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トラブルを起こさないための海外調達の進め方とサプライヤ管理およびその事例

目次
はじめに
製造業に従事する多くの方にとって、海外調達は魅力的であり、かつ避けて通れないテーマです。
コストメリット、安定供給、品質要求など、企業としての競争力強化においては欠かせません。
しかし同時に、海外調達には数多くのリスクとトラブルが潜んでおり、適切なサプライヤ管理がなければ大きな損失を招くことも現実です。
この記事では、実際の現場で起きやすい問題とその対策、そしてサプライヤ管理の実践的なポイント、実例を交えながら、海外調達でトラブルを起こさないための進め方を詳しく解説します。
なぜ今、海外調達が重視されるのか
グローバル競争の激化とコスト要求
近年、日本の製造業はかつてないほどグローバルな競争に直面しています。
国内市場の縮小、急速な技術革新、消費者の多様なニーズに対し、従来のやり方だけでは太刀打ちできません。
その中で、部品や資材の海外調達は「コスト低減」「供給源の多様化」「生産変動リスクの分散」など、多くのメリットをもたらします。
しかし安易なコスト追求だけでは、品質・納期・コンプライアンスリスクが高まることは言うまでもありません。
調達構造の変化と昭和型からの脱却
従来の「顔の見える取引」「阿吽の呼吸」に頼った調達方法は、海外では機能しません。
言語、文化、法規の違いを乗り越え、サプライチェーン全体の最適化を図るためにも、現代的なサプライヤマネジメントへの転換が不可欠です。
海外調達で起きやすい典型的なトラブル事例
納期遅延とその連鎖リスク
海外サプライヤからの部品調達で断トツに多いトラブルが「納期遅延」です。
船便遅延、通関手続きの属人化、現地の急な祝日・ストライキといった予測しづらい要因で簡単に数日~数週間の遅れが発生します。
日本の厳密な生産スケジュール・カンバン納品に慣れたバイヤーや生産現場にとっては、工場ライン停止など深刻な影響を及ぼします。
品質問題と是正対応の遅れ
海外調達品は仕様書通りの品質を保つことが重要です。
しかしサンプル段階では優れた品質だった部品が、量産切替え後に突然不良率が急上昇したり、改善指示が現地サプライヤに伝わらず同じミスが繰り返されたりすることがよくあります。
これには「品質文化」の違い、「なぜなぜ分析」など改善アプローチのギャップ、工程管理レベルの差が大きく影響します。
コンプライアンス・サプライチェーンリスク
一見して問題なく見えるサプライヤでも、「未認可材料の使用」「児童労働」「下請法違反」といった法令順守違反が発覚することもあります。
これは発注元のブランド価値・社会的信用を一瞬で失う重大リスクとなります。
また、コロナ禍や戦争などの地政学的リスクがサプライチェーン断絶(サプライチェーンリリアンス)をもたらす要因となりつつあります。
トラブルを防ぐ海外調達の進め方
徹底的なサプライヤ評価の実施
サプライヤ選定は調達購買部門だけの仕事と思われがちですが、実際は多部門の協働が不可欠です。
工場長・生産管理・品質管理・エンジニアを巻き込んで「工場監査(Factory Audit)」を事前実施しましょう。
評価ポイントは
– 設備能力
– 品質管理体制
– 適正な労働条件
– 法令順守状況
を中心に「現場を自分の目で確かめる」現地主義が失敗を避ける最大のポイントです。
契約書・仕様書の厳重な策定
日本の中小企業では未だ「注文書1枚」「口頭約束」「FAXのみ」といった、昭和スタイルの商習慣が根強いケースがあります。
海外では必ず詳細な契約書・仕様書を作成し、現地語・第三者機関も活用して法的拘束力を担保することが必須です。
特に品質クレーム対応ルールやペナルティ条項は曖昧さを排しましょう。
品質監視と継続的な現地対応力
初回取引時だけでなく、納入部品の抜取検査や定期的な現地監査を継続することで、トラブルの芽を早期に摘むことができます。
現地サプライヤとビデオ会議だけに頼らず、社内の多部門でローテーションによる現地出張体制を築くのも一つの方法です。
抜き打ち監査や外部コンサルタントの活用も近年増えています。
サプライヤ管理の実践的ポイント
ベンダーランキングとリスク分散
重要サプライヤを「ABC分類」や「ランク管理」することで、重点監視対象を明確にします。
さらに、1社依存を避けて複数のサプライヤを平行活用するリスク分散(デュアルソーシング)も積極的に導入しましょう。
失敗事例として「中国サプライヤのライン火災で主要部品が全滅し、数ヶ月出荷停止」という事態は度々起きています。
サプライヤとのPDCAサイクルの共有
単なる「発注・納品」だけの関係では、トラブル発生時に本質的原因を共有できません。
進捗報告会・定例品質ミーティング・工程改善ワークショップ等を継続的に実施し、PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Act)の仕組みを一緒に推進することが鍵です。
この際、資料や報告書は日英(または現地語)によるバイリンガル化も実務上有効です。
現地文化・価値観の理解と信頼感の構築
「日本流のやり方」をそのまま海外サプライヤに押し付けると、反発や形だけの遵守(コンプライアンス違反の温床)になります。
たとえば中国やタイの工場では、人間関係を疎かにせず現地担当者との信頼関係が重要となります。
現地祝日や慣習、宗教行事なども日程計画・生産計画に織り込むべきです。
実際にあった海外調達トラブルの事例と教訓
事例1:インド部品サプライヤでの納期遅延と現場監査の効果
某自動車部品メーカーでは、インドの現地工場からの部品調達で納期遅延が頻発。
原因は現地労働者の突然のストライキと、品質問題の対応を怠ったことでした。
現地日本人スタッフを常駐させ、QC工程表の再構築・適正なインセンティブ制度の導入などで、半年後には遅延率が80%改善しました。
この事例では「現地との密着した対話」「柔軟なローカライゼーション」が突破口となりました。
事例2:東南アジアサプライヤの不適合材料混入と監査のポイント
家電部品をタイから調達していた企業で、RoHS非対応の材料が混入。
輸出先の欧州市場で指摘され、約1億円のリコールコストが発生しました。
事件後、海外材料メーカーも巻き込んで原材料トレーサビリティと「抜き打ちサプライヤ監査」を徹底。
未然防止体制を強化しました。
この教訓は「現地サプライヤだけでなく、材料元まで監査する」「初回監査のみで油断しない」点が重要だということです。
昭和から抜け出せない日本の調達業務の改善策
デジタルツール活用と見える化の推進
調達現場での一番の課題は「情報の属人化」「勘と経験だけでの判断」です。
最近では調達・品質・納期の進捗を一元管理できるクラウドERPやサプライチェーン管理システム(SCM)の導入が進み始めています。
また、電子受発注・AIによる異常検知・チャット形式の多言語やりとりなど、昭和的なFAX・Excel運用からの完全脱却が急務です。
バイヤー教育と多能工化
海外調達を成功させるには、単なる英語力・交渉力に加え「現場を知る」「品質・生産管理の知見を持つ」多能工的バイヤーの育成が重要です。
現場工場のOJTや海外工場での研修プログラムも積極的に導入しましょう。
サプライヤ起点で考える“バイヤーの目線”
サプライヤ側が失敗しがちな点は「バイヤーが何を重視し、どこにリスクを感じているか」を想像できていないことです。
サプライヤとしては
– なぜその仕様が求められているのか
– 品質監査で求められる資料の背景は何か
– 品質異常を放置した場合、どれだけの損害が発生するか
といったバイヤー視点でのリスク感覚を共有し、自発的な問題解決型アクションを習慣化することで、長期的な信頼関係が築けます。
まとめ:海外調達の新時代に向けて
グローバル競争の激化、サプライチェーンの複雑化、リスクの多様化に直面する今、従来型の「丸投げ調達」では太刀打ちできません。
実践的なサプライヤ監査、継続的な品質管理、多能工バイヤーの育成、デジタル活用による見える化、現場力と現地適応力の融合がますます大切になります。
「現場目線」と「グローバル標準」を両立させることで、海外調達のリスクを最小化し、製造業の新たな成長につなげていきましょう。
サプライヤ、バイヤー双方が互いの立場や期待値を深く理解しあう“共創”のマインドが、これからのサプライチェーン競争力の源泉となるのです。
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