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技術の強みを活かした新規事業開発の具体的な進め方とそのポイント

目次
はじめに:製造業における新規事業開発の本当の難しさ
新規事業開発と聞くと、革新的な技術や新製品を生み出す華やかなイメージを持つ方も多いかもしれません。
しかし、昭和から続く製造業の現場では、現実は必ずしも夢のような話ではありません。
既存事業が堅実に採算を生み、長年の取引関係が安定と信頼の礎になっています。
その土壌で新たな種を芽吹かせるのは極めてハードルが高いことです。
つまり、製造業の新規事業開発は「今ある技術の強み」を見つめなおし、現場の知見と社内外のネットワークを最大限活かしながら、着実に進める地道な取り組みです。
本記事では、調達購買や生産管理、品質管理、工場の自動化など、現場経験から得た具体的な視点とともに、技術の強みを軸とした新規事業開発の進め方とそのポイントを解説します。
1. 技術の棚卸しがスタート地点
1-1. 「うちの会社の技術」を正しく把握する
新規事業開発の第一歩は、自社の技術資産を客観的に見つめる作業です。
ここで重要なのは、「当たり前と思っている強み」ほど社外から見ると価値があるということです。
たとえば、長年培った加工ノウハウ、設備保全の工夫、短納期対応の工場体制、品質保証体制―これらは現場にとっては目新しくなくても、市場によってはユニークな技術・サービスとなり得ます。
そのためには現場のベテランから若手、調達担当、設計、品質保証まで広く声を集めましょう。
「最近、どこのサプライヤーも苦労している加工工程」や「社内標準になっている改善案」などまで丁寧に洗い出すことで、今まで気づかなかった強みが発掘されることがあります。
1-2. 技術の見える化と外部との比較
技術の棚卸しができたら、それを「見える化」していきます。
技術一覧表を作成し、各技術の概要、独自性、市場での比較優位性、対応可能な材料やサイズ、ロット数、過去の納入実績などを記載していきます。
この作業は、他社との違いを整理すると同時に、社外の目線で自社技術を見直すチャンスです。
競合メーカーのWebサイトや、調達・バイヤー目線での要求事項とも突き合わせることで、より具体的な強みや課題が浮き彫りになります。
2. 現場起点のアイデア発想法
2-1. 顧客現場で「困っていること」をヒントにする
新規事業が成功するかどうかの最大のポイントは「そのアイデアが、本当に誰かの役に立つ価値を生み出すか」です。
その視点でまずすべきは「お客様の現場の悩み・困りごと」に寄り添うことです。
たとえば、購買・調達部門の担当者が必ずしもスペックだけでサプライヤーを選んでいない現実もあります。
工場の自動化が進んでも、納期管理や予備在庫の持ち方、人材育成などの“現実的な悩み”は尽きません。
これらの悩みに対し、自社技術のどの部分で貢献できるのかを考えれば、自ずと「現場起点」の課題解決型アイデアが生まれやすくなります。
2-2. 社内業務改善から社外価値へ
社内で成果を上げた改善施策も新規事業のヒントです。
たとえば、生産リードタイムを半減させた業務改善を、同業他社や中小企業向けのパッケージソリューションとして外販できる可能性があります。
これも一種の“技術の転用”です。
社内の成功事例を「なぜ効果があったのか?」までブレイクダウンし、第三者にも伝わるようパッケージ化しましょう。
3. ターゲット市場の絞り込みと検証
3-1. 市場調査とニーズの深堀
つぎに、市場(業界)の絞り込みです。
自社技術やアイデアがどの業界や顧客層で最も価値を発揮するかを考えます。
この時、調達購買、工場運営、品質保証など異なる立場の知見が役立ちます。
例えば、医療、食品、自動車、半導体など、各業界特有の規制や商習慣、品質水準があります。
市場調査データだけでなく、既存顧客へのヒアリング、展示会への出展、バイヤーやサプライヤー同士の勉強会などの“生の声”も積極的に活用します。
現場の本音や、バイヤー心理まで考察することで、本当に求められているニーズとその背景を読み解きましょう。
3-2. 仮説検証と小さく始める勇気
アイデアがまとまったら、まずはスモールスタートを意識します。
リスクを抑えたスケールで検証し、顧客の反応や使い勝手、購入判断のプロセスなどをフィードバックしてもらいます。
たとえば、限定的な顧客に試験導入してもらい、協力会社やバイヤーからも率直な評価を集める。
現場で使えない、習慣やルールで導入が難しい、といった昭和的な“現場の壁”にも直面するかもしれません。
しかし、その現実からの気づきが次の改善案・事業モデルにつながります。
4. 得意技術をコアにしたビジネスモデル設計
4-1. 差別化ポイントの明確化
製造業の新規事業開発は、サービス業や消費財とは異なり、模倣や価格競争にさらされるリスクが高い業界です。
そのため「なぜ自社でなければならないのか」の一点突破が不可欠です。
この差別化ポイントは、単に技術スペックだけでは伝わりにくいため、「顧客の困りごとへの具体的効果」として訴求します。
たとえば、「自社の独自表面処理によって摩耗寿命が従来比2倍」「24時間無人化監視システムで現場人員を30%削減」など、“数字で伝える”ことも有効です。
4-2. 収益源の複線化と継続性
製造業ならではの新ビジネスモデルとして、「初回導入・量産供給 ビジネス」と「その後の保守サービス」「技術指導・コンサルティング」「サブスクリプション型アップデート提供」など、複数の収益源を設計することが重要です。
また、顧客サポートや納入後フォロー、追加のカスタマイズ要望なども利益源となり得ます。
既存取引の信頼関係から長期的なパートナーシップを構築することで、単発で終わらせない“継続型事業”へ育てていきます。
5. 新規事業推進で避けて通れない現場の壁
5-1. 「昭和型体質」との付き合い方
長年同じやり方・信念で運営されてきた製造現場では、新しいチャレンジへの抵抗感も根強く残っています。
「今のやり方で十分」「リスクを取りたくない」「うちは大手の下請けだし…」といったネガティブな声も現実には多いです。
無理に現場を変えようとするのではなく、小さな成功体験を積み上げて、巻き込み型のプロジェクトに育てること。
現場のベテランが「これなら現実的にできる」「自分たちもラクになる」と思える“現場目線”の工夫を施していきます。
5-2. 社内調整と経営層への働きかけ
新規事業開発は一部門の情熱だけでは続きません。
とくに、日本の製造業は社内プロセスや稟議文化が根強く、全社の合意形成が不可欠です。
成功事例や現場の声をデータや事実で示し、中期経営計画やSDGs/ESG方針など経営戦略としっかり連動させることがポイントです。
社内営業力、提案資料の作りこみ、ステークホルダーごとの関心ごとを拾い上げる“コミュニケーション力”も大いに求められます。
6. サプライヤー&バイヤー、双方の視点を持つ意義
新規事業を形にするには、競合他社だけでなく協力サプライヤーや購買バイヤーの思考も知っておく必要があります。
調達・購買側は、コストや納期、品質、契約条件といった管理指標が常に優先事項です。
一方、サプライヤー側は自社技術をどう“現実的に魅力的な提案”に仕立て上げるかが最大の課題です。
バイヤー心理・購買稟議の内情、不安要素(納期遅れや不具合リスク、経営の安定性など)に寄り添うことで、価格以外の価値提案も受け入れられやすくなります。
また、単なる部品納入だけでなく、技術的な相談役、現場改善パートナーとしての立場を取ることで、新規事業が深く根付く可能性が広がります。
7. まとめ:新規事業開発の本質は「人と技術の掛け算」
製造業の新規事業開発は、最新技術の話やアイデア勝負だけでは実現しません。
現場で積み上げた技術の強み、顧客現場やバイヤーの困りごとを真摯に解決する姿勢、社内のプロセスをひとつずつ巻き込んでいく地道さが最大のカギです。
社内外の対話、現場感覚、データに基づく意思決定。
それらが掛け合わさったとき、ようやく「昭和から令和」に続く新しい価値が生まれます。
ぜひ、自社ならではの強みを丁寧に棚卸し、現場発・顧客起点で新しい事業に挑戦してみてください。
それが、日本の製造業の未来を切りひらく第一歩となるはずです。
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