投稿日:2025年6月5日

製造・生産ライン用測定システムの共同開発と技術連携の進め方

はじめに:なぜ製造・生産ライン用測定システムの共同開発が今、注目されるのか

製造業の現場は、依然としてアナログ的な手法が根強く残る一方で、世界的なデジタル化の波が押し寄せています。

特に、IoTやAIによる生産ラインの自動化が進んだ今、正確な「測定」と「品質評価」こそが競争力の源泉となってきました。

単体機能の測定装置に頼る時代は終わり、異業種やITベンダーなどとの共同開発による“システム”としてのソリューションが求められています。

本記事は、実際の製造現場で長年管理職やバイヤー業務も担ってきた立場から、測定システムの共同開発・技術連携の現場的進め方、最新業界動向も交え、分かりやすく解説していきます。

測定システム共同開発の意義と狙い

測定は製造現場の真実を映し出す“鏡”

そもそも測定とは、製造現場で進捗や品質の「事実」を正確に把握し、改善サイクルを回すための基盤です。

しかし長年、目視検査や経験則に頼る場面も多く、データのデジタル化・一元管理が進みませんでした。

そこへ、IoTデバイスやクラウド、AIといった外部技術が加わることで、測定が「自動化」され「高度化」「クラウド共有化」していく流れにあるのです。

なぜ「共同開発」なのか? 一社単独の限界

従来、測定装置はメーカー各社がそれぞれ独自設計を行う“孤立型”が主流でした。

しかし、現場からは「装置間のデータがつながらない」「カスタマイズに莫大な費用がかかる」などの声が上がっていました。

他社ベンダーやITパートナーとの共同開発を通じて、シームレスなデータ連携・可視化・リアルタイム判定が現場にもたらされます。

これは、業界全体を底上げする「競争と共創」の好循環を生み出します。

製造現場発の“実践型”共同開発アプローチ

課題発掘:現場の暗黙知を「見える化」せよ

スタート地点は、現場の実際の困りごと・解決すべき真の課題の明確化です。

たとえば、成形後の寸法測定はなぜ毎回ずれが生じるのか。
現場スタッフの手作業が多すぎて属人的になっていないか。
工程間でデータ連携がなく、実際の合否判断が遅れていないか。

こうした現場目線の「暗黙知」を徹底ヒアリングし、システム要件として言語化することがスタートです。

要件定義:ユーザー目線の本質的ゴール設定を

外部パートナーとの会議では、エンジニアの技術目線だけでなく、
「どこまで自動計測したいのか」
「どんなリアルタイム通知が現場でありがたいのか」
「AIによる予兆検知はどのレベルまで求めるのか」
といった“使用者の目的・目的達成指標(KPI)”を設計の中心に据えるべきです。

既存装置メーカー視点だと、「できない理由」ばかり語りがちですが、目的ドリブンで「どうやれば実現できるか」に思考を転換することが共同開発では重視されます。

モックアップ&トライアル:現場テストを小さく始めて素早く学ぶ

大規模な仕様説明書や発注書を作り込む前に、シンプルなモック(模型)やPoC(概念実証)を現場にインストールしてみましょう。

ここで重要なのは「やってみて現場の反応を聞く」こと、そして失敗や課題抽出を恐れず小さくトライ&エラーを繰り返す姿勢です。

“現場が納得する、現場で本当に使われる”測定システムを生み出すには、現場のリアルな声を取り込んだ反復型開発(アジャイル型)が極めて有効です。

技術連携のカギ:組織間をつなぐ“翻訳者”の重要性

エンジニアリングと現場経験、両方を知るキーパーソンを育てる

製造業ではどうしても、ITやAIの専門家と、現場オペレーターの間で「言葉が通じない」「意図が伝わらない」状況が生まれやすいです。

こうした技術連携の壁を越えるには、「両方の言語が話せる人」、つまり“技術の翻訳者”や“橋渡し役”の存在が不可欠です。

この役割には、長年現場で苦労した経験+生産技術やITリテラシーの両面を鍛えたベテランが適任です。

実際、多くの現場革新プロジェクトでは、現場上がりの社員がITベンダーとの調整役を担い、驚くほど大きな推進力となっています。

バイヤー視点:取引先と「企む」パートナー型調達へ

従来の価格・納期中心の調達(バイヤー視点)から、「共に価値を生む伴走者」としてのパートナー型調達へ、バイヤースキルもアップデートが求められます。

「片方が仕様を投げ、片方が製品を納める」という垂直型ではなく、
「こうした課題がある、御社の新技術でどう解決できる?」
「現場で困っている課題は何か、一緒に現地で見ませんか?」
と、課題認識から協創提案までサプライヤーと同行で進める姿勢が重要です。

このとき、バイヤーは不可欠な“橋渡し役”でありながら「現場への恩恵」という目線を忘れないことが技術連携の成功要因になります。

昭和的アナログ現場も無視できない事情

紙台帳や手書き検査記録——現場現実と理想のギャップ

日本の中堅・中小製造業の多くは、根強く「紙での検査記録」「現場リーダーの経験則」に頼っています。

なぜなら、基幹システムへの投資余力も限られており、自動化・デジタル化推進のハードルが高いためです。
そして、ベテラン作業者の“勘とコツ”が品質の支えであり、完全な自動化が現場の信頼を得るには至っていません。

このため、最新技術だけを一方的に押し付けると現場抵抗が強くなる傾向があります。

段階的導入と、“共感”による現場巻き込み

理想は、既存のアナログプロセスと新技術を段階的に「併存」させながら現場の利便性・納得感を高めていくアプローチです。

例えば、紙記録の一部のみスキャンしてクラウド保存化したり、一日1回だけの自動測定から始めたりと、スモールステップで現場を巻き込みます。

その小さな成功体験こそが、現場マインドの変革と全社的DX(デジタル・トランスフォーメーション)へとつながっていきます。

最新事例:共同開発で変わる製造現場

IT企業×装置メーカー×現場工場の三者協働

近年は、IT企業・装置メーカー・製造現場が三位一体となり、「異業種共創型開発」が増えています。

例えば、自動車部品工場にて、装置メーカーが持つ計測センサー技術と、IT企業が持つクラウド機能、現場工場のノウハウを融合。

「作業者の手順ごとの計測→自動判定→遠隔モニタリング→品質トレーサビリティ」の一気通貫化を共同で実現しています。

その結果、従来2日かかっていた抜取検査結果の判定が、現場即時でシームレスに分かり、
品質トラブルの早期検知、管理工数削減、顧客監査対応などの効果が得られているのです。

中小企業のアジャイル型開発も成功事例多数

大手企業に限らず、中小・町工場でも、自社課題をITベンチャーと“二人三脚”で解決するアジャイル事例も急増しています。

重要なのは、最初から“完成品システム”を求めず、「現場で試して学ぶ→改良する」を繰り返すこと。
現場の実態に合わせてカスタマイズできる柔軟性・スピードこそ共同開発最大のアドバンテージといえます。

バイヤー・サプライヤーで起きている新しい潮流

バイヤー:調達から“事業価値創造”へ進化

現場系バイヤーの役割は、単なる価格交渉からビジネスパートナーとの情報連携・価値共創へとダイナミックに変化しています。

自社とサプライヤー、そしてエンドユーザーをつなぐ
「この仕組みを使ってさらにどんな新事業が生まれるか?」
「他社との差別化をいかに広げられるか?」
という“バリューチェーン視点”が不可欠となっています。

サプライヤー:バイヤーの思考を読み、一歩先の提案型営業を

サプライヤー企業も、「仕様どおり納める」のみならず、
「御社の現場で本当に困っているのは何ですか?」
「もし全体業務を自動化できれば、どんな経営効果が出るでしょう?」
といった課題抽出・先回りした提案型スタンスが他社に差をつけるポイントです。

これを実現するには、バイヤーの現場経験や今後の経営課題への理解を深め“共通言語”で会話ができることが大切です。

まとめ:製造現場の知恵と異業種の力をかけ合わせる時代

製造・生産ライン用測定システムは、“現場起点”で課題を明確にし、IT・装置メーカー・ユーザー現場が一体となって進める共同開発が主流へと移っています。

現場のリアルな困りごとや使いやすさ・納得感に寄り添いながら、業界横断・異業種共創で「これまでになかった新たな仕組み」を生み出すこと。
それが、自社はもちろん製造業全体の競争力強化、そして未来につながる人材育成にもつながります。

「昭和的アナログ」から「デジタル×共創」へのパラダイムシフト。
今こそ一歩踏み出し、現場の暗黙知=知恵を最大限活かして、異業種と手を組む新たな挑戦を始めてみませんか。

製造業に携わるすべての方へのエールを込めて、この記事を締めくくります。

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