投稿日:2025年8月26日

清算単価の指数連動で材料高騰局面の値上げ幅を抑制する価格式の作り方

はじめに:製造業の「値上げ圧力」とどう向き合うか

材料価格の高騰が止まりません。
銅、アルミ、樹脂、電子部品、鉄鋼…。
もはや何が値上げされても驚かない、そんな時代です。
工場現場からは「また原価が上がった」「顧客に値上げをお願いできないか」「値付けを見直してくれ」。
購買や調達担当者は、今や日常茶飯事のように、こうした現実と向き合っています。

ですが、安易に「原価が上がったので、単価も上げさせてください」と言っただけで、顧客を納得させられるほど現代の取引は甘くありません。
逆に、原価下落局面になると、顧客側から「値下げしろ」とプレッシャーを受けることも少なくありません。

そこで、製造業では「清算単価の指数連動式」を用いた価格式の導入が広まっています。
これは、主材料の価格変動と販売価格を連動させ、過度な値上げ・値下げリスクを双方で抑制する算出方法です。

本記事では、実際の工場管理・調達経験をもとに、
・指数連動式価格の基本
・現場でよくある悩み
・昭和流“値決め”がなぜ通用しなくなったか
・現場目線での「トラブルにならない価格式」の作り方
を解説していきます。

清算単価の指数連動とは何か

参考となる「指数」-何を基準とするか

指数連動とは、材料やエネルギーコストに代表される“原価構成要素”を、第三者機関や業界団体が発表する公式な「指数」と基準時点でつなぎ、一定期間ごとに取引単価を清算・調整する仕組みです。

たとえばアルミニウムであれば「日本経済新聞のアルミ地金価格」。
鉄鋼なら「流通鋼材価格」。
電子部品、樹脂、燃料などにも、それぞれ代表的な“指数”があります。

「指数連動式」には以下のメリットがあります。
・材料高騰時にはタイムリーに販売価格に反映できる
・値下がり時にも顧客側と公正に見直せる
・双方のコストリスク/利益を平準化できる
・数値根拠が公表されているため、取引先との交渉トラブルが減少する

原始的な「原価積算」方式との違い

昭和の製造業では「原価積算主義」が主流でした。
材料費+人件費+工賃+経費+利益=単価、という積み上げ方式です。

しかし、現代では材料サプライチェーンが世界化し、資源価格も想定外に乱高下するため、「年度単位で単価決定」や「10円単位の値決め」だけではリスクヘッジ不十分です。

指数連動には、こうした“価格変動対応力”が求められる背景があります。

指数連動式価格の基本的な構造

構成比で「変動部分」を明確に

例:アルミ製品の場合(実際の価格構成イメージ)

1.ベース単価(例:100円/kg)=材料費80円+加工費20円
2.材料費部分を「指数連動」させる(例:日本経済新聞アルミ指数)
3.加工費、物流費、人件費などは「固定」または定期見直し

計算式例:
単価n=(材料基準単価)×(指数n/指数基準値)×材料構成比+加工費固定部分

このように、材料割合を精緻に分析したうえで「指数連動の範囲」「固定価格部分」を明確に定義します。

過剰な値上げ幅を抑制する「制約条件」を設ける

ベンダー(サプライヤー)側にとって悩ましいのは、原材料が急騰しても顧客が「値上げはイヤ」「他社はもっと安い」など消極的な場合です。
逆に顧客側から見ると、材料価格の下落時に「迅速に値下げ反映してくれない」といった不満も起きやすい。

指数連動式では、たとえば
・「最大値上げ幅(キャップ)」設定
・「最小値下げ幅(フロア)」設定
・「清算頻度(月次、四半期)」設定
・発動条件となる閾値(基準値から±○%変動時のみ発動)
などの『価格制御装置』を用意します。

これにより、原材料価格が一時的に跳ね上がった(あるいは下落した)ときの“行き過ぎた価格反映”を抑制することができます。

現場でよくある指数連動式“トラブル”の典型例

“どの指数”を使うかでもめるケース

指数連動と一言でいっても、「どの公表価格を基準とするか」で取引先と合意できない場合が多々あります。
鉄であれば日経、鉄鋼新聞、日刊工業新聞など、似たような情報が並ぶ中で、
どの媒体の指数が“公正”か、その選定プロセスそのものも協議しておく必要があります。

価格式の複雑化で“よくわからなくなる”

複数材料を組み合わせる製品や、物流費・副資材等も指数連動させたい場合など、価格式が複雑化しすぎて、
「何を根拠に単価が決まるのか、購買部も現場も内容を理解できない」
となることも珍しくありません。

そのため、現場では
・材料比率をシンプルに示す
・素材(指数)の定義や計算例を巻末資料で添付する
・価格改定時には「単価変更の根拠資料」を必ず提示
といった運用面の工夫が必要です。

昭和流“勘と度胸”の価格決定からの脱却-なぜ必要か

かつて、取引価格は「担当者同士の人間関係」や「長年の付き合い」「周辺相場」といった極めてアナログな決定で動いていました。
ですが、
・グローバル調達(中国・東南アジア・南米他)で“相場”が通用しない
・為替や資源高など、取引現場コントロール外の変動要因が増加
・ISOや監査対応で「論理的な値決め根拠」が求められる
こういった時代背景を受け、曖昧な価格決定手法はリスク・トラブルの温床となっています。

現在は「属人的な値決め」から「指数連動など透明性の高い価格式」へのシフトそのものが、調達・販売共に企業競争力の土台となっています。

現場目線で作る「トラブルにならない指数連動価格式」

1)まずは「材料比率」、「対象指数」を明確に

現場では、製品ごとに占める材料費の構成割合を正確に洗い出すことがスタートです。
たとえば「製品Aは品目当たり材料費比率60%、加工費40%」のように、論理的な根拠を示します。

次に、どの指数を用いて、どう変動幅を計算するかを、「収集可能かつ公正なデータ」を用いて双方で確認。
(業界の商習慣や、主要仕入先の実態とのズレがないかも確認)

2)必要十分な変動幅・清算頻度を設ける

業務負担が増えすぎない、かつ原材料価格変動をとらえやすい「ちょうど良い」期間(例:四半期ごと、半期ごと)で清算を合意。
また、あまりに小さな変動でも頻繁な値上げ・値下げ交渉が発生しないよう、「±5%以上変動時のみ発動」といったルール化も重要です。

3)キャップ・フロアに注意

短期的な高騰・下落で経営に影響が出ないよう「最大値上げ幅」「最大値下げ幅」を設けて取引安定性を高めます。

4)価格式・根拠はドキュメント化して共有

誤解のないよう、価格式・根拠指数・材料比率・清算ルールを明文化した合意書(もしくはエクセル資料など)を必ず交わします。
また価格改定発生時は、その計算根拠資料も都度提示することで信頼関係を築けます。

実践例:清算単価指数連動の具体的な活用シーン

ケース1:電子部品のサプライヤー取引

急激な半導体メモリ・生基板価格の変動に対し、国際指標(台湾SEMI・日経電子材料価格など)の変動率に連動した価格式を導入。
コスト増時も顧客と“公式データ”を根拠に交渉でき、過大値上げ要求や一方的な値下げ圧力を抑えやすくなった事例があります。

ケース2:樹脂成形業の原油高対応

樹脂価格高騰局面で「石油化学製品価格指数連動」を採用。
原材料比率を40%と定め、毎四半期ごとに1kgあたり清算額を再計算し、変動分のみが単価に反映されることで、取引の長期安定化に成功しています。

指数連動式価格の課題と、今後への展望

指数連動価格は業界に多くのメリットをもたらしますが、注意点もあります。
・指数が実態を正確に反映していない場合(例:需給ひっ迫の局地的高騰時など)
・為替連動要素や複数材料混合製品では煩雑化
・指数発表のタイムラグで調整が遅延することも

しかしデジタル化が進み、IoT・ERP等で製品別原価管理や数値根拠の可視化も容易になっています。
今後は「よりタイムリーな価格修正」「AI・自動化による指数収集」「合意プロセスの標準化」など、さらなる進化が期待できます。

まとめ:清算単価の指数連動は“攻めの調達”・“守りの販売”双方の武器

清算単価の指数連動式は、単なる値上げ抑制手段ではありません。
「数字で語る」ことで社内外の納得と信頼を得て、データ主導の安定取引を実現する“現代製造業の武器”です。

・原価高騰時の取引リスクを減らしたい
・お客様・仕入先と公正な長期パートナー関係を築きたい
・バイヤーとして攻めの仕入れを実現したい
そういった方はぜひ一度、自社仕様の指数連動式価格の導入・見直しをご検討ください。

ラテラルシンキングにより、固定観念にとらわれない新しい価格決定の地平を、共に切り開いていきましょう。

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