投稿日:2025年11月14日

スクリーン版の露光テストチャートを使った最適露光時間の算出法

スクリーン版の露光テストチャートを使った最適露光時間の算出法

はじめに ― 露光作業の精度こそが品質を左右する

製造業の現場において、スクリーン版(シルクスクリーン印刷版)は、精密なパターン形成や電子部品の基板製作など、さまざまな工程で不可欠なツールです。
その中でも「露光工程」は品質や歩留まりに大きく影響を与える重要なプロセスとなります。

実際には、最適な露光時間を正しく把握できていない現場も少なくありません。
昭和から続くアナログ工程の色がまだ色濃く残る職場では、「勘と経験」がいまだ絶対的な指標になっていることもあります。

本記事では、スクリーン版の露光時間を科学的かつ効率的に算出するための「露光テストチャート」を活用した実践ノウハウを現場目線で詳しく解説します。
削減できる不良やロス時間、ひいては生産性の向上に繋げるヒントをお伝えします。

露光テストチャートとは ― 概要と現場での意義

露光テストチャートの目的と恩恵

露光テストチャートは、スクリーン版の感光乳剤に対し、実際の露光を段階的に変えたパターンを作り、それぞれの露光状態を一目で「見える化」するためのツールです。
各段階ごとに適正にパターンが現像されているかを比較することで、「最適」となる露光条件を事前に割り出すことができます。

露光テストチャートを利用する主なメリットは以下の通りです。

– 感光乳剤やスクリーンメッシュ、版材の個体差に起因するバラツキを吸収できる
– 感光ランプの劣化や環境変動(湿度、室温)による影響を即時に反映できる
– 経験や勘だけに頼らない「再現性」の高い品質管理が可能
– 顧客への技術説明やトレーサビリティの根拠になる

なぜアナログ現場でこそ露光テストチャートが必要か

古くからの製造業界では、作業者の「肌感覚」と「ノウハウ」が強くものを言う場面が多く見られます。
しかし現在では、グローバル化に伴う品質基準の均一化や、複雑化する多品種少量生産ニーズへの対応が求められています。

その中で「標準化」と「見える化」がキーワードとなりつつあります。
露光テストチャートは、現場に不可欠な標準手順として導入でき、属人化しやすい露光条件設定のオペレーションを明確にする効果が期待できます。

露光テストチャート活用の現場実践ステップ

1. テストチャートの選定と事前準備

まず、市販または自社製作の露光テストチャートを用意します。
主に以下の情報をもとに選定します。

– よく使う版サイズに合わせて適した大きさか
– パターン幅や線幅の種類(ミクロン単位やマスパターンなど)
– 段階露光時間(例:5秒・10秒・15秒…など)

準備作業としては、チャートをスクリーン版に密着させる枠やガラス、マスキングテープなども揃えておきます。
使う版種や乳剤、使用予定の露光機(ランプ種類や光量)も念頭に置いておきましょう。

2. テストチャートによる段階露光の実施

スクリーン版に感光乳剤を塗布し、乾燥させた後、露光テストチャートを密着させます。
例えば、部分的にガイドマスクを当てたり、スリットを使って光の当たり方を変化させます。

具体的な段階露光工程は以下の例を参考にしてください。

– 最初に全体へ最短露光(例:5秒)を当てる(カバーなし)
– 露光領域の一部分へさらに追加(例:+5秒)照射
– 続けて別エリアへさらに+5秒、という形で段階的に露光
– 最終的に、異なる露光時間ごとのエリアを一枚のスクリーン版上に作成

この過程では、「どの部分がどの露光時間であるか」をきちんと記録しておくことが重要です。

3. 現像処理と観察ポイント

露光が終了したら、決めた条件で現像を行います。
現像液の濃度や温度は、通常業務の条件を必ず再現しましょう
(ここで違う条件にしてしまうと、実際と異なる結果が出ます)。

現像後は以下のポイントを念入りに観察します。

– 線幅の再現性:細かいパターンがピンホールやかすれなく露出しているか
– パターンのエッジ:にじみやムラ、ドッグイヤー現象がないか
– 未露光部:除去が完全か、感光乳剤の残渣がないか
– 全エリアの比較:最もシャープでノイズの少ない露光時間帯を選定

現像結果の観察こそが、最適露光条件決定の核心です。
専用ルーペや顕微鏡を使うことで、より正確な判断ができます。

4. 最適露光時間の確定とフィードバック

目視や計測を通じて、それぞれの段階露光エリアの仕上がりを詳細に比較します。
要求される最小パターン幅や、求められる印刷精度を満たしている時間を選出し、それを「標準露光条件」として記録してください。

見落としがちなのは、「最も綺麗に見える時間」よりも「許容内で安定する露光時間」を選ぶ点です。
例えば、5秒ごとのテストで10秒エリアがギリギリパターン再現している場合、実際の生産では12〜13秒とやや余裕を持って設定するのが現場のノウハウです。
(乳剤の厚みバラツキなど突発要因に備えます)

フィードバックには、チャートと実際の版を保存し、ロット管理やトレーサビリティ情報として活用すると、次回以降の作業効率向上につながります。

問題発生時のラテラルな視点と現場活用例

「どうしても最適な再現ができない」場合の考え方

どんなに丁寧にテストを行っても、「このパターンだけうまく出ない」「工程ごとに仕上がりが違う」といったことは多々あります。

ここで大事なのは「露光時間以外の要素」にも目を向ける柔軟な発想です。

– 感光乳剤の厚みが不均一、経年劣化
– スクリーンメッシュの目開き不良、異物混入
– 露光機の光量ムラ、ランプの寿命
– 現像条件(薬剤濃度、液温、すすぎ時間など)
– 作業環境(温度・湿度・ダストの影響)

こうした点について、「どうせ露光の問題だろう」と思い込まず、一つずつ検証していくことが重要です。
同じ工程で複数の作業者によるバラツキが出る場合、作業手順そのもの(塗布の仕方や乾燥時間)に課題が隠れていることもしばしばあります。

調達・バイヤー目線での検証事例(サプライヤーの信頼獲得実践)

実際の現場では、調達・購買担当がサプライヤーの現場監査や技術確認で露光テストチャートを使って評価することもあります。

「どの工程でどのくらい安定しているのか」
「どの条件で品質に差が出るのか」
「どのロットにどんなバラツキが出たのか」

こうした視点での記録と提示は、サプライヤー側にとっても信頼性や品質保証力をアピールできる大きなポイントになります。
バイヤー側からのリクエストに柔軟かつ客観的なデータで応じることで、ビジネス関係もスムーズに築くことができるでしょう。

昭和的なアナログ現場から脱却するヒント ― 定量化と標準化のすすめ

テストチャート×デジタル管理の新時代へ

いまだに職人技や口伝が主流の現場でも、露光テストチャートによる「見える化」「数値化」を活用することで、徐々に脱・属人化が進みます。

さらに、

– 露光テストの実施履歴をデジタル保存し、傾向を解析
– 品質トレーサビリティシートや顧客提出資料として活用
– 自社のナレッジ(暗黙知)を形式知化してマニュアル構築

といった動きが、これからの時代の「競争力」になってきます。

サプライヤーの技術開示レベル向上や、調達現場での評価手順明確化、またはバイヤーの設計者との技術対話の共通言語としても、テストチャート情報は非常に有効です。

おわりに ― スクリーン版の露光管理が未来をつくる

スクリーン版の露光テストチャート活用は、「アナログ」の延長線上に留まるものではありません。
現場が抱える課題の可視化、作業手順の標準化、技術ナレッジの蓄積・伝承へと繋がります。

特に現代は多品種少量・短納期・高品質が一層求められる時代です。
細部の積み重ねと、地味ながら確実な標準化こそが現場を強くします。

本記事を参考に、ぜひ現場にあった最適な露光条件の「科学的な導き出し方」を実践し、“令和流”のものづくりに一歩踏み出していただきたいと考えます。

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