投稿日:2025年9月2日

サプライヤーとの共同在庫運用で消耗品の欠品リスクを防ぐ方法

はじめに:変化する製造業の現場

製造業を取り巻く環境は、今や劇的に変化しています。

材料・部品は複雑化し、調達先の多様化が進む一方で、グローバルサプライチェーンの分断や、需給変動の激しさといったリスクも高まっています。

中でも「消耗品の欠品リスク」は、生産現場に多大な影響を与えます。

とくに製造ベースで古くから続く企業では、昭和時代からの慣習やアナログな管理手法が今なお根強く残っており、欠品トラブルを繰り返している現場も少なくありません。

こうした課題に対して、サプライヤーと一体となって在庫管理を高度化し、リスクを低減する「共同在庫運用」が改めて注目されています。

この記事では、製造業で20年以上の現場経験を持つ筆者が、消耗品の欠品リスクをサプライヤーと協力して防ぐための実践的なアイデアと、その導入のコツを現場目線で解説します。

なぜ消耗品の欠品が起きやすいのか

消耗品在庫管理の現実

多くの工場では、MRPやERPといったシステム化が進む一方で、消耗品に関しては「現場担当者の勘や経験」に頼っているケースがいまだ多いです。

極端な例では、
– ノートに手書きで記録
– 担当者が棚を目視で確認
– 月1回の一斉棚卸しのみ

といった古典的な運用も多く残っています。

この結果、「まさか、今これが足りないとは思わなかった」「次の補充納品まで3日かかる」など、納期遅延やラインストップに繋がっています。

調達現場のジレンマ

バイヤー側にとっては、
・在庫量を抑えてコストダウンを図る
・しかし欠品は厳禁
という矛盾したミッションがあります。

特に近年では、DX(デジタルトランスフォーメーション)が叫ばれつつも、「棚卸しのたびにExcelで数量を更新している」「消耗品は毎月定量をとりあえず入れておく」といった運用になりがちです。

この非効率かつ属人化した仕組みによって、欠品・過剰在庫どちらも起こりやすく、現場のストレスになっています。

共同在庫運用のメリットとは

サプライヤーとの連携強化が生む安心

共同在庫(ベンダー管理在庫/VMI:Vendor Managed Inventory)は、サプライヤーとバイヤーが在庫管理を協力して行う手法です。

具体的には、
– 工場内または近隣拠点にサプライヤー管理のストック棚を設置
– サプライヤーが出庫・残量を把握し、必要に応じて自発的に補充
– 月末締めで実際に使った分のみ請求

といった運用が一般的です。

この仕組みの大きなメリットは、バイヤーが「在庫切れ不安」から解放され、現場も「適切なモノが、必要なだけ、いつも手元にある」安心感を得られることです。

サプライチェーン全体でリスクを見える化

サプライヤー側も、納品のタイミングや数量を自社の供給能力と照らし合わせて管理できます。

需給変動への即応性が高まり、
– 生産計画に基づいた納入計画の立案
– 商流・物流の最適化
– 需給動向を踏まえた生産予測

など、サプライチェーン全体の最適化が進みます。

また、現場との密接なコミュニケーションにより、従来の「納入して終わり」型の取引から、「共に現場課題を解決する」パートナー関係に昇華します。

共同在庫運用の導入ステップ

1. 管理すべき消耗品の棚卸し

まずは、どのアイテムを対象とするかの洗い出しが必要です。

– ラインストップを引き起こす重要品
– 調達頻度の高いもの
– 在庫金額が大きいもの
– 欠品による影響が大きいもの

これらを軸に、対象品目を選定します。

また、「現状の在庫回転率」「過去の欠品発生履歴」などのデータも分析材料になります。

2. サプライヤーとの合意形成

共同在庫の実運用には
– 管理責任(どちらが、どこまで行うのか)
– 棚の設置場所、運用ルール
– 補充サイクルや最小発注点の設定
– 請求タイミングや伝票発行方法

を明確にしておく必要があります。

「例年と大きく変わるオーダーが出てきた場合の連絡・調整プロセス」など、現場で想定される事態も事前に共有・ルール化しておくとトラブル防止になります。

3. IT活用による棚卸し簡素化

理想は、バーコードやRFID・IoTを活用した自動管理ですが、予算や現場のITリテラシーによっては「専用チェックリスト」「カメラによる残量確認」「LINEやメールで簡単な棚状況報告」など、現場になじむやりやすい仕組みを選びましょう。

小規模な仕組みから始め、徐々に拡張するスモールスタートがポイントです。

4. 運用後の定期見直し・改善

共同在庫を導入した後も、月次・四半期ごとに以下を振り返ります。

– 欠品・過剰在庫の発生有無
– 工場現場の使い勝手や作業効率
– サプライヤー側の運用負荷
– 改善要望や新たな課題

これらを定期的に情報交換・改善することで、双方にとってより良いオペレーションが実現します。

バイヤー・サプライヤーが意識すべきポイント

属人化の排除と手順の標準化

両者が共同で在庫を管理するということは、現場担当者個人の経験や勘頼りを排除し、「誰でも分かる手順書」「見える化された棚」「ロールプレイでの役割分担」を意識した運用が重要です。

組織・世代交代に強い仕組みをつくることで、安定したサプライチェーン運用が可能となります。

共通目標のすりあわせ

バイヤー側は納期・在庫リスクを最小化したい意向が強い一方、サプライヤー側は「不要な在庫投資」や「頻繁すぎる納品負荷」を抑えたいと考えています。

両者で「適正在庫量」や「補充タイミング」「在庫切れ時のアラート体制」について摺合せ、目線合わせしておくことが、最終的なwin-winの運用に繋がります。

共同在庫運用導入事例

自動車部品メーカーA社のケース

A社は年間数千種の消耗部品を使う中堅サプライヤーです。

従来はエクセルで在庫管理していたものの、定例の棚卸し時のみ数量を更新していたため、急な発注や思わぬ消耗で欠品がたびたび起きていました。

そこで主要サプライヤー3社と共同在庫運用を導入。

– 主要な消耗部品はサプライヤーが毎週訪問して補充
– 工場内に締切時間付きのストック棚を設置
– サプライヤーがバーコードリーダーで棚卸し
– 実際に使った分だけ月末請求

というフローに変更しました。

効果として、欠品件数が年間20件から2件へ激減し、担当者の発注業務コストも月20時間から4時間へ削減しました。

サプライヤー側も「計画的な納品」「最終ユーザーの使用状況の可視化」により生産見通しがたちやすくなり、両者に良い影響が出ています。

金型部品サプライヤーB社のケース

B社は従来、顧客からの発注都度、最短即日発送に対応していました。

しかし、繁忙期や特急案件が重なると欠品や納期遅延への負担が大きくなり、受注ロスも発生していました。

顧客と連携し「消耗品ベンダー在庫棚」方式を導入。

顧客工場に定数棚を設置し、B社担当営業が週次巡回で補充、ライン稼働状況からも現場でフィードバックを受ける運用に切り替えました。

この結果、欠品トラブルは消滅し、金型メンテナンス頻度やメーカー側の技術課題も可視化。顧客との信頼関係も向上しました。

昭和型アナログ業界でも実現するコツ

できるところから「一歩進めてみる」

「うちは文化が古いから無理だ」と感じる現場が多いのは事実ですが、共同在庫運用は決して最先端のITシステムが必須ではありません。

少なくとも、サプライヤー主導で定期的な現場訪問、携帯端末での数量報告、紙ベースでの運用記録からでも始められます。

現場の負荷を減らし、「棚卸しがラクになった」「納期問い合わせが減った」など、目に見える成果から徐々に賛同者を増やしていくのがポイントです。

現場担当者の巻き込み

在庫管理の肝は、実際に使う現場側の理解と協力です。

「欠品はどんなリスクになるのか」「なぜ現場チェックが重要なのか」「新しい運用で何がラクになるのか」をきちんと説明し、現場担当の悩みを吸い上げながら進めることで、運用フローが定着しやすくなります。

まとめ:製造業の次のステージへ

サプライヤーとの共同在庫運用は、消耗品の欠品リスクを劇的に下げる現実解です。

変化の激しい昨今、アナログ業界でも「管理の標準化」「現場と調達の巻き込み」「パートナー目線の連携」がさらなる競争力につながります。

「うちはアナログだから…」と諦めず、できるところから準備を進めてみてください。

今こそ現場力と調達力を掛け合わせ、より強い製造業を一緒に作りましょう。

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