投稿日:2025年9月2日

試験規格の同等性マップで不要な再試験を省く評価計画の作り方

はじめに:無駄な再試験、なぜ発生するのか

製造業現場の調達・開発部門でよく耳にする課題の一つが、「同じような試験を何度も繰り返さなければならない」という現象です。

例えば、既に海外で認証を取得した部品であっても、日本の工場に納める際には「国内の規格に合致しているか再試験が必要」と言われることがしばしばあります。

このような二重・三重の試験対応は、購買・設計者・サプライヤー双方への大きな負担となり、工数・コスト・リードタイムの増大につながります。

本記事では「試験規格の同等性マップ」を駆使し、こうした不要な再試験を極力省く実践的な評価計画策定のノウハウを現場目線で解説します。

試験規格の「同等性マップ」とは何か

規格要求と試験方法の違いがもたらす混乱

国や業界、製品ごとに定められた安全・品質の規格には、UL、IEC、JIS、ISO、ASTMなど様々なものがあります。

これら規格は、同じ「耐熱性」「耐衝撃性」といった安全性・信頼性を評価するとしても、試験方法や判定基準が微妙に異なるケースが多いです。

結果として、「あの規格とこれは結果が直接比較できるのか」という質問が、購買でも設計でもしばしば持ち上がります。

マップ化のメリット

「同等性マップ」とは、複数の規格間の試験内容・適用範囲・合否基準などを横並びで俯瞰する資料のことです。

このマップを作ることにより、
– 規格同士の相互補完、あるいは代替適用の妥当性がすぐに説明できる
– 設計変更や調達先変更の際に不要な再評価・再試験を省略しやすくなる
– サプライヤーへの技術的な要求を合理的・迅速に提示可能になる

など、現場運用における大きなアドバンテージを得ることができます。

不要な再試験を生まない評価計画立案ステップ

STEP1:製品適用規格の徹底的な洗い出し

最初の一歩は、対象製品・部品に対して「要求されるすべての規格」をもれなく棚卸しすることです。

顧客仕様、法規制、自社標準、ごくローカルなFMEA(故障モード影響解析)の要件まで拾い上げましょう。

時には「Aの市場向けはUL、Bの市場向けはIEC」「装置全体としてはJISだけど、構成部品単体ではISO規格が要る」といった多層的なケースもあります。

現場ではここが甘いと、後工程で「想定外の追加試験」が発覚してしまい、手戻りの原因となります。

STEP2:既存の試験データ・認証の資産共有

既に同様用途・類似製品で合格した試験データ、第三者認証品データを一覧化し、設計、購買、品質、営業それぞれと情報連携しておきます。

特に「サプライヤーから入手できる認証証明書」のリストアップが肝要です。

昭和時代からの「現場感覚」で、「念のためもう一回試験しよう」が横行しがちですが、実際には信頼できる認証データがあれば十分な場合が多いのです。

この“既有情報を徹底的に活用する姿勢”はデジタル時代の現場改善の肝です。

STEP3:規格同士の詳細比較、「ギャップ」の見える化

次のステップが、「持っている認証データ(A規格)」と「最終的に欲しい適合性(B規格)」の内容を詳細レベルで照合する工程です。

部材の種類・寸法・使用温度範囲・耐久性・安全性要件…すべてを表に起こし、
– 【完全一致】=データ転用OK(追加試験不要)
– 【一部ギャップあり】=差分だけ補完評価が要る
– 【大幅に異なる】=別途試験が必須

という「ギャップマップ」(=同等性マップ)を作成します。

重要なのは、各項目ごと「なぜ差分が発生しているのか」まで分析し、必要最小限の評価計画案をつくることです。

STEP4:バイヤーが押さえたい「説明責任」と「リスク最小化」

購買(バイヤー)の立場で重要なのは、同等性マップに基づき判断した「追加試験不要」「この証明で十分」という方針を、設計・品質管理・経営層に説明しやすいことです。

「この根拠に基づき再試験省略とした」と第三者にも納得してもらえるロジックが必要です。

また、万が一の品質・安全不良時に「なぜあの規格に準拠しなかったか?」と問い質された際に、合理的な説明材料となります。

アナログ業界に強く根付く「再試験文化」の背景を理解する

なぜ「前例踏襲」になるのか

日本の製造業では「今までこうしてきたから」という業務慣習が今なお根強いです。

過去の不良経験、現場の失敗事例、万一の品質事故に備えた“用心深さ”が、現代にも大きく影響を残しています。

一方で「再試験を省略する=手抜き」と捉えられかねない風土もあるため、「技術的根拠に基づく合理化」を現場で訴求していくことが不可欠です。

昭和的「現物確認文化」とのバランス

“目で見て、手でさわって、現物で確認する”。

このカルチャーは日本の品質文化の源流でもあり、一方的に否定すべきではありません。

しかし情報化社会となった今、過度な形式主義/再評価は、「コスト増大→価格競争力低下→サプライチェーン逼迫」という負のスパイラルにつながります。

「試験を減らす=リスクではなく合理」(=”現場主義の成熟形”)という意識改革がカギです。

業界の最新動向:グローバル認証・デジタル運用の潮流

ISO/IECの相互承認とCB Schemeの活用

世界では各国認証機関が「CB Scheme」(国際認証相互承認制度)の枠組みで、規格適合評価の相互認証を拡げています。

ヨーロッパやアジア主要国では「どこの国で性能評価したデータも採用できる」となりつつあり、日本市場も例外でなくなっています。

サプライヤーが保有する英語版認証レポートの活用や、グローバルバイヤーと交渉する際の“世界基準のロジック構築”がますます重要になります。

デジタルデータシート化と専門データベース運用

最近では、「材料や部品の極めて詳細な物性データ」「過去の試験証明書」「規格比較表」などをクラウド・データベース化し、全社横断で運用する動きが広がっています。

設計担当・バイヤー・品質管理がリアルタイムで情報共有できるため、評価計画立案のスピード・精度が劇的に向上します。

また、AIを使った「規格ギャップ自動マッチング」のシステムなども登場し、アナログな手作業・属人的な業務から脱却しやすくなっています。

サプライヤーとしてバイヤーの考えを読むヒント

少し視点を変え、サプライヤー側から見た場合のアプローチも重要です。

バイヤーは、自社の技術規格・品証規定・顧客要求・法規制という四重の網の中で「責任ある判断」を迫られています。

ですから、「この証明データはどこまで有効ですか?」「なぜ追加試験が要らないと言えるのか?」について、論理的な根拠を添えて提案することで、より信頼されるパートナーとなれます。

そのためにも、
– グローバルな第三者認証の取得
– 主要マーケットの規格要求比較表の提出
– ギャップがある個所だけ補完評価できる柔軟性

こうした対応力が、競合サプライヤーと差別化できるハイレベルな営業力へと繋がります。

まとめ:現場改革のための「同等性マップ」実践のすすめ

「無駄な再試験を減らしたい」「不要な評価コストや工数を削減したい」というのは、すべてのバイヤー、設計者、サプライヤーの共通課題です。

それを実現するための“武器”が、規格同等性マップを軸とした評価計画プロセスです。

従来の「前例踏襲」や「不安・リスク回避」に留まることなく、情報を横断的に活用し、技術に根ざした合理的な意思決定を推し進めていく。

この現場発の変革こそが、日本のものづくり現場の競争力強化と、持続的な製造業の進化に直結すると確信しています。

製造現場や購買部門で新たな評価計画を立案する際には、ぜひ同等性マップの作成と活用から始めてみてください。

あなたの挑戦が、業界全体の効率化と価値創造の第一歩につながります。

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