投稿日:2025年10月26日

D2Cブランドを世界展開するための越境EC・関税・決済システムの設計法

はじめに:製造業の現場が語るD2Cブランド世界展開のリアル

D2C(Direct to Consumer)ブランドが日本国内で確固たる立ち位置を築く一方で、グローバル市場への進出、すなわち越境ECを活用した「世界展開」を志すケースが急増しています。

商品に誇りを持つ製造現場の視点、また長年バイヤーやサプライヤー間での駆け引きを見てきた私の経験からも、今や高品質なメイド・イン・ジャパン商品が直接海外顧客へ届けられる時代です。

そこで今回は、「越境EC」「関税」「決済システム」を軸に、アナログが根強い日本の製造業でも実践できる世界標準のD2Cブランド設計法について、実践者目線で解説します。

D2Cブランドを世界展開する時代背景

なぜ今D2Cの越境展開が注目されるのか?

インターネット通販黎明期と違い、2020年代に入るとグローバル消費者は「誰が・どのように作ったか」「本物を直接買いたい」という意識を強めています。

一昔前のような商社・中間卸を介した大量流通ではなく、つくり手から買い手へ想いも製品の一部として直送できるD2C。アジア各国を始め欧米でも“日本ならではの品質”や“信頼”に注目が集まっています。

したがって、工場直送の強みを生かすことで、より高い付加価値と価格帯でブランドを構築できるのが、世界D2C時代の最大の魅力です。

日本の製造業が直面するアナログの壁

とはいえ、昭和的な仕切り管理やFAX・電話・紙文化が依然根強い現場も数多くあります。

在庫情報や生産計画がリアルタイムで把握できない。
見積や受発注の仕組みが属人的で標準化されていない。
多言語・多通貨・輸出入の法規制が障壁となりがち。

これらの“アナログあるある”が世界展開を阻む大きな要素となりますが、着実な変革を積み重ねれば確実に乗り越えることができます。

越境EC設計のポイント:ローカルとグローバルの融合

プラットフォーム選定に見る目利き力

越境EC展開の第一歩は、どの国の顧客に“どのように”商品を届けるか、その経路を設計することです。

ShopifyやWooCommerceをはじめとした多言語対応可能なグローバルECプラットフォームは、ローカル化(各国ごとの言語・税制・配送方法)も充実しています。

一方で、現地の大手モール(例えば中国ならTmall Global、米国ならAmazon.com等)を併用することで、現地の消費者行動に合わせた展開も可能です。

【現場ポイント】
独自ECとモールを“競合”と捉えず、「直接集客」「認知獲得」「試作品テスト」などターゲット国ごとの役割分担を設計しましょう。

現地化:翻訳だけでなく“文化リサーチ”を欠かさない

単なるGoogle翻訳による多言語化では、D2Cブランドの魂は伝わりません。

品質保証の表現(例:「日本の職人が1つずつ手仕上げ」等)の説明、クレーム対応の文化的違い、商品に託す想いに共感を生むストーリー設計——現場からの情報抽出が最大の武器です。

【現場ポイント】
工場現場のエピソードや、商品開発の苦労は、海外顧客の「信頼」獲得に直結します。

関税・インコタームズの正しい理解と運用

脱・見切り発車!関税設計の実務プロセス

越境ECで最大のトラブルは「関税予測の甘さ」です。

国や価格帯によっては消費者が受け取り時に高額な関税請求を受け、クレームや返品、ブランド毀損につながります。

事前に輸出国・輸入国のHSコード(関税分類)、課税範囲、エンドユーザー負担と事業者負担の線引き(関税前払い/後払い)を徹底精査しましょう。

【現場ポイント】
・小口発送(BtoC)と大口卸(BtoB)、それぞれの最適な条件設定
・税関トラブル発生時の初動対応フロー構築
・国際配送業者(DHL, FedEx, 日本郵便など)と物流現場との密な連携

これらを標準フローとして現場に浸透させることが、ブランドの長期的信頼につながります。

インコタームズ(貿易条件)はD2Cにも必須

インコタームズ(国際商業会議所が定める貿易取引の標準的な取引条件)は伝統的なBtoB輸出だけでなく、今やBtoCのD2Cでも重要です。

たとえば「DDP(Delivered Duty Paid)」は関税・税金込みでの価格提示方式、「DAP(Delivered at Place)」は関税等は現地受け取り時に消費者負担となる方式です。

現場での価格設定やPR表現、受発注管理システムへの組込みは、関税設計とあわせて初期段階から実装しましょう。

【現場ポイント】
・実際の現場オペレーション(ピッキング、梱包、送り状作成)に無理なく管理できるか
・システム的なアップデート、手作業頼みの運用になっていないか

長年の“場当たり的輸出手続き”に頼っていた時代を脱し、標準業務化こそが世界展開の第一歩です。

決済システム設計:現地顧客の“信頼”を勝ち取る武器

クレジットカード一択は時代遅れ

越境ECの決済トラブルも、関税と並ぶ最大リスクです。

国・地域毎に現地で一般的な決済手段(Alipay、WeChat Pay、PayPal、銀行振込など)は大きく異なり、「日本流=世界標準」ではありません。

懐疑的な新規顧客に安心感を与えるには、現地で名の知れたブランド決済導入や、後払い/代引きなどのオプションも現地化施策に組み込む必要があります。

セキュリティ・チャージバック対策も不可欠

特に高額商品の場合、なりすまし注文や不正利用・チャージバック(カード会社による支払い取消)のリスクが増大します。

Shopify PaymentsやStripeなど、世界標準のセキュアな決済ゲートウェイを活用し、かつAIを使った不正検知や多段階認証といった複層防御を組み込みましょう。

【現場ポイント】
・見慣れぬ大量買い付け注文のチェックは“現場のカン”とITツールの併用が重要
・現地消費者への“正当な理由説明”やサポート対応フローの整備も必須

製造業現場が実践すべきD2Cブランド世界展開の新常識

ノウハウを現場に落とし込み、PDCAを高速化

越境ECや新たな決済、関税設計は、現場に負担をかける側面も多々あります。

しかし、昨今のデジタルツールは「ノウハウの言語化」「現場担当者ごとのタスク分解」「分かりやすいマニュアル化」により、属人的なオペレーションから“全体最適”へ改革するためのきっかけになります。

現場DXは小さく始めて大きく育てる

昭和から続く紙文化や現場重視の空気を一気に変えるのは困難です。
一般的にはスモールスタートで始め、「やってみたら意外にラクだった」「お客様からうれしい声が届いた」といった成功体験を重ねることで、徐々に現場全体へ広がり始めます。

PDCA(Plan-Do-Check-Action)を高速で回す体制──例えば、越境EC初期は限定商品・数量限定から始め、顧客からのフィードバックを元に在庫管理システムを改善する、といった方法が効果的です。

現場・バイヤー・サプライヤーの視点を融合せよ

私の経験から強調したいのは「製造現場」「バイヤー」「サプライヤー」各立場の“気持ち”を理解し合い、部門横断で知恵を出し合うことです。

製造現場は“品質へのこだわり”を、バイヤーは“市場やユーザーのニーズ”を、サプライヤーは“原材料や供給リスク”を熟知しています。
これらが共鳴し合えば、どんなにグローバルな荒波が来ても、国内バラバラなままの戦い方より遥かに大きなシナジーが生まれます。

まとめ:世界で勝てるD2Cブランドへ

これからの製造業D2Cブランド世界展開は、「越境EC」「関税・インコタームズ」「決済設計」という3本柱を押さえた上で、現場の知恵と現地化への柔軟な対応がカギとなります。

地味な改善をコツコツ積み重ね、時にはアナログな職人技と先進のデジタル技術を無理なく融合させる──これぞ日本の“現場力”が世界で輝く最大のポイントです。

本記事が、現場で実践しやすい方法論として、また、海外展開を目指すすべてのバイヤー・サプライヤーの皆様にとって、新しいチャレンジのヒントとなれば幸いです。

You cannot copy content of this page