投稿日:2025年8月13日

設計部門と連携してVA提案を通す稟議ストーリーの作り方

はじめに:製造業の現場で必要とされる「VA提案」

製造業の現場では、コスト競争力がますます厳しくなってきています。
その中で調達・購買部門やサプライヤーが持つ重要な武器のひとつが「VA(Value Analysis)提案」です。
VA提案は、単なるコストダウンではなく、価値と機能を見極めながら最適化を目指す手法ですが、現実には様々なハードルに阻まれて実現までたどり着けない例も少なくありません。

特に設計部門との連携や、稟議(社内承認)の通し方について悩みを持つ方は多いのではないでしょうか。
今回は、昭和から続くアナログな製造業界でも通用する、そして現代のデジタル化時代にも生き残る「VA提案を通す稟議ストーリーの組み立て方」について、現場視点で解説します。

なぜ設計部門との連携が不可欠なのか

設計部門は“砦”、なぜ突破が難しいのか

多くの現場で、VA提案の実現において最大の関門となるのが設計部門です。
なぜなら設計部門は、製品の仕様・品質・工程管理などの根幹を担っており、一度決めた仕様を変えることへの「抵抗感」が非常に強いのです。

この背景には、過去の品質トラブルや顧客クレームへの痛い経験、「設変(設計変更)=多大な手間とリスク」という文化が根付いているからです。
口では「コストダウン案を歓迎する」と言いつつも、実際には腰が引けている設計者も少なくありません。

VA提案の“目的”はあくまで「価値最大化」

VA提案と聞くと「コスト削減」=「安くする」が主目的と思われがちですが、本当の目的は「価値最大化」にあります。
安易な原価削減案は設計部門から嫌がられますが、「機能、性能、品質は維持または向上させた上で、ムダや過剰スペックを見つけていく」こと。
このスタンスこそが設計部門との信頼関係構築の第一歩となります。

VA提案を通すストーリー作りの“要諦”

明確な課題設定が最優先

VA提案を通すには、まずその動機・課題を明確に設定することが不可欠です。
よくあるのが、「単に安くなります」というコストデータだけを持って設計部門に提案をするケースですが、これでは「安かろう悪かろう」と誤解されることも少なくありません。

「現在の仕様で発生している具体的な課題」「お客様から寄せられている不満」「生産現場や品質管理部門からのフィードバック」など、現状課題を“見える化”します。
現場・市場の声を丹念に集め、設計サイドが納得できる「改善理由」を論理的に提示しましょう。

設計者のプライドと「寄り添い力」

設計者は“自分の設計したものに誇りを持つ”ものです。
「この部品、何とか安くなりませんか?」という上から目線でなく、「ここをこう工夫すると、更に製品力がアップしますよ!」というスタンスで寄り添うことが重要です。

そのためには、材料や加工方法、組付け手順など、サプライヤーや購買側が現場の知見を活かし、設計者に対して新たな選択肢を示すことが求められます。
自分だけの利益ではなく“製品全体”“会社全体”の成長につながることを繰り返し訴求しましょう。

現場データと根拠のあるシミュレーション

「この案で実際どの程度メリットが出るのか」設計部門が最も気にするポイントです。
ここで有効なのが、実測値や現場データ、QCストーリーなど、ファクトベース(事実根拠)で示すシミュレーションです。

単価削減額、組立工数の減少、生産リードタイム短縮、不良率の低減など、「数値」で比較した資料を用意しましょう。
また、過去に類似事例で成功した実績や、他社・他工場での効果も合わせて提示すると説得力が増します。

稟議突破のための「ストーリー設計」

ステークホルダーの洗い出しと味方作り

稟議とは、現場の実務担当者だけでなく上司、設計責任者、生産部門、品質保証、経理部門、必要に応じて経営層まで巻き込む大きな決定プロセスです。
そのため「誰が決裁権・影響力を持っているか」「誰がどのポイントを懸念しているか」を事前に把握し、まずは“戦略的に味方”を作りましょう。

テーブルの外側であらかじめ根回しをし、反対意見や疑問点を拾い上げておくことで、会議本番でのリスクを最小化できます。

「ストーリー」のフレームワークを活用

稟議書の構成や説明資料は、次のようなフレームワークを意識して作成すると効果的です。

1. 課題(現状の問題点の可視化)
2. 目的・狙い(機能・品質向上/コストダウン/安定調達など)
3. VA提案の内容(技術的な説明、設計変更点のイメージ)
4. メリット・デメリット(定量データ、リスク比較)
5. 品質管理・フォロー手順(試作、検証、切り替え後の管理方法)
6. 投資・損益計算と費用対効果(ROIなど数値で提示)
7. 今後のスケジュール・アクションプラン

ストーリー性を持たせて「この順番で説明すれば納得できる」という流れを意識してください。
特に「課題」と「メリット・リスク評価」は重要です。

昭和的“根回し術”とデジタル時代の情報共有

いまだ多くの日本の製造業現場では「根回し文化」が健在です。
口頭や個別ミーティング、場合によっては飲み会など“非公式”な場が意思決定に大きく影響します。
実務担当者~管理職~役員クラスまで、階層ごとに丁寧な説明と共感を獲得する下準備が欠かせません。

一方で、最近はデジタルツール(オンライン会議、チャット、電子稟議システムなど)で広く意見を集めやすくなっています。
途中段階の資料や調査プロセスも早めに“見える化”して情報共有を徹底しましょう。

実践テクニック:現場ならではの“押さえどころ”

パイロット導入(段階的導入)の活用

いきなり全面的な仕様変更を目指すのではなく、ごく一部のラインや特定ユーザー限定など「パイロット(試験運用)」を提案する方法です。
リスク低減策として効果的かつ、現場の不安感や反対意見を和らげやすい手法です。
パイロット結果のデータを用い、本格導入への布石にしましょう。

現場と設計部門の“混成チーム化”

VA提案は提案者一人だけで実現できるものではありません。
現場・調達・設計・品証・生産技術など、クロスファンクショナルな混成チームを“小さく”動かし、現場主導でアイデアの深掘りを行いましょう。

設計者自身を巻き込むことで「自分ごと」になり、反対する理由がなくなるケースも数多く見てきました。

“現場ルール”の理解:アナログ文化にも配慮

ペーパーベースの図面や手書き管理など、いまだに昭和由来のアナログ運用が残る現場は少なくありません。
「設計変更にかかる手間」「管理帳票の内容変更」「ライン教育の必要性」など、アナログゆえの負担やリスクも正面から拾い上げ、追加費用やサポート体制も一式で提案することが、通りやすい稟議のコツです。

また、ベテラン現場社員の“感覚的な懸念”も無下にせず、丁寧なヒアリングと現場巡回で信頼貯金を作っておきましょう。

サプライヤー・バイヤー両方の立場から見えるもの

サプライヤーの役割と心構え

サプライヤー(供給者)は、「良いものをより安く」という思いを持ちながらも、顧客側が何を重視しているか(品質/コスト/納期/管理難易度など)を深く洞察することが必要です。
また、単なる部品供給者から「共創パートナー」への進化が今後の製造業サプライヤーに求められるでしょう。

自らも現場に足を運び、設計部門や工程担当者と直接話し、「何が本当に困っているポイントなのか?」をヒアリングして持ち帰り、解決策をまた持参する姿勢が評価されます。

バイヤー(調達担当者)の信頼の積み上げ方

バイヤーはコスト・納期だけでなく、現場・設計部門から本当に頼られる「異なる視点での提案力・調整力」が命です。
目先の小さなコストダウンより、数年後の競争力につながる改善案を絶えず企画し、相手のポジションを尊重した歩み寄りを大切にしてください。

また、サプライヤーとオープンな協業関係を築き、競争よりも補完・共創の意識を持つことが優れたバイヤーへの近道です。

まとめ:ストーリーを描ける人材になるために

VA提案が現場で実現されるか否かは、その提案自体の価値よりも「ストーリーの描き方」「関係者の巻き込み方」に大きく左右されます。
現場データの蓄積、根拠のある効果シミュレーション、設計者のプライドへの配慮、根回しとデジタル情報共有のバランス、段階的導入の工夫。
これらが有機的につながった「納得のストーリーこそ、稟議通過の最大の武器」です。

昭和のアナログな現場文化を知り、令和のデジタル時代の利点も活用し、バイヤー・サプライヤーともに“共創型”の提案力を身につけてほしいと心から願います。

現場で働くあなたのチャレンジが、モノづくり日本をもう一度“世界競争力のある現場”へと導く原動力になるはずです。

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