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輸送保険ICC A B Cの選び方で海上リスクを最小化するカバレッジ設計

目次
はじめに:製造業の物流リスクと輸送保険の重要性
製造業では、原材料や製品を国内外へ輸送する場面が多く存在します。
特に国際物流、つまり海上輸送においては、多様なリスクが潜んでいます。
これらのリスクから企業の財産を守るために、「輸送保険(貨物海上保険)」の役割は極めて重要です。
近年ではグローバルサプライチェーンが複雑化し、調達や生産拠点が世界中に広がるなか、未然に損害リスクへ備える意識が高まっています。
本記事では、現場やバイヤーの視点から、特に主要な「ICC(Institute Cargo Clauses)A・B・C」のカバレッジの違いと、その選択のポイントを解説します。
昭和時代の「メーカーの伝統」から脱却し、持続可能で強靱なリスク管理体制を目指す方に役立つ内容です。
ICCとは何か?国際ルールが守る“物流の安全網”
ICC(Institute Cargo Clauses)とは
ICC(英:Institute Cargo Clauses)は、ロイズ保険協会(英国保険引受協会)が定めた国際標準の貨物保険約款です。
現在、世界中の輸送保険で広く採用されており、バイヤーサイドもサプライヤーサイドも、この分類が基本的なリスク分担の指標になっています。
なぜICCが使われるのか?
国や保険会社ごとにローカルルールでは、不透明さが生じやすく、トラブルの元となりがちです。
ICCは「どこまでを保険適用にするか」の共通基準を明確にし、貿易関係者の信頼を担保する役割を持ちます。
これこそが、アナログな商習慣が根強い業界でもICCが支持され続ける理由です。
ICC A・B・C:それぞれのカバレッジ内容と違い
ICC A(オールリスク)
ICC Aは貨物に生じるあらゆる損害原因を原則的にカバーするもっとも広い補償範囲です。
“オールリスク”と呼ばれる所以であり、特定の免責事項(戦争やストライキ、放射能など法外な事象)を除けば、原則としてすべての物的損害が保険の適用対象となります。
ICC B(限定リスク)
ICC Bはカバーできる損害原因がICC Aよりも狭く、「火災・爆発」「座礁・沈没・転覆」「陸揚時の荷の落下」「地震・津波」「悪天候による海水の進入」など、具体的なリスク項目だけが対象です。
ここがポイントで、日常的な破損や汚損、盗難などはカバー範囲外です。
ICC C(基本カバレッジ)
ICC Cはさらに限定された最小限の補償です。
火災、爆発、船舶・車両の転覆や脱線、荷卸し時の荷物落下程度が対象。
だからこそ保険料はもっとも安いですが、ほとんどの現場リスクには対応できません。
貨物の特性・現場事情に合った選び方
バイヤー側の視点:何をリスクとみなすべきか
日本の「ものづくり」現場では、とかくコスト意識先行で「最低限の保険で良い」という風潮も見られます。
しかし、サプライチェーンがグローバル化し、遠隔地輸送や複数のハンドリング業者が関与する今、正しい保険選びは経営リスク管理そのものです。
例えば「精密機械」や「電子部品」は湿気や振動にも弱く、オールリスクのICC Aが事実上の必須条件。
一方「大口鋼材」や「原材料のバルク輸送」ではICC Bでも十分なケースもあります。
サプライヤー側からみた保険カバレッジの交渉余地
サプライヤー側にとって保険はコスト要素でもあり、過剰なカバレッジを付けて価格競争力を失うことは避けたいものです。
しかし、納入先からカバレッジ内容や保険証券の明示を求められる場面は近年増えています。
たとえば、サプライヤーは「補償できる損害項目の一覧」と、「その輸送便で経験した実例(荷崩れ、誤積載による破損、盗難事案など)」をあらかじめ提示できると、取引先からの信頼性が高まります。
実務担当者に求められる“ラテラルな発想”
本当に起こりうるリスクは何か?という現場ならではの発想が欠かせません。
押しつけられるままの保険商品を採用するのではなく、自社の物流経路、搬送手順、過去のクレーム(ダメージレポート)を分析すべきです。
例を挙げれば、近年は「地政学リスク」「海賊行為」「急激な天候変化による水濡れ」など、従来の業界慣習では想定外だったリスクが顕在化しています。
物流管理担当としては、「輸送経路の変更」「パッケージングの強化」「輸送業者のトレーニング徹底」といった“保険に頼らないリスク低減策”も同時に講じる姿勢が必須です。
ICC各種と保険プレミアムの費用対効果を見極める
単純な保険料比較では判断できない
もちろんICC Aは保険料がもっとも高くなりがちですが、「1回の損害額」「サプライチェーン全体への波及損」まで考慮すると、必ずしも高コストとは言い切れません。
契約品目の納期遵守がビジネスの信用に直結する場合、少しの保険料アップで大きな安心が得られるのです。
自己負担額と保険の掛け方の工夫例
コスト管理上は「一定額までは自己負担(フランチャイズ条項)」を設定する、複数社の保険を組み合わせて“穴”を埋めるなど、バイヤーとしての工夫が求められます。
また、年間契約にして取扱数量を増やすことで、保険単価を引き下げる方法も現場ではポピュラーです。
昭和から令和へ:デジタル化と保険選びの進化
製造業の現場では、長年「先輩から教わったやり方」「保険証書は経理任せ」「まさかの時はメーカー同士の話し合いで解決」という“昭和流”が根強いです。
しかし、海外調達先の多様化や不透明な国際情勢を背景に、予想外かつ巨額の物流損害が発生するリスクは年々増加しています。
今や、輸送保険もAIやビッグデータ解析を導入し、リアルタイムでリスク状況のモニタリングやレポーティングが可能となりました。
将来はIoTタグで、貨物ごとに最適な保険設計をカスタマイズする時代も本格化するでしょう。
まとめ:現場力が活きる“最適な輸送保険”の選び方
輸送保険のICC A・B・C、それぞれの特性と自社貨物・物流経路・取引先条件を冷静に見極めることが、強い現場づくりの第一歩です。
「コストダウンか、安心重視か」ではなく、「何が事業継続に致命的な打撃となるのか」をラテラルに考え直し、現実的かつ一歩踏み込んだリスクマネジメントを構築しましょう。
調達・現場・サプライヤー・営業など、部門横断でのコミュニケーションと、定期的なリスクの“棚卸し”がこれからの時代のスタンダードです。
製造業の現場目線での知見を広く共有し、より強固なグローバル供給網の実現に、今日から取り組んでいきましょう。
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