投稿日:2025年10月1日

飲む文化から食べる文化への新しい酒体験創出における事業連携の実践方法

はじめに~製造業が酒業界で果たすべき新たな役割

日本の酒文化は長らく「飲む」ことが中心でしたが、近年は食と融合した「食べる」酒体験への進化が注目されています。

昭和時代から続くアナログ気質の業界も多いなかで、製造業ならではの技術や連携ノウハウが新しい酒体験の創出に不可欠となっています。

本記事では、20年以上の現場経験をふまえ、「飲む文化」から「食べる文化」へと変革する酒業界で、どのように事業連携し、新たな価値を創造できるのかを、現場目線で具体的に解説します。

酒業界の変革トレンドと製造業の新たな関わり方

「飲む」だけでなく「食べる」へ—業界の新潮流

従来、清酒や焼酎、日本酒は「飲む」ものとして親しまれてきました。

しかし、健康志向や新たな消費体験を求める動きが加速する現代、酒の成分や香り、味わいを活かした「食べる」プロダクト——たとえば酒粕スイーツ、発酵食品、アルコール入り調味料など——が注目を集めています。

飲酒人口の減少を見越して、多様な楽しみ方に活路を見出す動きが活発化しています。

製造業の強みと酒業界への応用

酒の製造・流通は伝統に支えられて発展してきましたが、設備やIT投資、人材育成面に課題を抱えるケースも目立ちます。

製造業には、生産効率向上、品質管理、物流最適化、調達購買管理などの先進ノウハウがあります。

これを酒業界に持ち込むことで、たとえば下記のような事例が実現できます。

– 酒粕や副産物の用途開発とOEM生産体制の確立
– 地場の食品メーカーとのコラボレーションによる新ジャンル食品の開発
– IoT活用による製法管理・品質保証体制の強化

こうした連携が「食べる酒」体験の創出を支えています。

現場改革:アナログ文化からの脱却をどう図るか

課題1:デジタル化の遅れ

多くの酒蔵では、いまだに伝票・手書き日報、勘と経験に頼った工程管理が主流です。

この「昭和」的な体質は、情報共有不足や品質のバラつきを招きやすいです。

現場改革に取り組むなら、まず生産管理や品質記録のデジタル化、センサーやAIによる醸造管理など、小型開発から始めて現場への定着を図るのが実践的です。

課題2:異業種連携の壁

経験上、酒蔵と食品メーカー・機械メーカーが横断的に連携すると、目的意識の食い違いがしばしば起きます。

協業を円滑に進めるためには、下記のステップが重要です。

– ジョイントワークショップの開催(互いの現場の課題を共有)
– 工場見学・現場交流会の実施(暗黙知の可視化)
– 共創プロジェクトチームの設置(意思決定の迅速化)

現場発の小さな課題解決から信頼関係を構築するのが、長期的な事業連携のカギです。

バイヤーとサプライヤー、両者に必要な視点の転換

バイヤーが持つべき「共創」マインド

単なる価格競争から脱却し、付加価値型のサプライチェーン構築を志向すべきです。

たとえば、「食べる日本酒スイーツ」に特化した原材料や副産物の調達は、既存商品にはない発想力と制度構築が求められます。

既存ベンダーに加え、異業種やスタートアップからも調達先を発掘するラテラルシンキングが極めて重要です。

サプライヤーが考えるべき+αの提案力

従来の「言われたものを納入する」スタンスでは、共創連携の先には行き着けません。

たとえば、以下のような能動的アプローチが評価されます。

– 自社副産物の有効活用法の提案
– サプライチェーン上の省力化・環境負荷低減アイデアの持ち込み
– 酒業界だけでなく健康・美容分野への応用提案

本質は「製品」そのものでなく、「体験」や「価値」の持続的な創出を意識できるかにあります。

実践事例:飲む文化から食べる文化へ現場がつくる新体験

事例1:日本酒×スイーツ—地方蔵元と洋菓子製造業の共創

ある地方日本酒蔵元では、酒粕の有効活用を模索していました。

その際、地元で有名な菓子メーカーとの話し合いの場を設定。

互いの現場担当者が率直に「何ができるか」を意見交換し、酒粕クリームを用いたロールケーキのレシピを一緒に開発。

試作の日々で生まれた絆が、最終的に「蔵元特製スイーツ」ブランドの立ち上げにつながりました。

このプロジェクトの成功要因は、現場同士のフラットな交流と「ちょっとした試作・失敗を許す」現場風土です。

事例2:醤油メーカーが挑む発酵食品へのリデザイン

伝統業種である醤油メーカーでは、「食べるアルコール」——発酵食品・ミソとウイスキーのコラボなど——へのチャレンジが進んでいます。

製品化までのポイントは、異業種であるアルコールメーカーと発酵データの共有を実施。

両工場のQA担当同士が、細やかな工程表や特性データを惜しみなく交換したことで、新しい味わいと安全性が担保された製品開発が実現しました。

この流れは、技術継承=現場の小さな知見交換から始まります。

事例3:IoTを活かした酒と食品のマッチングレコメンド

飲食チェーンでは、IoTを活用した「酒—料理の自動マッチング」システムを開発。

生産ライン側では、各ロットごとの酒・食品の味や香りデータがセンサーで記録・共有されます。

購買責任者とサプライヤー間で、データベースを通じて相性の高い組み合わせを発見し、期間限定で提案することで新規体験を創出しています。

従来の「売れ筋」頼みだったバイヤーが、現場のデータに基づいてダイナミックに意思決定する好例です。

業界動向をふまえた、今後の事業連携の展望

グローバル市場と食×酒体験のシナジー

国内市場が縮小するなか、海外では日本のSake・発酵食品ブームが起きています。

とくに東南アジア・北米では「Sakeスイーツ」「Sake入りソース」など、食べて楽しむ酒商品の需要が急伸。

日本の製造業が、現地パートナーと共同開発・ローカライズに取り組む動きが増えています。

海外市場をターゲットに事業連携を設計する際は、単なる「輸出」ではなく、「現地嗜好への適応」「フルサプライチェーンの共創」が重要です。

SDGs視点と副原料最適活用

持続可能性の視点からも、廃棄されてきた酒粕や醸造副産物のアップサイクル、CO2排出削減につながる製造改革が求められます。

バイヤー、サプライヤーともに「調達・生産・流通—各段階での省資源・省力化」を事業連携の軸に据えることが、今後の競争力に直結します。

まとめ:現場起点の連携が未来を切り拓く

飲む文化から食べる文化への転換は、単なる商品開発にとどまらず、業界全体の体質改善や異業種コラボの深化を促します。

現場発信による地道な取り組み——失敗を恐れずに対話を続けるマインドセット——が、共創型サプライチェーンを生みます。

自身の経験では、現場担当者1人の気づきが現場全体・経営層・異業種パートナーとの連携を呼び、新たな酒体験の創出につながってきました。

製造業に携わるみなさん、ぜひ枠を超えた連携・共創で「新しい酒体験」を世に出す主役を目指してください。

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