投稿日:2025年11月3日

鋳造・鍛造の違いを理解して部品形状に合う製法を選ぶ方法

はじめに:鋳造と鍛造、その違いが製造現場にもたらす影響

製造業の現場では、多種多様な部品が日々生み出されています。

その中でも「鋳造」と「鍛造」という2つの製法は、金属部品の生産において中核をなす存在です。

同じ金属部品を作る手法でありながら、その特徴や得意分野には大きな違いがあります。

調達購買担当、バイヤーを目指す方やサプライヤー立場の方にとっても、「どちらを選択すべきか」は非常に重要なテーマです。

今回は、昭和のアナログな現場にも今なお根付く製造現場目線から、「鋳造」と「鍛造」の違いと、実際に部品形状や用途に合わせてどう選択すべきかについて解説します。

鋳造と鍛造の基本的な違い

鋳造とは何か

鋳造は、溶かした金属を型に流し込んで冷やし固めることで目的の形状にする工法です。

複雑な形状や空洞(中空)を持つ部品でも、比較的容易に大量生産が可能というメリットを持ちます。

例えば、自動車エンジンのブロックや、機械の歯車などは鋳造によるものが多いです。

型の設計自由度が高く、細かいディテールも再現しやすいことが特徴です。

鍛造とは何か

鍛造は、金属を加熱したうえで外部から強い力(プレスやハンマー)を加え、素材そのものを圧縮成形する方法です。

鍛造によって金属の結晶が密になり、強度や耐久性、靱性(粘り強さ)が大きく向上するのが最大の特徴です。

シャフトやクランク、ボルト・ナットなど、特に高い強度と信頼性が求められる部品に適しています。

部品の形状特性と製法の最適なマッチング

形状の複雑さへの対応力

鋳造は型を使って金属を成形するため、三次元的な複雑形状や、多数の中空部を同時に作ることが得意です。

一方、鍛造は金属を圧縮して形を作るため、細部の複雑形状には限界があります。

また、完全な中空構造はほぼ不可能です。

複雑に絡み合うリブや、冷却水路が内部に走るエンジンブロックなどは鋳造向きとなります。

強度・靱性の要求に対する選択基準

鍛造品は素材内部の微細な隙間(気孔)がつぶされ、きめ細かい組織になるため、非常に高い強度を発揮します。

引張り・曲げ・衝撃など外力に対する耐久力が必要な場合や、使用中に繰り返し荷重がかかる部分には鍛造が最適です。

特に自動車足回り部品や航空機の重要構造体(クレビス、ヒンジ)、ベアリング部材などでは鍛造が主流となります。

鋳造品は強度ではやや劣るものの、剛性の必要な厚肉部品や形状複雑な箇所に適しています。

製品サイズや生産ロット数で製法を見極める

鋳造は比較的大きな部品や、中量〜大量生産に向いています。

一方、鍛造は個々の金型や工程設備投資が高いため、初期費用がかさんでも生産数が多ければコストメリットが出ます。

単発〜小ロット、試作開発用途には、手作業に近い製造(鍛冶屋的な鍛造、砂型鋳造)も存在しますが、一般的には量産性との兼ね合いで選択されます。

アナログ工程の現場目線「なぜ鋳造・鍛造の選定は難しいのか」

日本の製造業、とくに中堅・中小の現場では、「今までこうしてきたから」という経験則が色濃く残っています。

とりあえず鋳物でやろう、うちは鍛造が得意だから鍛造で…という“自社都合”の選択も根強く、そこにアナログ時代のしがらみが見え隠れします。

しかし実際には、部品の使用環境、材料の進化、後工程のコスト、調達リスク、リードタイム短縮など、様々な観点を総合的に評価することが必要です。

現場調達のジレンマ:コスト優先か、品質優先か

調達担当者から見て、「鋳造工程は型代が安く収まることが多く、初期投資が柔軟」と捉えられる場合が多いです。

それに対し鍛造は「型代・治工具費用が高額だが、部品1個あたりの歩留まりが良く、品質クレームが少ない」というメリットがあります。

このため現場では、開発初期コストと、長期安定供給リスクや品質クレーム対応コストとの間で天秤にかかることが多くなります。

設計目線・購買目線・現場目線の狭間で起こるトラブル

設計部門は、より厳しい寸法公差や材料スペックを求めがちですが、購買部門や現場は実際の管理コストや生産性を重視します。

例えば「CNC加工で補正できる」と前提して鋳造を選んだ設計が、実際には鋳造品の組織的不安定による変形や割れ、内部欠陥に苦しむというケースも散見されます。

また、「安さ」だけで屋外部品を鋳造化し、耐久テストで早期破損するなど、鋳造・鍛造の適材適所を見誤るトラブルは今なお多発しています。

バイヤーとして知っておきたい、部品形状と製法選択のチェックリスト

製法選定でミスをしないためには、まず「部品用途」の本質を見極めることが重要です。

下記のチェックリストを活用してみてください。

鋳造が適している部品の特徴

・三次元的に複雑な形状(リブやフィンが多い)
・部品内部に中空・冷却流路などを持つ
・高剛性が求められる厚肉部
・重さを許容できる大型部品
・コストを重視した大量生産品

鍛造が適している部品の特徴

・高強度・高靱性が求められる
・長尺や棒状(シャフト)
・衝撃や疲労に強い必要がある
・仕上げ寸法精度が高い
・材料ロスを極力減らしたい中〜大量生産品

最新動向:進化する鋳造・鍛造技術と新しい製品設計思想

最新技術が導入されている現場の実態

AIやIoTの普及により、鋳造では「流動解析ソフト」を活用した鋳巣・割れの予知や、最適肉厚設計とコストダウンが主流となっています。

鍛造でも、「閉塞鍛造」や「等温鍛造」など新しいプロセス管理技術が組み込まれ、かつては困難だった複雑形状・高精度化が進んでいます。

また、設計段階で3D-CADとの連携や、シミュレーションによる最適プロセス設計の比重が増しています。

デジタルとアナログの融合で変わる製造戦略

昭和的なしきたりを残す現場であっても、少子高齢化による人材不足や、グローバル調達の変化で「より正確なプロセス選択」が求められる時代です。

型の維持・管理や品質保証体制、工程間のデジタルデータ連携、図面管理の自動化などが進めば、昔ながらの「勘と経験」だけに頼らなくても最適な選択ができます。

バイヤー・サプライヤーに求められる考え方:現場力を生かす“共創”の発想

産業構造がグローバル化し、競争が激化した今、バイヤーやサプライヤーには「鋳造・鍛造」の技術特性だけでなく、相互の現場事情や工程データをオープンにしながら、最適解を引き出す「協働思考力」が不可欠です。

現場経験者として強調したいのは、「一品ごとに現場を知り、現物・現場・現実(3現主義)」を徹底することです。

定期的な現場パトロール、工程見学、サンプル評価会などを通じ、部品の“本当の使われ方”を理解し、サプライヤーの言い分とバイヤーの要望を両立させる工夫が必要です。

まとめ:鋳造・鍛造の違いを使い分けて“最適解”を導く力がこれからの武器

鋳造と鍛造はどちらも日本製造業の発展を支えてきた基幹技術です。

それぞれにメリット・デメリットがあり、部品形状や求められる特性、生産計画、工程コスト、調達面のリスクなど、複合的な視点から判断することが重要です。

現場経験と最新技術動向を掛け合わせ、設計・購買・サプライヤーが一丸となって最適製法を選び出す。

これこそが、ますます加速する市場競争やサステナブルな製造現場づくりの鍵を握るのです。

製造業に携わる皆さん一人ひとりが、今日から「鋳造」「鍛造」の違いと選定思考を武器に、新たな価値創造へと踏みだしていきましょう。

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