投稿日:2025年11月18日

大企業でよくある“社内ブロッカー”を突破する協業立ち上げ手順

はじめに:なぜ“社内ブロッカー”は現れるのか

大企業、とりわけ製造業界の現場を歩んできた人間なら、一度は「社内ブロッカー」に頭を抱えた経験があると思います。

協業プロジェクトや新しい取り組みを進める際、必ずと言っていいほど現れるのが“社内ブロッカー”です。

どこからともなく現れ、改革や提案に「NO」を突きつけてくるその姿に、現場担当者はしばしば途方に暮れます。

こうしたブロッカーの存在は、単なる抵抗勢力というより、日本の製造業、特に昭和から続く組織文化や業界構造に深く根ざしています。

この記事では、現場目線から、なぜ社内ブロッカーが生まれるのか、その本質を明らかにします。

そして、アナログな文化が根強く残る大企業だからこその壁を打ち破り、協業プロジェクトを立ち上げるための実践的な手順を、バイヤー・サプライヤー両サイドの視点も交えてお伝えします。

1. 社内ブロッカーとは?その典型パターンを押さえる

現場の“あるある”ブロッカー像

製造業の大企業における社内ブロッカーの代表例として、以下のようなパターンが挙げられます。

– 保守的な中間管理職:「失敗したらどうするんだ」と過去の成功体験に縛られ変化を拒む
– 部門間の縄張り意識:「ウチの利益にならない」「情報は出すな」と部門最適化を優先
– 規定・承認プロセス主義者:「ルールがないから動けない」「誰の許可だ?」と形式主義に走る
– 昭和的な権限主義:「若手の提案なんて聞けるか」という“年功序列”の雰囲気

これらはすべて「変化への不安」や「既得権・評価の保守」に根差したものです。

バイヤー部門に根付く“守りと攻め”のジレンマ

とりわけ資材・調達・バイヤー部門では、「コスト最優先」を建前に、リスクを避ける傾向が強いです。

サプライヤーの新しい提案や協業話に対し、最初から「前例がない」「今年の予算に入ってない」で門前払いするケースも。

しかし、裏を返せば「評価基準が変わらない限りリスクは取れない」という現場の本音が隠れています。

2. 昭和から抜け出せない大企業文化が招く停滞

大企業、特に製造業に根強く残る昭和的な文化。

これが社内ブロッカーを量産し、協業やオープンイノベーションの足かせとなっています。

年功序列と情報の縦割り

上意下達や年功序列の制度は、「新しいことをやるのは上の決断次第」と現場を萎縮させます。

また、部門ごとの“サイロ化”が進み、情報や意思決定が分断されがちです。

失敗を許容しないリスク回避志向

日本の大企業、とりわけ不況やリストラを経験した現場では「失敗=致命傷」と考えられ、前例のない挑戦を極端に嫌う風潮が根付いています。

こうした風土が、外部との協業や新規の仕組み導入を阻む温床となっているのです。

3. 社内ブロッカー“突破”のためのラテラルシンキング

では、アナログな大企業の壁を越え、プロジェクトを前進させるにはどう動けばいいのでしょうか。

単に正面突破を狙うだけでなく、ラテラルシンキング(水平思考)で周りから攻めていくことが、社内ブロッカー打破の近道です。

(1)「敵」を「味方」に変える下準備

最初にやるべきは、社内の“キーマン”をいかに巻き込むか、です。

ブロッカーがいる部門の部長や、横断部署の責任者に、事前に根回しをします。

この時、大切なのは「共通の利益」を具体的に示すこと。

業績貢献・コスト削減・リードタイム短縮など、相手の評価軸で伝え“あなたにとってもプラス”と感じてもらうようにしましょう。

(2)現場に小さな成功体験をつくる

いきなり大規模な協業提案ではなく、「まずは実証実験」や「一部工程のみ」のように、小さく始めて成果を見せるやり方が有効です。

これにより現場の不安や批判を和らげ、「実際にやれば上手くいく」という前向きな雰囲気をつくり出します。

(3)社外の力(協業先・ベンダー・サプライヤー)を“社内ロビー活動”に利用

サプライヤーやシステムベンダーとともに、現場での勉強会・展示・ディスカッションなどを“社内イベント”として行い、初心者や懐疑派を巻き込みます。

外部の実績やトレンドを持ち込み、「他社事例」や「業界標準」を盾に“やらない理由”を潰しておきましょう。

(4)公式ルートで「仕組み」として押し通す

協業の提案を単なる“個人の意見”でなく、公式プロジェクトやワーキンググループの形式で社内稟議・承認ルートに載せることも手です。

“仕組みとして決まったから粛々とやる”という流れを作れば、個人の反対は徐々に小さくなります。

4. バイヤー視点で社内ブロッカーを突破するポイント

バイヤー(資材・調達担当)が社内ブロッカーを動かすには、以下の点が重要です。

(1)現場ニーズ+経営戦略の両面から提案

単なるコストダウンや納期短縮の説明だけでなく、自社の中期経営計画やSDGs、ESG、DXといった会社全体の経営方針と結びつけて提案しましょう。

経営層と現場、両方の“困りごと”を解決する説明が効きます。

(2)サプライヤーを「Win-Win」で巻き込む

下請け・取引先だからと言って、一方的な無理難題を押し付けるのは逆効果です。

「一緒に新たな価値を創ろう」という姿勢で、サプライヤーのアイデアや積極性を引き出すことで、社内でも「あの会社とやるなら」と納得感を得やすくなります。

(3)“前例主義”を逆手に取る

ブロッカーが「前例がない」と言ってきたら、他社事例やグループ会社での成功例、業界紙や展示会の情報を調べて武装しましょう。

会社としての“お墨付き”や“型”があれば、抵抗感はぐっと減ります。

5. サプライヤーの立場でバイヤーを動かす戦略

逆に、供給側(サプライヤー)がバイヤー(買い手)の社内ブロッカー事情を理解し、協業や提案を進めたい場合、以下のアプローチが有効です。

(1)“バイヤーの社内事情”をリサーチする

単に「御社のために」提案してもうまくいきません。

バイヤー担当者の上司や評価指標、中期計画、社内稟議フローなど内部事情を把握したうえで、「あなたの上司も納得する」「今年度のKPIに寄与する」という点を訴求する必要があります。

(2)“お得な小ネタ”もあわせて提案

新しい協業の主旨だけでなく、現行コスト削減やリードタイム短縮、小さなアップグレードなど、バイヤー部門の“日々の実績”を作りやすいアイデアも提示しましょう。

実際に数字が残る成果を重ねてあげることで、社内説得材料にしてもらえます。

(3)ユーザー(現場担当者)との事前連携

購買部門だけでなく、実際に現場で「使う」人の意見や困りごとを事前取材。

「現場が欲しがっている案件」としてユーザー側からバイヤー部門にプッシュしてもらうのも有効です。

6. “デジタル化”を味方につけた協業推進の最前線

2020年代に入り、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の波が、重厚長大な製造業にも一気に押し寄せています。

業務デジタル化の名のもと、紙文化や属人的業務をなくし、部門の垣根を超えるプロジェクト型組織が増えてきました。

この流れをうまく活用し、“社内ブロッカー突破”の突破口にしましょう。

成功事例:社内DX委員会による協業プロジェクトの立ち上げ

ある大手自動車部品メーカーでは、「工場業務のDX化推進委員会」を発足。

エンジニア・製造・品質・調達など部門横断のチームを組み、サプライヤーとITベンダーを巻き込んだ協業を進めました。

社内上層部のコミットメントを得て「DX計画」の名で公式承認を受けたことで、従来の現場反対を押し切って、全社的なプロジェクトへ発展しています。

このような「公式の旗印」を活用することが、現場抵抗の突破口になります。

まとめ:製造業の未来を拓く「協業立ち上げ」の技術

製造業の大企業における“社内ブロッカー”は、単なる抵抗勢力ではありません。

既存システムを守る安全弁である一方、時に業界全体の停滞要因ともなります。

昭和から続くアナログ文化に新たな価値を生むためには、真正面からの突破ではなく、ラテラル(水平)思考を駆使し、時に“仲間づくり”や“外部の力”で変革を推進することが不可欠です。

本記事で紹介した「多角的な巻き込み」「小さな成功の積み上げ」「評価軸でのアピール」「公式化(制度化)」などのアプローチを、ぜひ自社で実践してみてください。

バイヤーにもサプライヤーにも、今この瞬間、現場から業界の未来を切り拓ける力があります。

停滞を突破する知恵と勇気で、次世代の製造業の新しい地平線をともに切り開きましょう。

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