のではなく、自社の店舗特性や目標販売数に応じて、手作業工程と機械工程の“ハイブリッド型ミニマム工場”を設計することが成功の肝となります。

2.ライン設計は『縮小再生産』で段階的に進める

最初からフルスケールの設備投資を行う前に、「手作り+小型レトルトパウチ機+小型レトルト釜」などのマイクロ設備で小ロット生産を行い、製品や工程の課題・改善ポイントを洗い出します。
例えば飲食店厨房の規模を活かしつつ、パート従業員がオペレーターとなれる単純な流れを意識したレイアウト・機器選定が大切です。

3.衛生・品質管理は“工場基準”が必須

飲食店の厨房設備とレトルト食品製造現場では、求められる衛生管理レベルが全く異なります。
HACCPに基づいた作業マニュアルやCCP(重要管理点)の設定、記録・検証の徹底は不可欠です。
また、レトルト工程で特有の加熱殺菌条件(F値管理)やパウチのシール強度検査など、品質保証のためのポイントを押さえましょう。

レトルト化の“落とし穴”と現場的解決法

1.お店の味=美味しいレトルトにはならない

飲食店のレシピそのままをレトルト化すると、加圧加熱による風味変化や具材のテクスチャ劣化、分離・沈殿などが発生します。
製造現場では、味バランス、増粘剤や乳化剤の使い方、水分量、カット野菜の形状などを“レトルト仕様”に大胆に最適化する必要があります。

2.現場目線のコスト管理と歩留まりノウハウ

ロス率の高い具材(魚介や肉類など)は、下処理の工夫や予備加熱による歩留まり確保が欠かせません。
また、パウチ充填も手作業ではロス汚れや充填ミスが生じやすいため、必要最小限の自動化(例えば半自動充填機)で現場負担を下げる工夫が重要です。

3.原材料仕入れ戦略とサプライヤーとの連携

原材料ロットの波動が小ロット生産時の大きなリスクです。
できるだけ複数食材を定番メニューと共用し、バイヤー的な目線で仕入れ交渉力を高めましょう。
地域産素材を戦略的に組み込むと、原材料調達の安定化と商品差別化(ストーリー化)を同時に図ることができます。

テスト販売までの“実践ロードマップ”

1.試作・実機トライアル:失敗OKの精神でトライ&エラー

まずは小ロット(数十~数百パック)の試作を行い、従業員や常連客によるモニターテストを重ねます。
ここでのフィードバックが、実際の消費者ニーズを的確に捉える近道です。
失敗を恐れず、柔軟に配合や工程を替えて試行錯誤する“PDCA”が肝要です。

2.販路設計:まずは“小さく早く売る”ことから始めよう

自社店舗での販促(テイクアウトやオプション販売)、SNSプレゼントキャンペーン、ECモールドの活用といった複数販路を同時に、小規模&短期間で展開しましょう。
早い段階で「売れ筋の兆し」「お客様の声」「価格受容性」などを確認し、本格生産&特定販路拡大への根拠データを蓄積します。

3.パッケージ・表示ラベルの注意点

食品表示法に準拠した原材料表記、賞味期限・保存方法、製造ロットNo、販促メッセージなどは、消費者視点で分かりやすいことが大前提です。
現場の声を反映した「どこをアピールすれば響くのか」をプロのデザイナーとも対話しながら設計しましょう。

“売れるレトルト”を生み出すための製造現場流マインドセット

1.現場のアイデアやひらめきを大切にしつつ、客観データや外部専門家の知見も積極的に取り入れる“開かれた現場力”が必要です。
2.バイヤー(買い手)の発注視点=「安定供給」「品質保証」「ストーリー」といった評価軸を、サプライヤー側も製造現場で“当たり前化”していきましょう。
3.昭和型の「人の勘と経験」だけに頼るのではなく、工程ごとの数値管理やマニュアル化、必要最小限の自動化を進めることで、「再現性」「拡張性」を持たせることが不可欠です。

まとめ:製造業的ラテラルシンキングでレトルト製造にチャレンジを

飲食業からオリジナルレトルト食品製造への挑戦は、単なる新メニュー開発ではなく、工場的な「ものづくり思考」と「現場の実践力」の融合が必要です。
変化の激しい時代だからこそ、マイクロ工場的視点や多角的な売り方、人材活用の柔軟性を持ち、「まずはやってみる」精神で一歩踏み出しましょう。
蓄積される現場ナレッジが、必ずや貴社ブランドの今後の成長と差別化につながります。

飲食業の未来を切り拓く、レトルト食品製造への第一歩を本気で応援しています。

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