投稿日:2025年8月22日

海上輸送の転覆・座礁時に必要な事故証明・写真・追跡データの収集法

はじめに

製造業においてグローバルサプライチェーンは必要不可欠となっています。
その中でも、海上輸送は大量輸送を実現するための重要な手段です。
しかしながら、海上という特殊な環境下では様々なリスクが潜んでおり、転覆や座礁といった重大な事故が発生する可能性もあります。
その際、迅速かつ確実な事故証明や証拠写真、追跡データの取得・保全が極めて重要となることは、現場経験者であれば誰もが痛感していることではないでしょうか。

この記事では、20年以上の製造現場と調達購買業務の経験から、実際の事故対応現場で培ったノウハウをもとに、海上輸送事故発生時にどのように情報を集め、証拠を残し、調査や補償交渉に強く臨めるかを具体的にご紹介します。
昭和的なアナログ文化が根強く残る現場感も重視し、すぐに実践できる内容となっております。
特に、現場最前線の購買担当やこれからグローバルなサプライチェーンに関わる若手バイヤー、そしてサプライヤー側で「バイヤーが一体何を気にしているのか」を理解したい方に向けた現場視点の記事です。

なぜ海上輸送事故対応が重要か

リスク分散と補償交渉の要

まずご理解いただきたいのは、海上輸送のリスクは想像以上に多岐にわたる、ということです。
波浪・悪天候・海難事故・密漁船との衝突だけでなく、人的ミスや書類の不備、通信障害まで重大事故のきっかけは無数にあります。
そして一度事故が起こると、輸出入貨物の納期遅延だけでなく、重大な場合には全損・部分損・貨物放棄等、多額の損害が発生します。

この時、事故証明・証拠・追跡記録を「適切な形で」準備できていなければ、運送保険や荷主責任、船会社・フォワーダーとの補償交渉、カバー範囲認定などで著しく不利な立場に追い込まれてしまいます。
これは大企業も中小企業も例外ではなく、とりわけアナログ管理の多い日本の製造現場では、事故発生時に「何をどう集めるべきか」が曖昧なまま慌てるケースが今も多々存在します。

現場対応で必ず押さえておくべき3つの情報

海上輸送事故が発生した場合、

  1. 正式な事故証明(証明書/損害証明・海難報告書等)
  2. 現場や貨物の被害状況写真(状態の記録)
  3. 貨物のトレース(追跡データ・輸送経路情報)

の3点が、必ず求められる基本情報となります。
これらを確実に押さえ、各関係先(船会社・フォワーダー・保険会社・通関業者など)と速やかに共有できる体制を作ることが、バイヤーおよびサプライヤーの事故対応の基本中の基本です。

事故証明の収集方法とポイント

事故証明とは何か

海上輸送における事故証明は「運送経路上で発生した事故がいつ・どこで・どのように発生したか」を公式に記録した書類です。
主に「General Average(海損証明)」「Marine Protest(海難報告書・船長の公式記録)」などがあります。
また、フォワーダー発行のDamage Reportや、第三者によるサーベイレポートも有効な証拠となります。

現場で素早く証明を取得するコツ

事故発生時、まず行うべきは「関係各所への早期連絡」です。
現場で対応していることが多いサプライヤー/バイヤー担当者は、船会社(キャリア)・フォワーダー・保険代理店・取扱通関業者などへ以下の情報を即時連携しましょう。

  • ブッキングNo./B/L No.(船荷証券番号)
  • 積載貨物の内容と数量
  • 事故発生日時・輸送経路(積出/仕向/経由港情報)
  • 現場からの速報写真(可能な限りリアルタイム)

特に、日本の製造現場では「事故発生直後に誰が動くか」で初動の質が大きく変わります。
昭和的な「上長へ稟議→指示待ち」プロセスが現場を混乱させることが多いため、事前に現場権限者や担当窓口を明確に決めておくことが重要です。

デジタル・アナログ併用で証拠確度を高める

証明書類はデジタル送付(PDF・メール添付)と原本郵送(国際郵便等)の併用が推奨されます。
日本の通関や一部保険対応では「原本提出指定」されることが今なお多いため、現物を確保する根回しも重要です。
また、現場担当者が「事故証明書ひな型」「報告書サンプル」を手元に持っていることで、未経験県・海外現地スタッフでもスムーズなやり取りが可能になります。

現場で押さえるべき写真の撮り方・証拠確保術

「撮れば良い」では足りない理由

事故後の写真記録は、「事故の何を証明したいのか」を念頭に置いて撮影することが欠かせません。
ぼんやりした全景写真や「とりあえず何枚か」では、後日争いになった際に証拠能力が弱まります。

必ず押さえたい写真のポイント

  • 貨物の全体像(貨物、パレット、コンテナ番号が映るように)
  • 被害部分の拡大写真(割れ、へこみ、浸水跡、潮のダメージ等)
  • ラベル・送り状・シリアルNo.(識別コードやタグ等が明確に写るもの)
  • 現場状況の記録(船上・ヤードの状態、作業員配置、天候など)
  • GPS付き写真やタイムスタンプ記録(スマホアプリの活用)

特に、現場では汚損や破損が拡大する前(コンテナ開封直後など)の「一次証拠」が強い効力を持ちます。
開封前・開封途中・貨物全体と被害部局所の3段階で写真を押さえるのが鉄則です。

昭和的アナログ現場こそ「ダブルトラック」を意識

デジカメやスマホでのデータ写真は便利ですが、「社内ネットワークへの保存」「共有フォルダ管理」が徹底されておらず、証拠喪失となるケースも度々見られます。
現場でプリントアウトした写真を保存したり、SDカードの物理保管とクラウドストレージの両立を徹底しましょう。
物理的な証拠保全とデジタルデータ、両輪で守ることで、後日のトラブルにも強くなります。

貨物追跡データの収集と活用法

貨物追跡は「どこまで深く」掘り下げるべきか

貨物追跡(トラッキング)情報は、近年フォワーダーや船会社のクラウドサービス、RFIDやIoT活用により詳細かつリアルタイムになっています。
一方で、日本の製造現場・中小サプライヤーでは、未だに「相手に電話確認」「紙の積荷票控え」で済ませている状況も根強いのが現実です。

バイヤーにとっては、貨物の積出港出発から輸送中の中継港、到着港荷揚げ、現地ヤードまでの移動履歴をタイムラインで記録しておくことが非常に重要です。
トラブル発生時に、

  • どの地点で「第三者の介在」「貨物損傷」が起きたか
  • どの時点まで貨物の状態が正常であったのか
  • を証明できれば、船会社・保険会社・通関等との交渉力が段違いに高くなります。

    最新ITツールの活用と現場アナログ記録の両立

    現場で本当に強いチームは「ITツール(マイシップ、トレースビュー等)」と「現地スタッフの定時写真・メモ」を両方集めています。
    輸送ルートの履歴をPDFで製本保存する、現場の担当ノートに時系列を手書きするなど、昭和的なやり方も実は後々「現場証拠」として生きてくるのです。
    重要なのは「どの時点で何が起きたか」が後で再構築できる材料をひたすら集めておくことです。

    事故発生時の「責任範囲」とプロの視点

    メーカー・バイヤーはどこまで責任を負うのか

    海上事故において「誰がどの範囲まで責任を持つか」は、インコタームズ(FOB、CIF、DDP等)の決めによります。
    しかし、実務現場では「モノが届かない以上、一義的な悪者探し」に終始する傾向が強く、証拠不備で自腹負担となることも珍しくありません。

    自らの守備範囲を明確に主張し「ここから先は保険会社と船会社の責任」というロジックの主張には、上記3点セット(事故証明・写真・追跡データ)が欠かせません。

    サプライヤー&現場担当に期待するアクション

    バイヤー側は「証明できる範囲」を日頃からサプライヤーと明確にしておくべきです。
    サプライヤーも、事故報告や証拠集めに消極的ではなく、納品義務遂行のための仲間だと意識して、バイヤーと積極的に情報共有しましょう。

    まとめ―昭和アナログ現場から、世界標準の事故対応力へ

    海上輸送の転覆・座礁といった事故は、決して他人事ではありません。
    現場で鍛えた事故証明・写真・追跡データの「地道な3点セット」が、巨大な損失や長期紛争を防ぐカギを握っています。

    「アナログ現場でも案外できること」「昭和的管理でもITツールと組み合わせることで“世界標準”の証拠保全ができる」――。
    その意識改革こそが、今後ますますグローバル化・急変化する製造サプライチェーンの現場対応力を底上げします。

    自社のため、顧客のため、そしてサプライチェーン全体の発展のためにも、日々の蓄積と準備を怠らず、「いざ」という時に頼れる現場を共に作り上げていきましょう。

    本記事が、現場で苦労する全てのバイヤーとサプライヤーの一助となることを願っています。

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