投稿日:2025年7月4日

問題プロジェクトを未然に防ぐシステム開発リカバリ術

はじめに〜昭和のアナログ魂を活かしながらデジタル時代を生き抜く

製造業の第一線に身を置いて20年以上、数々のシステム導入プロジェクトに携わってきました。
「なぜうちの課は毎度本番稼働前後にトラブルが頻発するのか?」
「ベンダーやSIerとの打ち合わせが空回りして、知識の差ばかりが浮き彫りになる…」
そんな声を現場で数多く耳にし、また自らも苦い経験をしてきました。

高度成長期の昭和時代から、現場のカンや勘所が最優先されたアナログなものづくり。
しかし、時代は変わりIoT、AI、DXといったデジタルの波が押し寄せています。
そのなかで、システム開発・導入プロジェクトにおいて「問題プロジェクト」「炎上プロジェクト」が後を絶ちません。
本記事では、現場視点で身につけた実践的なリカバリ術を、経験知と業界動向を絡めて解説します。

なぜ製造業のシステム開発は問題プロジェクト化しやすいのか

典型的な課題パターン

製造業の現場でシステム導入が失敗しやすい理由には、共通したパターンがあります。

1. 業務ごとのプロセスや勘所が属人化している
2. 「ペーパーレス化」で単純に紙を電子に置き換える程度の安直な設計
3. ベンダー任せ、丸投げ文化
4. 全体像や目的が曖昧なまま進む
5. フロント(バイヤー/現場担当)とバックヤード(情シス・IT推進)が分断

こうした問題が積み重なることで「現場にフィットしない」「時間だけが過ぎる」「コストが膨らむ」といった負のスパイラルに陥ります。
アナログ業界であるがゆえの「現場ファースト」な価値観と、「デジタル変革」のギャップが最大の原因です。

業界特有の”文化的バイアス”

メイド・イン・ジャパンを支えてきた「現場主義」「ムリ・ムダ・ムラを許さない完璧主義」。
これが時にデジタル導入のブレーキとなります。
目的やユーザー目線を曖昧にした改革は「誰のためのシステムか分からない」状態を招きがちです。
昭和から続く文化が悪さをしているのです。

未然に防ぐための6つのリカバリ術

これまで数多くのプロジェクト立て直しや現場改革をリードしてきた経験から、特に重要な6つのポイントを紹介します。

ユーザー部門が主役でいる工夫

開発プロジェクトの最初から最後まで「ユーザー不在」は致命的です。
現場の声を吸い上げる「巻き込み型」のワークショップや、可視化・翻訳(チャート化、現場用語⇔IT用語の整理)が必要です。
要件定義もベンダーと任せきりにせず、必ず当事者部門の代表者が参加し意思決定に加わる体制をつくります。

「本質的な業務課題」にフォーカスした要件整理

紙を単にデジタルに置き換えるだけでは「使えないシステム」リスクを高めます。
真に効率化したい業務課題や、データ活用のゴール(品質向上、納期短縮、原価低減など)を明確にします。
「現場の困りごと」「なぜ?」を何度も掘り下げ、利益に直結する成果イメージを可視化し、要件に落とし込みます。

「小さく産んで大きく育てる」段階的展開

大規模・一発導入ではなく、業務の一部分から先に実装してスモールスタートします。
まずは現場と一緒に運用検証(トライアル運用)し、成果・問題点をフィードバック。
利用者とともに検証・修正する「アジャイル型」「伴走型」の進め方が壁に強いです。
これは昭和流の「見て学ぶ」「気付きの先回り」と同じ発想に通じます。

現場のカン・コツを形式知化する

紙の日報・手帳、ベテラン作業者のノウハウ。
今でも多くの工場で「属人的知見」が業務品質を左右します。
それを文書・マニュアル・QR動画などで見える化し、誰もが活用できる情報資産に変えます。
システム上でも熟練者の経験がヒント・注釈として組み込まれれば、研修や後進育成にも役立ちます。

ベンダー選びとコミュニケーションの最適化

安さや知名度だけでSIerや開発会社を選ぶと「提案力不足」「製造業理解が浅い」と痛い目に遭います。
POCや外部ヒアリングで本当に現場を知るパートナーか見極めます。
また、要件変更や仕様調整は早めに「なぜ?」を説明し、両者が歩み寄れる関係を構築します。
過程をすべてドキュメント化(議事メモ・版管理)することで「言った言わない」問題回避も大事です。

運用後こそ”定着・改善活動”が勝負の分かれ目

システム本番稼働は「スタート地点」でしかありません。
リリース後も週次・月次で利用状況のデータ比較や現場ヒアリングを実施します。
現場が使いにくい部分、効果が見えにくい部分を都度リリースで改善。
「使われてこそ価値」「継続的なチャレンジ」と現場目線で文化を醸成することが定着の秘訣です。

失敗プロジェクトから見えてくる3つの盲点

盲点1:合意形成・意思決定プロセスが非公開でブラックボックス

製造業では多階層組織で承認フローが複雑になりがちです。
現場・管理職・経営層、IT部門の間で得られた合意や指示が文書化されないことが最大のリスクです。
関係者全員に内容を「見える化」し、巻き込み力を高めましょう。

盲点2:既存業務プロセスへの愛着と変化忌避

「昔からこうやってきたから」「手元に置く紙の安心感が強い」など、変化への抵抗感は根強いです。
現場の価値観や心理的不安を言語化し、安心感を損なわず移行していく設計がカギです。
説明会・Q&A・定点報告など、対話を仕組み化しましょう。

盲点3:関係者のスキル・ITリテラシー格差

情報システム部門も現場も、人によってITに対する親和性や理解度は大きく異なります。
難解な言葉やフローはかみ砕いて伝え、「一緒につくる」「分かるまでサポートする」文化を根付かせましょう。

プロジェクトリカバリのための現場発・具体的アクション例

– システム開発初期に5S・カイゼン活動の現場リーダーを巻き込む
– 日々の「困った」をポストイットで可視化し、誰でも投稿できるアイデアボードを設置
– 朝礼や日報に新システム運用の気軽なフィードバック欄(デジタル・紙でもOK)を導入
– システム誤操作やトラブル発生時は「人を責めずプロセスを見直す」文化を徹底
– 成果が見える小さな成功体験を積み、現場に「やって良かった!」という実感を広げる

昭和流現場主義×デジタルで業界の未来を切り開く

製造業の歴史は、アナログな現場主義の連続的な小改善(カイゼン)と、時代ごとのイノベーションがバランスしています。
いまデジタル時代に本当に必要なのは、現場とデジタルのハイブリッド思考です。
真のDXとは、現場の価値観や文化をリスペクトしつつ、デジタル技術と調和させて新たな地平線を作り出すこと。
問題プロジェクトの芽を未然に摘み、現場のリアルと経営戦略との架け橋になっていきましょう。

まとめ〜製造業バイヤー・現場担当に伝えたいこと

・「現場無くして成果なし」。紙・アナログの良さも活かせるリカバリ術が必要です。
・要件定義から運用後まで「現場主役」の姿勢を貫きましょう。
・失敗経験から学び、変化を恐れず「小さく生んで大きく育てる」展開を実践しましょう。

以上のポイントを押さえることで、システム開発・導入プロジェクトの問題を未然に防ぎ、昭和の強み×デジタルの力で日本の製造業の未来を切り拓いていくことができるはずです。

読者の皆さまが「現場起点のプロジェクトリカバリ術」で、次の一歩を踏み出すヒントとなれば幸いです。

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