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技術ベンチマーキングの進め方と研究・開発・生産技術における活用事例

目次
はじめに:ものづくり現場にベンチマーキングの発想を
製造業において、持続的な競争力を生み出すためには、日々変化する市場ニーズと技術革新に迅速に対応する必要があります。
その中で注目されているのが、「技術ベンチマーキング」という手法です。
昭和のアナログ時代から続く旧態依然としたやり方にとどまるのではなく、先進的な企業・部門・外部業種の優れた事例やノウハウを研究し、自社の弱点や課題を客観的に見直しながら最良のやり方を取り入れる。
まさに“ラテラルシンキング”―― 横断的発想が現場革新のカギとなります。
ここでは、調達購買・研究開発・生産技術といった製造現場のリアルな視点から、技術ベンチマーキングの進め方と実践事例、さらには昭和的な文化とどう向き合い変えていくかにも触れて、現役やこれから製造業に関わる方へ分かりやすく解説します。
ベンチマーキングとは何か ―― 基礎から実践へ
技術ベンチマーキングとは、他社や他業界の優れた技術・手法と自社の現状を比較し、その差分や理由を分析した上で、自社の改善やイノベーションに活かしていくマネジメント手法です。
最初に覚えてほしいのは「他と比較する=劣っている証拠」ではないということです。
むしろ“柔軟に学ぶ視点”を持つことが、resultとgrowthの種になります。
なぜ製造業でベンチマーキングが重要なのか
製造業は「現場力」が何よりの資産と言われますが、現場力とは日々の業務改善や工夫の積み重ねです。
しかし視野が狭まると、自分たちのやり方が最善だと錯覚しやすくなります。
特に、日本の大手メーカーには“先例踏襲志向”や“昭和的な根性主義”が色濃く残る場合が多いです。
ベンチマーキングは、こうした“内向き文化”を打ち破る具体的な方法になります。
ベンチマーキングの種類
1. 社内ベンチマーキング:グループ内・拠点間の横串比較
2. 競合ベンチマーキング:同業他社との比較
3. 機能的ベンチマーキング:異業種の優れた仕組みの応用
4. 国際ベンチマーキング:グローバルスタンダードとの比較
いずれも「比較→差分把握→改善策抽出→横展開」という流れが基本です。
実際のベンチマーキングの進め方
製造業現場で実践的な流れを以下に整理しましょう。
1. ベンチマーキングテーマの設定
まずは自社の課題・テーマを明確にします。
たとえば、購買部で「調達コストの圧縮」、研究開発部で「設計リードタイムの短縮」、生産技術部で「設備の自動化率向上」など、現場のKPIや経営課題と結びつけた形が望ましいです。
2. 比較対象(ベストプラクティス)の選定
必要なのは、「何を」「誰と比べるか?」という視点です。
競合企業の事例調査はもちろん、仕入れ先サプライヤーや、最終製品は違ってもプロセスが似ている異業界の事例もヒントになります。
日本の工場であれば、海外グループ会社や現地サプライヤーの現場も対象になるでしょう。
3. 分析指標・ギャップ抽出
KPI比較(コスト、リードタイム、品質不良率)、業務フローの違い、設備能力、IT活用度などを可視化します。
ここでは「なぜうまくいっているか?」、逆に「真似できない要因は何か?」まで深掘りすることが大切です。
筆者自身も工場長時代、「数字」→「現場確認」→「現物確認」→「ヒューマン面」まで五感ですくい取ることを意識してきました。
4. 自社での具体的改善の設計
得られた知見をもとに、「どのやり方なら自社でも再現できるか?」を議論します。
ここが実は最も難しいパートです。
関係部門を巻き込みながらカスタマイズ案を練り、実行性(人員・予算・スキル)も加味してロードマップを策定します。
5. 試行・スモールスタートと効果検証
いきなり全社展開ではなく、まずは一部ラインやプロジェクトでテスト導入し、PDCAサイクルを回します。
導入効果についても定量値・定性値の両面から測定し、成功・失敗要因をクリアにすることが重要です。
ベンチマーキング現場活用事例 ―― 研究・開発・生産技術での応用
それでは、実際に筆者が携わったり、業界で注目された成功例を現場ごとに紹介します。
【開発現場】設計プロセス短縮のグローバル比較
海外含む複数拠点で図面設計業務に関してベンチマーキングを実施。
海外子会社では3D CADと部品モデリングデータベースを活用し、設計ミス・後戻り作業が大幅に削減されていた一方、日本拠点は紙図面+ベテラン頼みの“匠技術”が中心でリードタイムが長い状態でした。
結果、グローバル標準のデータベース化と承認ワークフロー自動化を一部導入し、1設計あたり30%の短縮を実現しました。
【調達購買現場】コスト削減手法の横展開
あるサプライヤーが「セル生産方式」で小ロット多品種対応しつつコスト低減策を推進。
他社は従来型ライン生産のため歩留まり・設備稼働率が低下。
購買部門主導でサプライヤー同士のノウハウ交流会を開催し、セル生産の工夫(工程の見える化、責任者明確化、報奨制度)が一気に導入拡大し、調達コストを5%低減できました。
【生産技術現場】スマートファクトリー技術の異業種模倣
自動車部品メーカーで次世代工場化を目指し、半導体工場・物流業界向けのIoT可視化システムをベンチマーク。
温湿度・振動センサーによる遠隔監視+AIによる設備予兆診断を取り入れ、設備保全工数を30%削減しました。
ここでも「他業界の常識」を取り入れるため、設備メーカーやITベンダーとの合同チームを立ち上げました。
昭和的アナログ文化との向き合い方 ―― 変革のポイント
ベンチマーキングに取り組む上で最大の壁は「ウチのやり方が一番」「新しいことは面倒」という職人気質や保守的な風土です。
長年現場にいた経験からも、“変化への抵抗”は根強いものがあると痛感します。
変革のためには?
– 数値や事例を「見える化」して納得感を得る
– パイロットラインや一部プロジェクトで成功体験を積む
– ベンチマーキングをKPI評価や表彰制度などと連動し、主体的参加を促す
– 「外部から学ぶことは悪ではなく、進化である」とトップ自らメッセージを発信
部門横断・現場巻き込み型の推進体制がキーとなります。
サプライヤー・バイヤー双方に価値ある発想を
ベンチマーキングは、バイヤー側のコスト削減や効率化だけでなく、サプライヤー発の新提案(バリューエンジニアリングや新工法の導入)にも波及します。
「うちの工場ではここが強み」「他社はこうして効率化している」など、サプライヤーがバイヤー視点で提案できることは強い差別化要素となります。
一方のバイヤーも、現場発の“カイゼン”を吸い上げて横展開することで、調達ネットワーク全体の競争力を底上げできます。
そのため、双方の“オープンイノベーション”的な姿勢が全体最適につながります。
まとめ ―― これからの製造業におけるベンチマーキングの価値
技術ベンチマーキングは、閉塞感のある日本製造業を再び活性化させる大きなカギです。
自社のやり方に固執せず、優れたものを学ぶ柔軟性。
課題を共有し、部門・企業・業界の垣根を越えて新たな解決策をつかみ取る“ラテラルシンキング”―― これらがこれからの現場には求められています。
バイヤー志望者も、サプライヤー視点からバイヤー心理を想像したい方も、まずはベンチマーキングで「比較」し、「気づき」を得る習慣を始めてください。
きっと、「この積み重ねが強い現場と強い企業を作る」 ―― そんな実感を持てるはずです。
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